第15話 彼女達が“腐っている”ところ(消費期限切れです)

私達が無事、カーマイン候の陣中見舞い(これは今までの諸々の経過報告を含めて)を済ませて戻ってきた時、なぜかキサラギが私に泣きついて来た……


「どうしたの?キサラギ―――」

「サツキ、聞いてくれえ~~~エ、エルフは本当は怖いんだ!」


何を言っているのかしら?この人は……


しかし珍しい事もあったもので、普段から武の事にだけ追求し戦場に於いても実に寡黙で与えられた指示や伝達、任務を着実にこなす優秀で頼りになる人……のハズだと思ったんだけど―――

それが…………エルフ?エルフと言えば身近にいるのはあの2人だけ、それが『本当は怖い』だなんて。


「あらあら、それは大変ね。」

「“サラッ”と流さないでくれえ~!お前は知らないだけなんだ!本当はな?あのエ…………」


し―――視線を感じる?!これは……“彼女”のものだ!!


そう思っていたら案の定、後ろの壁から私達のやり取りを見ている影が!!(正確にはキサラギだけを見つめています)

その“熱”の籠った視線を感じると流石に身の危険を感じずにはいられなかった為もあり、それと今日の事も含めてサツキに報告をしようと思ったのだ。


「『あのエ』?『あのエ』って何です?」

「いや、あの……これには深ぁい事情が―――だから後で今回の事を含めて報告したい。」


今回の事―――冒険者ギルドでAランクのクエストを遂行する事は知っていた、しかしそれで『エルフは本当は怖い』には繋がってこない、無理矢理繋げるとしたならそのAランクのクエストで余程の事があったのだろう…それにキサラギは私が認める強者の一人だ、そのキサラギをして『本当は怖い』と言わさしめるなんて……


もしかするとエルフには私達も知らない“秘密”があるのかも―――と、半ば期待はしていたのですが……


「じ、実はな……お、お、お……落ち着いて聞いてくれ?」

「私は落ち着いています。 と言うより落ち着きがないのはあなたの方よね?」

「そう言われてはむべもない……いや実は―――あのエルフの妹の方……リルーファは“変態さん”だったのだ!!」


「……。」


「(あら?)聞いているのか?サツキ!!」


なあーーーんだ、そんな事か……心配とか期待とかして損をしちゃった気分だわ。


「ちゃんと聞こえています。 それよりどう言った事?リルーファが“変態さん”だなんて。」

「いやだって、クエストをクリアしてギルドから戻る時、皆でお風呂に入った時にな?」

「それは好い事じゃありませんか、それに彼女はグラナティス公が抱えるプレイアデスの一人……これを機会に彼女の事をよく知っておくべきなのでは―――と、私は思うのです。」

「えっ?いや……あの、その……そう言う事じゃなくてだなあ!?」

「じゃどう言う事なんです―――」

「私も最初は……リルーファもエルフなのだからとそう警戒はしないでいた、なにより私達が知っているエルフとは知っているイメージの範疇を超えないものだったからな、だがリルーファだけは違っていた……入浴する際には裸になるよな?するとリルーファのヤツは……私の裸を……“まじまじ”と見つめ、あまつさえお触りしてくるのだあぁぁ~~!!」


「…………。」


「(あれ??)サツキ??」

「いいじゃないの、減るもんじゃなし―――それが彼女の望みと言うのなら見せて上げなさいな、触らせて上げなさいな、それで彼女が満足いくのなら構う事ないのではありませんか。」

「そ!そんなあ~~~……」

「それより今、私はそれどころじゃないのです。 今回の(私の方での)出来事……カーマイン候にこれまでの経過報告と、これからオプシダン様と清く正しい交際をする許可を取ろうとした事を、あなたには前もって伝えましたよね。」

「えっ、あっ……ああーーー」

「それが何故か……何故かっ!“お邪魔蟲”が2人も!! 1人はもう説明不要だと思います、そう……グラナティス公が私の目論もくろみを察知し闖入ちんにゅうしてきたのです! そしてあともう1人は……なんとカーマイン候、オプシダン公、グラナティス公の『恩師』なる者が!!その事を知った時、私は『これはチャンス』だと思ったのですが……なんとまあ、この『恩師』のロリばあさんはどうやら出歯亀体質みたいでしてねえ……(くどくど)」


私の……話しが……届いていない―――のはそう言う事だったのかああ!? 確かにサツキはこの日が来るのを待ち望んでいたものなあ~~~それは邪魔をされたら不満が噴出してくるものか、いやだとしても―――だよ、これから先リルーファとどう向き合って行けばいいのか……私には判らんッ!!


