第11話 秘匿(かく)されたされた刃

「(!!!)…………~~~~ヤヨイ?」

「えっ―――?」

「そんなバカな……?ヤヨイがどうしてこんな処に……」


それはショッキングな事実だった、それというのもオーガであるサツキさんにキサラギが、以前に話してくれた事のあるブリガンティアとの交戦の際に『勇者』の一人として現れたのがブリガンティアに攫われた彼女達の友人の名だったからだ。 それにしても酷い事をするものだ、いくら戦争とは言え敵国の人間を攫いその者の故郷を襲わせるように仕立てるなんて。 これだから嫌なんだよなあーーー“上級”って、それに今回の事に関しオレはブリガンティアの事を『酷い事をする』と言ってしまったが彼等ばかりを非難するつもりはない、何故なら前線で戦う“上級”の魔王達も似たような事をしているからだ、しかもこうした“負の連鎖”と言うものは断ち切れない事を判ってしまえてもいる為、オレは“上級”にはなりたくなかったのだ。


ただ―――…


この子が例の―――だからこそ、か……驚き様も半端ない、それもそのはずか、彼女達の中では最も親しいとしていた同年代の子が数日会わないだけで自分の命を狙う刺客と化したのだ、無論その事は批難は出来はしても決して“悪”ではない我々魔族も似た事をしているのだからね、だからと言って―――

「“アステロペー”これは一体どう言う事か、説明を…」

「その事なのですが―――領主様、実は私達も事情はあまり詳しく判っていないのです、私達とオプシダン公様が近くの森で旬の味覚の採取をしていた時、本当に偶然に彼女が行き倒れているのを発見して……」

「そこで私が確認をしたところ、確かに額に二カ所を発見しまして、そこで急遽私達の“姉妹”にわたりをつけた次第であります。」

「(……ふう)現状は、そこまでか……まあよくやってくれたと褒めるべきだろう。」


今更ながら思う事がある―――なぜ領主様であるグラナティス公は“上級”の道を選ばれなかったのだろうかと、だって今のでさえもほんの少しばかりみせた雰囲気も近寄り難さを感じたのだもの……あの時―――私の“名”を呼んだ時、私の失策を怒るのではないかと心配をしたけれど領主様は事の経緯がどうしてこうなったかを知ろうとした―――だから私は……いやは包み隠さず見た事だけを正直に話したのだ。

確かに敵の民を鹵獲して敵国を襲わせるのは、人道的にはどうかとしても戦略的にはよく出来ていると言わざるを得ない、とは言え……バカな事をしたものだ、私も久々だが領主様のあんな表情を見た……見てしまった。 確かにブリガンティアにしてみれば行き詰まりを見せていた対外政策―――カーマイン候領への侵攻の起爆剤と考えていた節もあるのだろう、だが……この地―――オプシダン公やグラナティス公、更にはカーマイン候領で軍の総司令官をしていたサツキがいるとは思わなかったのだろうか、カーマイン候領の領民である角を取り除かれたオーガをこの地に派遣してきた意図……薄々ながら判って来たが、今はまだ“その時”ではない―――


ヤレヤレ―――どうやら面倒臭い事になって来たみたいだわ、これだからイヤだったんだよなあ~~~それに親父からもよく言われてたもんだよ、『落ちているものを拾うもんじゃないぞ』ってなあ。 んで、行き倒れちゃったーーーオーガ?を拾っちゃった所為で面倒臭い事に巻き込まれるんだろうな、それというのもだ、グラナティスのヤロウ……なんなんだあの表情、“下級”で最も奥まった地に引っこんでいやがる癖に“上級”並の表情をしやがるなんて……大体だな、あいつが“下級”の魔王になるだなんて聞いた日には一体何の冗談かとさえ思ったものだ、だってさあ……あいつ、学問はもとより戦闘の実地でも常に上位クラスだったもんなあ~…え?オレ??オレはまあーーーあまり目立たない様に“中”の上や“中”の下を行ったり~来たり~と…ええそりゃもう目立って有名にならない様に努力したもんよ、けどなあーーーなんでかなあ……卒業する折に“首席”―――って、何の嫌がらせだったんだか。


