第7話 暴かれた“本性”

現在オレはサツキさんの相方であるキサラギの頼みもあり、彼女と一緒にサツキさんが受けてきたクエストの進行を3人1組で行っている。

ところで―――何でオレがこんな事に駆り出されたのかと言うと……

「オプシダン様、実はここ最近このアマルガムの近くで“盗賊”の被害が続出しているとの事のようです。」

「ふうーーーん、そりゃ大変な事もあったもんだねえ。」

「“盗賊”と言う者はその言葉通り他人の物を盗んで生計を立てている―――そうした者達のお蔭でここに入って来る物資や荷物などが奪われている現状を見て、あなた様はどう思われていますか。」

「どう……って、そう言う悪い奴らは冒険者や警察関係に任せときゃいいんじゃない?」

「そこで―――です、実はそう言うのを一つ受けて参りました。 しかも3人1組で受けれるみたいなんですよ。」

しまった……と思った時はもう遅かった、オレもついうっかり『冒険者や警察関係に任せときゃいいんじゃない?』なんて口にするんじゃなかったあぁぁ~~~!て言うかこの子、割と抜け目ないよねえ?と言うよりオレ、この子の誘導尋問に掛かっちゃったってワケえ?(実際そう言う事です。)

この子―――カーマインが認めるわけだわ……凄く優秀。 ああ因みに前述した通りオレとカーマインとは知り合いだ、とは言っても向うが年功序列は上なんだけれどな。 そう、つまりあの『学校』でのやり取りではオレが“タメ口”を利いていたのだがカーマインの方が1コ学年が上なのだ。

{*因みに彼らが通っていた『学校』は“3年制”だが、“1年生”の単位は100年となっている}

そんなあいつの軍の『総司令官』(鬼“姫”)と『副司令官』(“剣”鬼)の2人がまたどうした理由でアマルガムにいるかはオレ自身非常に心当たりがあるのだが、それはオレから聞くような事ではない、と思っている。 彼女達もそこの処はわきまえているのだろうから『その時』になったら彼女達の方から言うべきなのだ。


それはさておくとして―――(本当は)やりたくもない『“盗賊”討伐』のクエストを受け、その不届き者共がうろついていると言う付近一帯を隈なく捜索している処なのだが―――

{*なぜオプシダンのご機嫌が“斜め”なのかと言うと、そもそも魔王を引退してアマルガムにいるという当初の目的は、ゆったり、まったり、のんびりと暮らす為―――ですからね?(皮肉)}


「―――なあ…オプシダン殿?“それ”は一体何なのだ?」

「ん?ああ“これ”?一応オレの武器だけれども。」

「(……)『孫の手』―――が?」

「まああ…『孫の手』と言えば、“痒い所にも手が届く”―――と言う“あれ”ですか?」

「そうそうそう、うんうんうん、実際便利なんだよね~~~背中掻く時にさ、どうしても手が届かない時ってあるだろう?」

「なるほど―――それは判ります。 それに、だからなのでしょうねオプシダン様にとってもお似合いですよ。」


ちっ・がっ・うっ・だろぉおお~~サツキ!そこは感心する処じゃなくてだなあ?大体何なのだこの男のふざけたその武器は!

今回サツキが受けてきたというクエストを私達3人が1組となり取り組んでいるわけなのだが、取り分けオプシダンが得物として使っている武器を見てさながら私は愕然とするしかなかった―――落胆するしかなかったのだ。 だって、見た目そのままの『孫の手』を得物とする―――この男の神経が判らん!大体そんなモノで何をどうしようと言うのだ?何ができると言うのだ?だがそんな私の心配をよそに、サツキのオプシダンを見る目が違っている―――そう、言うなればあれは恋する乙女がしてしまえているような目だ! もうなんだか訳が分からない……私とサツキとは幼い頃からの付き合いだったこともあり彼女の事に関しては彼女の親御さんより詳しい―――と自負していたものだったのに……まさか、よりによって、男の趣味が壊滅的だったなんてええ~~~???



