第8話 “長い(孫の)手” ~痒い処以外にも手が届きます~

このオレが得物とするのは『孫の手』だ。 しかも見た目通りに孫の手の様な形をしたようなもので―――まあ長さと言っては術師キャスターが使っている“メイス”とさして変わりはない。

だが―――しかし、である……果たして魔王だった者がこんなにもおチャラけたものを武器としたものだろうか。 得てして答えは―――“否”である。 まあつまりそう言う事だ、かつては魔王だったこのオレが』を武器にしているだなんて思ってくれた時点で、そいつの敗色は濃いものとなってくる。

それに、サツキさん…(どうやら彼なりに精一杯気を使っている様である)の仰っていた通り(最早気を使い過ぎていると言わざるを得なくもない)、“痒い所に手が届く”―――そう、これこそがこの武器の最大のミソなのだ。

つまり、何が言いたいかと言うかとだねえーーー

「ほい、ほいっと。 あーらよっ♪」


わ―――私は一体何を見させられていると言うのだ?確かに私を救って庇ってくれた事には感謝している……それに、あの時の“鼓動トキメキ”が今でも止まないくらい……なのに、そうした“鼓動トキメキ”も一瞬で冷め上がってしまいそうになるオプシダン公がお持ちの武器、まるで子供用の玩具おもちゃか何かではないだろうかと疑わしくなるその形状を目にした時落胆してしまったものだが、今にしてはその性能に目を見張るしかない―――後悔も一入ひとしおと言った処だ。


凄いわ―――あの武器……見た目はちょっとアレだけど、その性能はこれまで私が見てきたどんな武器にもない。 普段の長さ的には“メイス”くらいだけれど、“延び”“縮み”が自在に出来てしかも持ち手の意のままに“曲げ”たりも出来る?


それに……特筆すべきはあの“手”の形状、普段は小さな子供の手を模しているかのように見えますが、いざとなった時には“掴み”“突き”“叩き”“殴る”……まさしくあの方の『もう一本の手』のように扱える……私もあの方からの一言―――『どうしても手が届かない時ってあるだろう?』あの言葉こそはまさにあの方に与えられた武器の性質を要約したものだったとは。


な―――なんと……あの時の言葉にはこれ程のものが隠されていたとは、それを一目見ただけで看破するとは、いやはやサツキよお前も中々大した者だぞ。 そこへ行くと私は慙愧ざんきの念に堪えない、なにしろオプシダン殿の武器の形状を見て“あざけり”“あなどって”いた事には変わりないのだから。 しかしまあ……なんというか―――

「中々に万能―――何でも出来るみたいだな。」

「ええ、私も当初は“掴み”“突き”“叩き”“殴る”ぐらいだと思いましたが。」

「今では“デコピン”やら“サミング《目つぶし》”……更には“投げて”からの“抑え込み”まで出来てしまうなんてねーーー。」

「しかし…さすがだ、あの武器1本で“盗賊”に扮したヒューマンの『勇者』と見られる者達が見る見るうちに撃退させられていく。 ただ……不思議に思うのはオプシダン公はもう1本似たようなのをお持ちの様なのだが?なぜ2本同時に使わないのだろうか…」


あらあら、ほんの一寸ちょっと前まではオプシダン様の事など無関心でいらっしゃった方が、助力して頂いたお蔭で変心こころがわりなど実に“お軽い”ですこと。 まあこの私は最初に出会ってからすぐにあの方のお優しい処は判りましたけれどね、だからこそ思うのです……そんなオプシダン様の優しさに浸かり、甘えても良いものだろうかと。 本当の処は心苦しい……何せ私達は“ある目的”があって頼ってきたも同然なのですから。