          * * * * * * * * * *


それはそれとして―――行き倒れたオーガのヤヨイを保護して幾日か経った頃、ようやく回復したものか……


「(……)ここ―――どこ……?」

「あっ、気が付いた。 皆を呼んで来るね。」

「えっ、あの、ちょっと……」


私が気が付いて目を覚ませた時、そこは見知らぬ建物の中―――私のすぐ近くには見た事もない“長耳”……この人ってエルフ?そう思った時、そのエルフの少女は私が気が付いた事を他の人に知らせる為その場からいなくなった。


それにしても……どこなんだろう―――ここ……


そうした私の心配をよそに、間もなくして複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。


「おお!元気になったようだね、うんうんいや良かった。」

「心配したんだぜ?何しろこっちから呼びかけても反応すらしなかったんだしなあ。 もしかすると“死んでる?”なんて思ってたけど―――それだとオレが殺したと思われちゃ聞こえが悪いからさあ。」

「何を言うか!縁起でもない……しかし助かって何よりだ。」

「大丈夫だよ、ここには魔王族の人も私達エルフ族の人もいるけど皆で肩寄せ合っているんだから。」


総勢で6名……エルフが2人と、魔王族?!……が、2人と―――それと……


「オーガ……?」


オーガ2人……けれど、その2人は決して私と目を合そうとはしなかった、なぜなんだろう……けれどそうした心配をよそに私が回復した事のお祝いの席が催された。 その席には当然あの4人と―――そしてあのオーガの2人も……けれど私の席とは程遠い席に収まり他の4人とは違い黙って静かに“ちびちび”とやっている。


何か私、あの人達の機嫌を損ねるような事でもしたかなあ……


すると、そうした雰囲気を見かねた魔王族の男性が―――


「あのさあ、どうしたの君達……もっと“ワイワイ”やろうよ―――ホレホレ~♪」

「(……)仕方がありませんね、―――私サツキといいます。」

「キサラギだ、。」


“サツキ”―――さん……に“キサラギ”―――さん??? あれ……?どこがで聞いた事のあるような……??

しかし―――角を失くしてしまっていた私には彼女達の事を思い出す事などなく、けれど彼女達の名を聞いた途端、激しい電流が脳の内を迸った感覚に陥り……

「ううぅっ!い……痛い……ッ!ああ、頭が……割れる……ようにぃっ!!」

「ヤヨイ―――ヤヨイ!!」

意識が遠のく間、私の名を叫ぶ声がした……それは懐かしくもあり、また―――…


          * * * * * * * * * * *


「気を―――失ってしまったか……済まないねサツキ、君には辛い場面に役目を担わせてしまった。」

「いえ……私達2人が背負うは、所詮は“血の宿命”―――最悪の事態を常に考慮し、その中でも最善の一手を模索しなければなりません。」

「よく言った、それでこそカーマインが抱える随一の軍師殿だ。」

「ですが……今回の事でよく判りました、所詮私は未熟者―――本来ならば最悪の事態……今回の様に私達の郷里から攫ったオーガを、私を襲わせる刺客に仕立て上げることまでを考慮しなくてはならなかったのです。 その事を怠ったために私は対応が遅れ……結果カーマイン候の領地は僅かながら削られてしまいました、ですから……私の事を“随一”の―――だなんて!!」

「君の悪い処を一つ上げるとすれば、自分への過小評価は良くない、君はもっと誇るべきだ、君の才を……」

「ですがっっ!私が至ってさえいればヤヨイも辛い目に遭わなくても―――…」


その時私は息を呑んだ―――私の前に立っている……その方こそは私の為に……私の為に憤ってくれていた、そのサマは生来の紅い髪を……そして紅い眸を、まるで盛る火焔の如く光らせていた、そこで私は思い知ったものでした、この方こそはまさしくの魔王の頂点に君臨すべきなのではないだろうかと。