        * * * * * * * * * * *


そう言った騒動がオレの知らない処で勃発していたり―――するのだったが、そう言うのは基本オレのやりたい事、希望している事に抵触しなければ何ら問題はない。

それにオレの固有能力ユニーク・スキル目当てで近づいてくるヤツらも少なくなかった為(主にヴィリロスやらグラナティスやら)、ああ言うのには慣れているはずだったんだが……


「(はあ~~~実際、若い娘からの告白めいた事にはドキマギするよなあ…)それに疲れるんだよ、ああ言うの……疲れたからひとっ風呂浴びてスッキリするかあ~」


するとこの時オレは、自分自身が盛大な『フラグ』を立てている事に気付いていなかった、それというのもこのオレの“ボヤキ”にも近い独り言を聴いていたヤツがいたのだ。


それは紛れもなく…………


「あのぅ、だったら私がお背中流してあげましょうか?」


ン? てっきりオレはサツキさんがそう言ってきたものだと思ってました、それはそうだろう…カーマインのヤツの陣中見舞いした時にでもグラナティスが闖入ちんにゅうしてこなかったら非常事態宣言が出てもおかしくなかったのだ。

{*つまり、先んじて言っていた通り、サツキはこれを機会にオプシダンとの“お付き合いをする許可を、元の主上であるカーマイン候に奏上し、世間的にもそして恋敵にも正々堂々とアピールしようとしていた。 しかしこれはこれでオプシダンも気付いていた事ではあり、だから彼はサツキからの告白を(カーマイン候の前で)キッパリとお断りしようとしていたようである。}


しかし天はオレを見離していなかったのだ…今回の事はグラナティスのヤツに感謝しているし、それは突然天から降って湧いて出たロリばばあにも感謝する処だ。 まあ…あの2人のお蔭もあって、サツキさんの策略発動を未然に防げたのはなんにしても重畳の至りだったわけなのだが……残念ながら、今のセリフはサツキさんではなかったのだ。 では誰なのか―――?それは、オレの豪邸に住まう同居人達の中でも最年少(???)である―――


「リルーファ?いやでも……」

「あれえ~?ひょっとしてダンさん、私の事を“女性”と意識してくれてるんですかぁ~?」(ニヤニヤ)

「いや、そんな事はない―――リルーファはあの4人の中でも一番若いんだしな! ただなあ~~~」

「(……)あの~~~私ってそんなに“幼く”見えますぅ? なんかちょっと傷付くなあ~~~」

「いやまあ、オレもエルフの特性と言うものは知ってるよ?年齢―――というか生きてきた時間とその見た目にギャップがあるっていうのはさ。 けどーーーそれでリルーファが傷付いたら謝るよ、ゴメン。」

「じゃあさあーーー一緒にお風呂に入ろうよ、それだったら許してあげる。」


…………ン? なんかちょっと待てよ?? 今のこの娘のセリフどこかおかしくないか???


