第7話 あさみの願い
夕食を終えたあさみは、「ござる丸」を見た後、自分の部屋に行った。
学習机もマットもカーテンもピンクの色調で統一された部屋だ。あさみがすべて選び、小学校に上がる前の春に両親が買ってくれたものだ。
訪問した友達が必ずと言っていいほどうらやましがるこの部屋を、あさみはとても気に入っていたし、少し自慢に思っていた。
そして今、窓際の壁にはもらってきたばかりの笹がある。扇風機の風でわずかにゆえて、今にもサラサラシャラシャラと音を立てそうだ。
今日はいろんなことがあったな、とあさみは思った。
おじいちゃんとおばあちゃんも昔は若かったのだ。当たり前なのだけど、すごい発見だと思う。
二人はあんな素敵な恋をしていたのだ。
それに、二人とも夢を持っていて、それを追いかけてついには実現したのだ。
夢を叶えるとは、なんて素晴らしいことなんだろうか。
あさみが毎月読んでいる少女マンガ雑誌「はっぴー」には、アイドルやプロのスポーツ選手を目指すマンガがいくつも連載されていたが、二人の現実の方がマンガよりもすごいことのように思えた。
同じように、「はっぴー」には片思いでドキドキしたり、遠距離恋愛でつながった少女と少年のマンガも載っていたが、これも二人の恋にくらべたら大したことのないように思えた。
そうか、二人は昭和の織姫と彦星だったのだ。
本物の織姫と彦星なのだから、マンガのお話が敵うわけがない。
あさみは、若い頃の二人の顔を想像してみたりした。祖母は今もかわいらしい感じの人だから、若い頃はもっとかわいかったのだろう。祖父だって、日焼けしているけれど、高い鼻ときりっとした眉は昔はさぞ、イケメンだったはずだ。
そんな二人があさみの祖父と祖母なのだ。
あさみは誇らしく思った。目を閉じ、今日二人から聞いた、昭和の七夕物語を思い出してみる。
七夕は来週だったけれど、願い事を書くことにした。あさみは、引き出しから油性マジックを取り出す。
学校の短冊にはこんなこと、書けないけれど。
せっかく自分専用の笹が手に入ったのだ。このチャンスを逃してはならない。
絶対、叶ってほしいから本気の願い事。
色紙で作った短冊に、あさみは大きな字で迷わず書き入れた。
『あさみだけの彦星が現れますように』
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