第10話 彷徨う者
全くもって不本意だが、グラナティスのヤツが作ってくれた“世紀の大発明品”―――『コ・ターツ』のお蔭で、オレは生来から苦手だった“寒さ”と言うものを克服し、
しかしオレ達が新種の珍獣『コタツムリ』と化してしまっても、サツキさんはこのバカみたいに広い
「なあグラナティス、ちょっと相談があるんだが…」
「どうしたんだね急に改まって。」
「いや、あのさあ、オレ達がコ・ターツに入り浸ってコタツムリと化している間、サツキさんは冷たい水仕事に専念しているじゃないか、それにお前の事だコレの外に何か思いついているモノがあるんだろう。」
「(……)ヤレヤレ君ってヤツは―――私を『便利屋』か何か思ってはいやしないかい。 それに、やけにサツキの事に関しては積極的に心配するものだよねえ?」
「そりゃそうだろう…だってあの子一人休む間もなく働いてくれてるって言うのに―――」
「だったら君が手伝ってやればいいじゃないか。」
「(う゛…)オレは―――だな、そのぅ……寒いのも冷たいのも苦手だからさ、それに魔王引退したのも―――」
「ハイハイ判ったよ―――ゆったり、まったり、のんびりするんだったよね。 まあ……実の処考えていない訳では、ない……まあもう数日待っていてくれ給え。」
なんか、勿体付けてやがる―――大体こういう時はロクな事を考えてやしない……どうしてそう思うかだって?コイツとはまあ……色々と付き合ってきた経験上、“善”くも“悪”くも知っているからな。 特に今の様に何か勿体付けている時は、こっちが求めている以上のモノを提供し、こっちが思っている以上のモノを要求して来る……油断がならん。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あれから―――何日が過ぎたのだろう……あと“
私は、栄えあるブリガンティアの『勇者』の一人。 今回の戦は我等ヒューマンに仇なす魔族の王が一人、カーマイン候爵と雌雄を決すべく興されたものだった。 ただ、向うもそう簡単に許してはくれないものか、鬼“姫”が指揮する前では次々と同志たちが倒れていくばかり。 そこへ―――“私”が呼ばれ、単身で鬼“姫”を狙うよう指示があったのだが…
「(!!)ああ……っ、あなたは―――『***』!!?」
“私”に見覚えがあるのか―――“私”の名前らしきものを叫んでいる……けれど、良く聞こえない。 だけどその
「お前は……お前、自分が何をしているのか判っているのか!!」
なるほど……こちらも聞かされていた通り、この鬼“姫”と付かず離れずの距離を保ち、こうした有事の時には必ず現れると言う“剣”鬼―――
ここまでか―――この“剣”鬼が来るまでが勝負だと思っていた。 それが“私”が単身で侵入したのと
「なんだと?!鬼“姫”の馘を取る事に失敗したあーーー?! ええいこの役立たずめえ!!」
今回の戦の“司令官”―――ブリガンティアの貴族と言うのだろうか。 我等庶民の様に痩せ細っておらず、逆に肥え太って動く際にも一々億劫な素振りを見せる……そうした者から今回“私”に与えられた任務の失敗を報告したところ、いきなり手にしていた金属製の杯を投げつけられた。 しかし……どうして?確かに鬼“姫”の
「んん?なんだその憎たらしい眼は―――帯びた任も全うすることも出来もせずワシを睨む眼だけは一人前のようだの!!」
それを言われてしまっては立つ瀬がない。 確かに“私”は与えられた任務に失敗してしまったのだから…その点に関しては司令官殿の言い分に一理あると思った“私”は大人しく退出したものだった。
それから数時間後、またも司令官殿に呼び出された“私”は……
「(……)実に不本意だが、先程本国より通達があった。 現在鬼“姫”はアマルガムという奥まった地に身を潜めているそうじゃ。 そこでだ―――これからお前はたった一人でそこへ赴き、見事鬼“姫”の
―――“ヤヨイ”―――
“ヤヨイ”……それが私の名前―――?だったか……
しかしやけに執拗だった、思えば最近できたばかりだと言うその都市は、魔族領でも奥まった地に分け入っており、そうおいそれとヒューマンである私達は入りにくい―――はずなのに……
なのに――――――――…
“ヤヨイ”……? そう言えばどこかで聞いた事があった―――そうだ、確か……あの鬼“姫”が私を見るなりそう言っていた……気が?
