第2話 綾子の手紙(2)
もしかしたら私は、自分の弱さや未熟さを昔から心のどこかで自覚していて、何かを守れる人になりたいと思って、この仕事を選んだのかもしれません。
工房に入ってくる職人見習いは年々減っています。こうしてめまぐるしく変わっていく社会だからこそ、変わらないものを大事にしたいと最近は切に感じます。
大事にするためには、まず私。私が強くならないと。
一気に書いたら、何だか楽になりました。自分のことを書くだけ書いてスッキリするだなんて、勝手だよね。でも、清ちゃんには何でも話せるような気がするのです。
清ちゃんは、大学は楽しいですか? 友達たくさんできましたか? 勉強大変じゃありませんか?
……ああ、でも昔から優しくて成績の良かった清ちゃんだから、そんなことは要らない心配ですね。
でも、一つだけ言わせてもらえることがあるとしたら、私はやっぱり一年前、清ちゃんが「牧場を継がない」と言っていたこと、あのことだけが気になります。
私は、あの時安易に「代々受け継がれている家業があるのは素晴らしい」なんて社交辞令みたいに空っぽなことを言ってしまったことを後悔しています。そんなところに、清ちゃんの心を決められるものは何も無いって分かっていたのに。
ただ、私は清ちゃんの家の牧場が本当に好きだから、どうしても言わずにはいられなかったのです。
けれど、結局決めるのは清ちゃんだから。
私は清ちゃんが自分の意志で選択したことなら、その結果がどんな風になろうと構いません。
今清ちゃんが選んでいる道が、清ちゃん自身で選んだことを、そしてもしそうじゃなかったとしたら、これから先清ちゃんが進んでいく道が、清ちゃん自身で選んだものでありますように、と、そう願っています。
いただいた便箋がもう最後になってしまいました。
今度仙台に帰ることができるのはいつになるのかはまだ分かりません。
来月の七夕祭りには行きたいのですが、仕事が忙しいし、こうして体調を崩してお休みまでいただいてしまったので……。
もし帰れたら、お祭り、一緒に行ってくれませんか。
それでは、くれぐれも体には気を付けて。
草々
追伸 清ちゃんの恋人、チェルシーは元気ですか?
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