「グラナティス公……?」

「我慢の限界だ―――もう私の堪忍袋の緒にも限界が来たようだ、聞こえていたね?“アルキュオネー”」

その“名”を耳にして、“はた”と気が付く―――そうだ、彼女達はこの方の……

「はっ―――」

「他の“プレイアデス”達に経過の報告をしたと思う、それで…他の者達の反応は。」

「“マイア”はすぐさま“エーレクトラ”と共にチームを組み、現在前線となっている地に馳せ参じる模様であります。」

「“ターユゲテー”“ケライノー”“メロペー”の3名は『ヴェルノア』『アントラース』『ヴァレリア』にて懸念としていることが無いものかと現在情報を集めている段階です。」

「ふむ……今の処打てる手はここまでか―――」

「え……っ?なぜヒューマンの国の三カ国を??」

「実はね、サツキ―――これはまだ可能性の話しなんだけれど……どうもここ最近の情勢に状況がとてもきな臭くてね、それに彼の三カ国を含めるヒューマンの国家は言ってみれば亜神達の支配下にあり、その影響は強いと言っても差し支えない。」

「私達の戦争に―――亜神族が関与している??!」

「そのようだ……実は事態がこうなるまで私でも懐疑的でね、こうした事態になる事をいち早く察していた者がいた―――もう誰だか言わなくても判っているね。」


オプシダン様が……? 嗚呼―――やはりオプシダン様は私が思っていた……いえ、それ以上のお方でした。 この私を救ってくれた時点でここまでの事を読み解き事態の推移を見守っていた―――そして愈々以て容疑いが固まった時に……


「おいおいーーーお前またなんちゅう……オレはね、ただ『怪しいんじゃないのか』と言ったくらいでさあ、なにも亜神のヤツらの所為だとは一言も言ってやしないぜ? 大体魔王を引退したオレを巻き込むなっての。」

「そう言う君こそ何を言っているんだい……私も折角“思い出して”ヤル気になってきたというのにさぁ。」

「お前…イロイロ言葉濁してるけど、絶対“殺ル気”だろ、それ。」

「それは当然じゃないか、ここ何十年かは貯めに貯めておいたアイデアを発散させる機会を持ち、ありとあらゆる便利なモノを開発して、そしてある機会をしてヒューマン達に売り込み、行く行くは君と共にハッピーはっぴいな『印税』『特許料』で働かなくとも金銭がガッポガッポ入って来ると言う、まるで夢を絵で描いたような暮らしを送るのだからなぁ~~~。」

「おい、ちょっと待てーーーグラナティスお前そんな事を考えていたのか?」

「うん?どうしたんだいオプシダン、怖い顔しちゃって……」

「領主様ぁ~~~たった今、オフ・レコだったはずの計画―――自分から口に出して言っちゃったんですよ~~~」

「な、にい?!しまったあああーーーこの私とした事がああ!オ、オプシダン?い、今のは冗談だ……ああ~~冗談だとも!!」

「その割にゃお前の眸、活きのいいお魚さんみたいに泳ぎまくっとるみたいだなあ…」

「リ・リルーファ~~~なんでもっと早く私を止めてくれなかったのだあぁぁ~。」

「まあ止めようとしたんですけれど、この後の展開が面白すぎて止め損なっちゃいました。」(テヘ・ペロッ☆)

「リルーファ、お前……」(引きッ)


この子―――あどけない顔してやる事エゲつないやっちゃなあ、あのグラナティスが本気で参っちゃってるとは―――いや、てかよう、こいつやはり裏でとんでもない事考えてやがったな!しかも、ここ最近割と便利なモノを作ってオレ達に提供してた見返りがヒューマンの国にも同じモノを売りつけて利益を貪ろうなんて……いやしかし、働かなくても金銭が湯水のように入って来るっていうのは見逃せないし聞き逃せない、金銭てものはないよりはあった方がいいからな!なので―――ご相伴しょうばんあずからさしてもらいやすぅ~。(手モミ)