しかし―――グラナティス公が抱える親衛隊“プレイアデス”の一人“アルキュオネー”ことアリーシャが気にしていた事……そう、オプシダン様は『孫の手』をもう1本所持しているのです、“盗賊”に扮していた『勇者』を1本目で軽くヒネっていたものでしたが、ならば大切に温存していた残りの1本はどんな時に使うのでしょう……しかし私のそれはまさに杞憂そのものでした、それというのも残りの1本の恐るべき使用方法がまさにこれから明らかにされようとしていたのです。


今回オレはサツキさんが受けてきたクエストを遂行する為、割と本気を出して“なんちゃって盗賊”達を撃退した。

まあーーーこんなオレでもね、痩せても枯れても魔王をしていた事もあるからね、そうそう舐めて貰っちゃ困るってもんよ。 それにオレの扱っている武器は一見ふざけた形状を取っちゃいるが……むふふふ、油断しちゃあいかんよお?このオレの得物―――『孫の手』の恐るべき真の性能はまさになんだからねえ~?

「ふふんーーーそれじゃ早速始めるとしましょうかぁ?」

「な―――なにをする、お前達悪の手先である魔王に我等が屈すると思っているのか?ふはは…残念だが無駄足と言うものぞ、どんなに無様に敗れて捕虜になろうとも我等は苦痛に耐えうる修錬を行ってきている、まあ大方貴様は我等に苦痛を伴う拷問をして我等の口を割らせようとするのだろうがな―――」

はあーいはい、まこと丁寧なご口上ありがとうございまあーーーす。 まあ?確かに?オレがこいつらに施すのは似たようなもんだけど、拷問じゃねえよ?拷問じゃ……だって拷問てやって見ている方も痛々しいし、苦痛に喘ぎ、叫ぶ様子を見て何が楽しいって言うの。 まあ……一部にはそうした性癖持ってるヤツもしってるけどさあ、オレはどちらかと言えば……嫌いだな。

「ま、概ねの処は間違っちゃいない―――その通りだ。 それにオレにはお前サン方が“盗賊”に扮してまでこんな奥地に来ているって言う動機も知りたいんでね。 それにさあ、拷問て建設的じゃないと思わない?そう思うでしょう。 だ・か・ら―――これがこれからするのは“尋問”てヤツ?とはいえまあ…喋ってもらえないなら、オレの得物の“もう1本”が火を吹くんだけどねぇ~。」(ワキワキ)

「な―――なんだ…その……奇ッ怪な玩具おもちゃの様なものは??! な、なんだか“ウネウネ”と……」

「ああ、これね?オレの得物―――『孫の手』って言うの、お前サン達を散々翻弄してやった1本目がここにありましてぇ~で、お前サン達を翻弄する時に使わなかった2本目がここにある…さあてここで質問だ―――お前サン達の目的は?また或いはお前サン達に命令を下したヤツの事を詳しく聞こうか……あ、因みにぃ~お堅い矜持のまま何も喋らなくてもいいよ?そん時ゃ遠慮なく―――この2本の『孫の手』がお前サン達を蹂躙するだけだからねぇ。」(ニヤニヤ)


この時私キサラギは、まさに“生き地獄”と言うのを目のまのあたりにした。 いや、けど、まあーーー“生き地獄”はちょっと言い過ぎたかな?それというのも私もカーマイン候の軍の一翼を担っていた事もあるからこうした捕虜になった時の拷問に耐えうる……まあいわゆるところの苦痛に耐えうる訓練や修錬を経験、習得をしている。 ただ……そうだな、苦痛を伴うのが“拷問”だと思うのなら、オプシダン殿が行っているのはではない……そう、とどのつまり苦痛は一切伴っていないのだ、ただ―――この―――まあ何と言うか……


な、なんとも恐ろしい御仁なのだろうな、オプシダン殿は。 この私アリーシャとて苦痛に耐えうる訓練や修錬は受けた事はある、それに勿論習得までもしている。 ただ―――こう……なんと言うか……噂ではなんとなく聞いているヒューマンの『勇者』と言う者は頑健・頑強で知られている、だからこそ苦痛を伴う拷問の類にも耐えられると大言壮語をしたものだろう。 だが、私の目の前で繰り広げられているのは……