それもそのはず、あのサツキさんでさえ『オレとの混浴』は言ってきていないのだ、それをサラリと言ってのける事が出来ると言うのは、やはりこの娘が見た目では“若い”(決して“幼い”ではないので念のため…)から、オレの方でも一時いっときの気の迷いがあった―――と言うべきだろうか。

まあとどのつまり一緒に入浴していい事を許可してしまったのである。(但し若い娘の裸は老体にも目に毒なので、両目を布で覆わせてもらっている。)

うむ、これで準備万端―――万が一間違いがあった(“ポロリ”だよね)としても、理性が制御不能―――やがて暴発することはまず、ない。(そう信じている。)


しかし―――しかし…なのだ、オレは“若さ”を侮っていた! そうだ、とどのつまり今のオレは布で両目を塞いでいる!と言う事は前がよく視えていない……と言う事は、自然と“誰か”に誘導して貰わないといけないのだ! それにこの時の“誰か”も言わずと知れた事……オレの手を引くやわっこくてふわっとした感触―――こ、これってリルーファの手だよね!?


「ダンさんどうしたの? もう顔紅いよ??」

「いやははははは…オ、オレ実は暑さに弱くってさ。」


イキナリ図星を衝かれてしまい、なんだか訳の分からない弁解に入ってしまったオレ―――そんなオレの表情を伺う事無くバカみたいにただっ広い大浴場を、老人(オレ)の手を引いてくれる孫娘の様な存在―――うん、なんかゴメンな?リルーファ…一時的にでもお前の事を疑ってしまって。


しかし―――それは緻密に計画されていたリルーファの目的であった事に、オレは気付く由もなかったのだ。


         * * * * * * * * * * *


「そう言えばーーーダンさんとこういう風に一緒にお風呂に入るのって初めてだよね~。」

「ああまあそりゃあな。 大体オレとお前とは性別違うし……だから最初に取り決めたんだろ。」

「あーーーそんな事もあったよね~~~」


などと言う会話をしながら、甲斐甲斐しくもオレの背中を流してくれるリルーファ。 一見するとかわいい孫がおじいちゃんをいたわっている場面にも見えなくもない。


なんだーーーオレの取り越し苦労だったか……


「けど―――やっぱ服の上から見るのと、実際の筋肉を見させてもらうとでは印象が違ってくるよね。」


ン???何を突然……この孫は言い出したりするんだ? だが、が本来のリルーファの目的だったのだ……


「……リルーファ?」

「実はこの前さあ、キサラギさんと一緒にお風呂したのね。(この時点で姉アリーシャの事は軽くスルーされている) そしたら…キサラギさんて私の中での“女性の理想”だったんですよぉ~で、ね?だったらやっぱりーーー“男性の理想”はダンさんかなあ~~~って。」


なんだ?この孫娘は……一体何のことを言っている!!? いやだがしかし、オレは気付いてしまった―――最悪な事に、“今”と言うこの時…そう、限りなく至近距離に『(筋)肉フェチの女の子』がいる―――って言う、『まさに今そこにある危機』を゛!!


「な、なあーーーおい…ちょっと、ちょっと待とうな?リルーファ……お互い冷静になろう。 な??」


「え~~~私ずっと冷静ですよぉ~~~?」(ハアハア♡)


冷静じゃねーだろ!その(興奮した)荒い息遣い!! オレは判る……オレは判るぞ!例え両目を布で塞がれていても!! 甘かった……オレはなんて大甘な野郎だったんだ!

この現場はまずい……この現場を誰かに見られでもしたら―――


「(えへえへ♡)わあ~~~ダンさんの背中の筋肉ゴツゴツしてるぅ~♡まるで岩みたい~~~♡ そぉーれにぃーーー」


え゛っ……何この感触―――今オレの背中に当たっている、“ぷにぷに”として、“ぽよよん”としつつ、確かな弾みがある2つのモノはあああっ!!


「えへへぇ~~~私って見た目より結構あるでしょ?」

「あ……“ある”つてナニが??」(苦し紛れ)

「あれれえ~?それを女の子の方から言わせちゃうんだあーーーダンさんって結構ヤらしいねっ。」(クスクス)


はっっきりと言おう! ええっとこの娘―――なんだっけ?何と言ったっけ!?……ああそうだ思い出した!『小悪魔』だ!!

その当初はオレに関心が無いように見せといて、その内だんだん興味を抱き始めたら豹が獲物を狩るようにそろりそろりと近づいてきて―――獲物が隙を見せた時に一気に!!