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


再び目覚めると、以前見た事のある光景―――どうやら私はまた気を失っていたみたいだった。 それにしてもどうして気を失っていたんだろう―――?あの場にいた人達は私の回復を祝う為に集まってくれていて、見ず知らずの私に良くしてくれたのに……


それなのに…………どうし――――――――


『お前に……もう一度任を与える―――今度こそ間違いなく……鬼“姫”の馘を取って来るのだ……』


あうっ―――?!な、なんなの……今の?!鬼“姫”?その人の馘を……取ることが私の使命―――けれど誰なんだろう……鬼“姫”って。


その時の私はまだ、記憶の殆どを封じられていて自分の親友の命を危うくすることに気が付いていませんでした。


         * * * * * * * * * *


とは言えあれから特に何事もなく幾許いくばくかの時は過ぎ去り―――私を保護してくれている人達とも仲良くなり始めた頃でした。

今日もこのお屋敷の主人であるオプシダン公の取り計らいもあり、そのお屋敷に住まう4人の同居人達と季節の祭祀を愉しんでいた時、は発芽してきたのです。


「いやあ~それにしてもお祭りってのはいいもんだよねえ~普段では口に出来ない、実に安っぽくてもおいし~い食べ物が沢山売られててさあ。」

「ですよねーですよね~~特にお奨めは『ながーいフルーツに“チョコ”ぶっかけた』のやら『まあるいフルーツに“水飴”ぶっかけた』のやら『“にゅるにゅる”した軟体動物を小麦粉で包んだ』のやら『“ふわっふわ”した甘ぁーい飴』やら~♡」

「はっはっは、どうやらリルーファはまだまだ色気と言うより食い気が勝っているようだな、あっおやじ殿『腸詰め』を3本追加だ♪」

「りょ…領主様もリルーファの事言えないではないですか……それよりヤヨイもあれから何事もなく私達と仲良くなってきている、うんうんこれでいいのだ。」

「すみません……何から何までお世話に―――あの、私迷惑をかけていないでしょうか。」

「何を言っているのです、あなたの事を迷惑だなんて思っている人はここには一人もいないのですよ。」

「ああ―――逆に普段では何もしないで自分の部屋に籠りっきりになっている、どこぞかの豪邸いえの主殿と比べたらサツキの手の足りない部分を補うようにしてくれている……それのどこが迷惑だと言うヤツがいるものか。」

「あのぅ~~~キサラギのセリフが妙にオレのガラスのハートに“グサグサ”と突き刺さるのは気の所為か?」


私自身、未だ曖昧な部分が多いと言うのに…そんな私を気遣うような一言一言に、私はもうこの人達の家族の一員なんだと思ってしまいました。

けれどそれは“錯覚”―――ふと見てみれば危険性のないようなものが、実は一番危険性を孕んでいた……私の“記憶かこ”は隅に追いやられ、今私を突き動かしているのは……

「皆さん……ありがとうございます―――行き倒れていた私を、見ず知らずの私を、ここまで良くして下されて……本当にどうお礼を申し上げたらよいか……」


私はーーーオーガ……オーガ……。 けれどブリガンティアの『勇者』達に私の郷里を襲われた際、私は彼らの虜囚となってしまった、それからと言うものは最早説明不要ごぞんじのとおり―――虜囚となった身の末路と言うものは多寡が知れていると言うもの……私の額にあった2本の角はすぐに切除され、そしてすぐに疑似記憶を植え付けられてしまった―――そう、私はオーガを憎み、オーガを殺す為に産まれてきた『勇者』であると言う間違った記憶を。


そしてこの日この時―――満を持して、最も警戒が緩んだ機を見計らって―――


            ≪よし―――今だ……殺れ≫

「イエス、マスター。」


その日は、本当に……愉しいばかりの日でした。 私が敵から送られてきた『埋伏の毒』だと、誰しもが疑いもせず―――そして今も、私の手を引くべく差し伸べられた親友の手を……



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