「ゲ……ゲヒャヒャヒャヒャヒャーーーや、止めろぉ~~~止めてく……ぐぉほほほほ~~~!」

「ほぉ~ら、ほほぉ~~~ら、早く白状ゲロっちまわないと大変たぁーいへんなことになるぞぉーう。」(コチョコチョコチョコチョ)


うわぁーーーこの人“イイ性格”って言うか……“2本目”の使い道にそう言う含みがあったのね。 なんだか気が合いそうだわあーーーしかし苛烈だよね『くすぐり地獄』、これは“完落ち”するのも時間の問題かな、けどぉ……


さすがです―――オプシダン様、こう言う手の輩は必ず拷問耐性と言うものを身に着けている……そこを見込んだ上での“苦痛を伴わない”『「くすぐり』をして情報を吐き出させようとする―――この私も見習わせて頂くとします。 けど……


   「「「「(なんだかエロいよね、あの“ウネウネ”と動く“手”。)」」」」


         * * * * * * * * * * *


このオレの“手”に掛かって“盗賊”に扮していた『勇者』は洗いざらいを話した、まあ頑丈なだけを自負するヤツにはこうした“手”(くすぐり)には弱いものだ。 それにーーーやはりと言うべきか、“裏”で糸を引いていたのがいたなんてな。

そう―――たった今しがたオレの軍門(『くすぐり地獄』)に降伏くだった『勇者』と言うのは“神”の啓示の赴くままに行動をする嫌いがある、オレもおかしいとは思っていたのだ。 それというのも―――その証拠の一つが、カーマインの処で軍の“総司令官”と“副司令官”をしていたという鬼“姫”と“剣”鬼の存在だ。 彼女達自身が言うのにはブリガンティアというヒューマンの国が抱える『勇者』達に敗れてしまったのだと言う、それは恐らく間違いではないだろう……ただ、オレは別にオレが以前に魔王をしていた時に抱えていた事のあった“情報屋”であるシノブから他に隣接するヒューマンの国がこぞって兵を挙げたとも聞かされている―――そう、まるで時期を示し合わせたかのように。


「ん~~~何だかオレ、盛大に巻き込まれちまったって感じだなあーーー」

「あら、どうかしたのですか?オプシダン様。」

「ああサツキさんか……(……)あのさあ、ちょっと聞いていい?」

「はい ―――何か?」


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


その一方―――今回の一件を企てたと見られる者の“館”では。


「な、なんじゃとな?この妾が仕掛けた策略が―――」

「ものの見事、失敗したようですねぇ。」

「うぬぬぬ……おのれえぇぇ~~い、妾が苦節300年かけて練り上げた会心の策をぉ~~~」

「どうしたと言うの、騒がしい……」

「ああ、『ファダニエル』聞いておくれよ、何でも今回『エメトセルク』が長年温めていた策略と言うのを発動させたと言うのだけれどね。」

「なぁに?『ファムフリート』……この人ったらそんな事に腐心していたの?はあ~~~全く……あのね、エメトセルク―――あなた今自分がしていること判ってる?」

「うるさいわいっ!年がら年中男日照りのお主に妾の何が判ると言うのじゃ!」

「(…)ねえ~え?ファムフリート……この分からず屋、今ヒネっていい?」(イラァ~)

「止めときなよ―――今大変な時期なのは君でも判っているだろう?だからこそボク達が一堂に集い、頭を寄せ合っていい知恵を絞りだす―――って言うのが今回の主目的なんじゃないか。」


ボク達は『亜神族』、以前に説明のあった通りヒューマン達『ヒューマン族』を取り纏め統治している存在だ。 勿論ボク達3人の外にも亜神はいる―――が取り分けてボク達3人は気心が知れている仲と言う事もあり一緒にいる機会が多いのだ。 それで今、他の亜神達が一堂に会しここ最近ボク達の頭を悩ませている難事に当たろう―――って言う時に、ボク達の仲間の1人であるエメトセルクが彼女自身300年も温めておいたと言う“会心の策”とやらを発動させたみたいなのだが、どうやら報告を受けたのを見た限りでは失敗に終わったようだ。