そんなバカな―――おかしい……おかしいじゃないか、私達ヒューマンとオーガとは
そうした疑問に
* * * * * * * * * *
その頃一方私達姉妹はダンさんと一緒に、旬の味覚の採取をする為にその森に入っていました。
「この時期は森でも色々な美味が採取出来るからなぁ~~柿や
「へいーーーへい、ナンダヨ全く……オレは引き篭もって読書と洒落込みたかったんだけどなあ~~~」
「何言ってるんですかダンさん。 サツキも苦言呈してたでしょ、部屋から一歩も出ないから掃除にも入れませんって。」
「あ~~~いや、でもねえ……オレの部屋はオレのモノ、つまり言うとオレの絶対不可侵領域みたいなヤツ?それに乱雑に見えてもオレにはどこに何があるのか把握しちゃってるからねえ、逆に綺麗整頓しちゃうとどこに何が行っちゃったか判らなくなっちゃうんだってぇ。」
「うーむそう言うのは一般的に『ダメ人間理論』に当てはまるのだが、ダン殿がそう言う説明をすると判らないではない。 いや私もダン殿に倣ってみようかな。」
なにを言っちゃってるんだか……我が姉ながら呆れ返っちゃうわ。 それに姉ちゃんがそんな事になっちゃったらサツキのストレスが一段階上がっちゃうしなあ~~~
それにしても、ダンさんに危い処を救われてからと言うものは姉ちゃんの頭の中は桃色のお花畑が
それに……ダンさんの部屋にこっそり入ったことあったんだけど、この人の蔵書ってやけに“
ま、まあ……他人の趣味・嗜好なんてとやかく言ったり言われたりする筋合いなんてないんだよね。 それは私がそうだからなんだけど。
それはそれとして、旬の味覚の採取がある程度進んだところで、私達は“あるもの”を発見した。 しかも“ある者”……よく視てみればヒューマンの様に見える。 それにしても珍しいものだ、前線より遠く魔族領内の奥に分け入っているアマルガム……その近くの森に―――ヒューマンが?“旅人”なのだろうか……それとも“冒険者”の類か―――それに……よく視てみれば、額の二カ所になにかの痕???
「―――リルーファちょっと来てくれ……」
「どうしたの―――この子は……?」
「判らない、一見してみるとヒューマンのようにも見えるが……」
「どうしたの、2人して。」
「あっ、ダンさん―――いえ、どうやらヒューマンの行き倒れみたいで……」
「ん~~~そっかあ……それじゃこのままにしとくのも連れないから一旦オレ達ん家に連れ込むか。」
「うん、判ったーーー姉ちゃん?」
「ああ……先に帰っていてくれ、私はやることがあるから。」
「(……)判った―――それじゃ呉々も気を付けてね。」
旬の味覚の採取を終えた処で、エルフの姉妹の姉の方―――アリーシァが行き倒れたヒューマンの旅人らしき者を見つけた。 本来ならややこしくなりそうなことは避けたい限りなんだが、見つけてしまったモノは仕様がない―――オレの(不釣合いな)
だが―――アリーシャは何を思ったモノか、妙に思わせぶりなセリフを
あの“痕”―――おそらくあれは角の“痕”だろう……とすれば、最近耳にした『ブリガンティアにはオーガの角を取り除いて隷属させる技術がある』―――と言う事は、もしかするとあのオーガ……
そこで私は、“姉妹”達と
任意に落ちている木の葉を数枚拾い、そこへ念を込めて文字を記す―――そして…
『“風”よ―――運べ……“姉妹”達の下に……』
こうして、行き倒れているヒューマンの旅人らしき小娘を抱え、オレには不釣合いの
うん、見覚えがあるな―――この光景。 オレが知らない間にちゃっかり、すっかり変わってしまっている環境……つまり―――は、だ、こう言う事をする
「グラナティス!これは一体なんなんだあ!」
「おお戻って来たかオプシダン。 どうだ見たまえ、これが現時点で私が保有する知識、技術の粋を集めて作った最新鋭の―――『自動湯沸し器』なのだ!!」
「……は?『湯沸し器』?」
「君も言っていたではないか、サツキの水仕事を見ていて辛いだろうから何とかしてもらえないかと。」
「それは確かに……そう言いましたけれどねえ?それがどおしてこうなっちゃったの??」
「うーーーん何から説明してあげればいいかな。 まあ今までは火を熾し冷たい水を温める手段としては『木炭』『石炭』『薪』などを使用しなければならなかった、けれどそれでは時間もかかる上に水を適温にするのも量が限られていた。 そこをだ、君も知る私の『魔力転用理論』を応用し、使用者の魔力と同時に使用者が求める“温度”を、この設備装置の為だけに開発した“センサー”で読み込む事で寒い時期でも温かいお湯が出来ると言う仕組みなのだよ。」
「は……は あーーー」
「その間の抜けた返事に表情ではあまり理解できていないようだねえ。 まあいい、それでサツキ―――使用感はいかがかな。」
「(……)全く以て不本意にして悔しいけれど、今回ばかりは感謝するしかないようですぅぅ…。 しかもグラナティス公が仰るには、毎日お湯で入浴が出来るとの説明が!!」
「な―――なんっ、……だ、と? この寒い時期では水での入浴が
「それが―――貴重な“お湯”で!!?」
「さすがは領主様、これで野望の一歩に近づきましたね!」
「“野望”?―――つて、どう言う意味かなこのヤロウ。」
「リルーファ~?君はちょっと黙っていようか。」
こいつ……やはり裏でとんでもないことを考えていやがるようだ、それにしても気になるなあ……こいつの“野望”―――って何なんだ?
* * * * * * * * * * *
それはそうと、今回オレ達が近くの森に入って旬の味覚を採取した際に拾ってきた“ある者”を、快復させるまでこの
「ああそう言えばさ、近くの森で行き倒れたヒューマンの旅人らしき者を拾って来てな。」
「“ヒューマン”?“旅人”??“らしき”???」
「ああ……この者の事なんだが―――」
オレも、このヒューマンに関しては何も知らない。 と言うより旅人とは言えどヒューマンが魔族領のこんな奥まった地に来る事なんて珍しいからだ。(ただし、“ない”わけではない)
だが……オレ達の中にこのヒューマンに詳しい者達がいたのだ。 そう―――……
「(!!!)…………~~~~ヤヨイ?」
「えっ―――?」
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