や、止めろーーー止めろぉおお!止めてくれええーーー止めるんだああ!! オレに(背後から)密着するのはぁあああっッ!!!

もう……オレは限界だ―――割と限界に来ている。(理性が) このままリルーファがその“たわわ”なモノを押し付けてくるのを止めない限りは、いつかオレの理性が制御不能となり―――やがて暴発シテしまいかねん……


「ふぅ~ん……まだこれでも耐えられるんだーーーなら、“こう”ならどうだっ!!」


あああぁぁ……い、イカン―――じょ…徐々に頭の中が真っ白になっていく…やがて総てが“真っ白”になってしまったその果てには―――


「ふふふ……それにしてもやるではないか―――リルーファ。 魔王族の端くれのオレをここまで追い込むとは……ッッ!! だがッ……!このオレにもプライドというものがある、まあ言った処で安っぽいものだがな。 そんなオレが若過ぎるお前にこんな事で屈してしまうのは、オレの男としてのプライドが許さんのだ!!」


「(!)私が……“若過ぎる”? ふぅん……ダンさんて私の事をそう言う風に見てくれてたんだ。」

「(ン? あ、アレ?)な、なんか失礼な事言ったか?」

「(…)ううん―――“逆”だよ、ちょっと嬉しいかな。」


う~~~~ん??時々だが、若い娘の言う事が判らない時がある。 今のリルーファのにしてもそうだ、一体この娘が何を言わんとしていたのか無駄に年を食い過ぎたオレにしてみれば判るわけがない、とは言えここでリルーファからの“押し付け”攻撃は終わった―――てなわけで、ホッと一息安堵吐く……


「リルーファはここかあ!この私に相談の一言もなくオオオオプシダンと混浴するとは……ウラヤマ―――いや怪しからんヤツめ!!」


げ!この声はグラナティス!! こいつは目に毒だ!!! いや、というより―――こいつの存在自体こそが毒そのものなのだ!!!!

それというのもオレは知ってしまっているのだ、こいつの爆れつダイナマイツなボディの事を! 確かにこいつの3サイズは、かつてカーマインのヤロウから皮肉られたようにオレ好みのモノだったのだ。

その本来ならもうとっくにこいつと引っ付いて子々孫々を増やすだけ増やしまくっているハズ―――なのにそうなっていないと言う事は“そう言う事”なのだ。

こいつの決定的な難はその性格にある。 普段から何も喋らず淑やかそうに振舞っていたら数々の男性魔王諸君から求婚されてもおかしくない―――オレが言うのも何だがそれほどの美貌の持ち主なのだ。

ただなあ~~~その性格がなあ~~~災いというか、その性格のお蔭で今では悪い虫でさえ寄り付かないと言うか……そんなこんなで可哀想なヤツではあるのだ。


ただ―――『まさに今そこにある危機』は過ぎ去ってはいなかった……


「なにをドサクサに紛れて―――それに既に戦闘態勢に入っている(もちろん全裸)とは…」

「ふふン―――当然だろ! なにしろこの身体こそは私の唯一の取り柄!オプシダンも認めてくれたナイスなバディなのだッッ! そこへ行くと君の発育は発展途上と言った処かなぁ~?」(ニヤソ)


この声……ってもしかしなくってもサツキさんだよねえ? しかも要らんグラナティスの解説の所為でどう言う状況になってしまっているのか想像できてしまったああ!

ここにいる4人は全員全裸! しかも男性はオレだけで残りは全員女性と言う、世の男性諸君からしたらウラヤマな展開が!!


「あ゛~~~なんだか呼び込んでしまいましたねーーー私からしたらどの辺までダンさんを攻略したら落とせるか……姉ちゃんの為を思ってやってた事なんですけどね。」

「え゛っ?だったらあの“押し付け”攻撃―――って、ナニ??」

「ナニ……って、姉ちゃんの方が私よりじゃないですか、だからどの程度強く押し付ければダンさんの理性弾けちゃって姉ちゃん襲うかなあ~~~って。」

「オレ……お前の将来が怖いわ。」



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