まあ普段のボクならエメトセルクが一体何の策略を発動させたのか興味のある処なのだが、今はそんな場合ではない。 その事を注意してあげたファダニエルにも暴言を吐くのだから始末に負えない……とは言えまあ、エメトセルクも普段からこんな感じではないのに珍しいこともあったもんだなあ―――


叱られてしもうたの、ファダニエルのヤツに……まあ、あやつを怒らせたら怖いのは知っておるからの、なにせファダニエルのヤツは“元ヤン”じゃしの。

しかしの~~~妾が学生の時分に振り向いて欲しかったヤツに、むべもなくフラれてしもうた(相手にされなかった)その腹いせに今回の策略を発動させたのじゃが~~~ええいなんでじゃ!妾があやつ―――オプシダンめに一泡吹かせ、妾の事を認めさせるためにわざわざブリガンティアとヴェルノア……アントラースにヴァレリアと働きかけたというのにぃ~~~

まあ?前者の二国は妾達亜神を信じやすい(ちょろい)ヤツらであったが、後者の二国は亜神である妾からの啓示を怪しみよるとは……あとで罰を与えてくれてやるからなッ!!


全く、あの子も困ったちゃんよね。 まあ概ねの処は私に情報を提供してくれた者のお蔭で把握はできたんだけど……今では聞かなければ良かったと思うわ。 だってエメトセルクが300年も温めていた策略―――って、完全に痴情もつれからの“怨み”“辛み”じゃないの。 そんな下らないことに300年も費やしちゃうなんて…ホント困ったちゃんよね。

けれど……逆に考えてみればよ?あのエメトセルクがそれだけの年数をかけてもその想いを褪めさせなかった例の男―――これは少し私の方でも興味が出てきちゃった……かもね?

「ウフフ…素敵な情報の提供をどうもありがとう―――“誰かさん”。 お蔭で私もそのひとに興味が出てきたわ?」

「あーらら…持っちゃいましたか、そりゃご愁傷様。 けれど割かし本気で狙って行かないと、結構強力なライバル達がひと揃えーーーしちゃっていますよぉ?」(ケケケ)

「フフフ……“愛”と言うのはね、障害が強ければ強い程燃えるものなのよ。 それにしても、判らないのよねぇ……どうして彼は半ばにして辞めちゃったのかしら。 元“情報屋”―――いえ“情報部”だったなら、何か知っていない?」

「姐エーサン、そりゃウチの事を買い被り過ぎですって。 なにせオプシダンの旦那はんはウチですら計り知れないモノばかり持ってますからねぇ。」(ニヤ…)

「(ク・ス)使えない人―――と言うより、あなたのこの行動も実はオプシダン公の差し金なのかしらね。」

「さあ~て、そいつはどうですかねえーーーまあ、今回の分の提供に見合った分の報酬は貰いましたんで、また次の機会がございましたらご贔屓の程を~~~」(フ・フ)


ふふ―――全く使えない食えない人…必要な情報は与えてはくれたものの主人に不利益になるような情報は一切漏らさない。 それでいて尚且つこちら亜神/ヒューマンの情報は拾うだけ拾っていく……今回の事も私の方に舞い込んできたと言うのは“幸い”と言っていいのか―――もしこれがファムフリートの処だったら……そこの処も判ってて敢えて?だとすると主人であるオプシダン公かあるいはその側近―――はたまたはあの“情報屋”が格別優秀だと考えるのが妥当……

けれど今は何もしないに限る、今回の不始末はエメトセルク自身にしてもらう事として当面の問題はいかに“我々”の財政を立て直すか―――どうかなのだものね。



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