しかしそれにしてもなんと言うセンスの好さなのでしょう、私ますますこの方の事が気になって参りました。 とは言えキサラギなどはその見た目から判断しがちみたいですからオプシダン様の扱う武器の好さというものが判らないハズ―――けれど私には判ります……この方の扱う武器は文字通り“痒い処にも手が届く”―――



は、は―――こーの子ホントに凄えわ、“こいつ”の特性を一目見ただけで看破みやぶるとは……ね。 だあーーーからこそ判んないんだよなあーーーこんな優秀な『総司令官』が、なぁぜブリガンティアの『勇者』くんだりにやぶったのか―――が…まあそこんところは機会を見繕ってそれとなあーく聞いてみる事にしますか。



だが―――この時の私はうつけ者だった、『見た目そのまま』でしか評価が出来ない者だったのだ。 しかしその評価はこの後一変してしまうのである。


         * * * * * * * * * *


かれこれ―――何時間となくその場所を彷徨さまよっていたモノでしょうか。 一向に討伐対象であるヒューマンの“盗賊”は見つからず、この後日また日を改めて出直そうとしていた頃合いに…


「≪感知≫、この先さほど遠くない場所で何者かが追われている模様―――」

「『追われている』―――と言う事は旅人か行商人……また或いは配送屋かも知れないな。」

「更に≪感知≫、追われている対象は2―――追っているのは……20?!」

「なんだと?!それだけの数をたった3人でどうにでも出来るわけが―――」

「(ん~~)ま、しょうがねえか―――」


正直……私は彼がそう言うのではないかと思っていた。 常日頃から何をするでもなくだらりとした生活を送り、いつも口にしているように“ゆったり”、“まったり”、“のんびり”をモットーとしている。 あのサツキが惚れ込むくらいだからこの機会は―――と期待をしていたのだが、それは間違いだったか……

だが、その私の予想とは裏腹にこの男のこの後のセリフによって印象がガラリと変わってしまったのだ。


「なら、ちょいとばかし真面目に取り組むとしますか。」

「オプシダン様―――では?!」

「ああ、サツキさん―――会敵時間の予測は?」

「もう間もなく……3・2・1―――来ます!」


その時、ヒューマンの“盗賊”者達に追われてきていたのはあのエルフの姉妹でした。 しかもただ逃げるだけではなく反撃もちゃんとしている―――そのやり様を見て私は不思議に思えたものでした。 それというのもこの2人……じゃない―――それ程の手練……しかし、逃げるのと同時に反撃をしていた事もあり私達に気付けないでいたものか。


「(!!)危ない……【アルキュオネー】―――――!!!」


【アルキュオネー】……だ、と? いや、このエルフの名は確か『アリーシャ』だったはず……だがもう一人のエルフは確かにそのエルフの事を呼んだ―――それに私もバカではない。

以前カーマイン候に仕えていた時分ある魔王の下に仕える親衛隊の事を聞かされていたのだ。


『オレの1コ下にオプシダンてヤツがいてなあ。 まあそいつも隅に於けない奴なんだが……オレ達がまだ脛齧スネかじりのクソ学生だった頃オプシと良くつるんでいたヤツがいたんだ。 名をグラナティスと言う、オレやオプシと同じ“上級”の家の出だったがまたそいつもどう言う訳かオプシと同じ様に“上級”の道を棄てて“下級”になっちまってなあ……今じゃ最も奥まった地で自分に性の合った『研究』に没頭してるって話しだ。 ただ―――グラナティスってヤツがオプシよりも隅に於けないってのが、どうやら奴さん自分の息のかかったヤツらを『親衛隊』に取り立てて組織したらしい、何だって最も奥まった地に領地を構えるヤツが『親衛隊』なんてモノを組織したのか理由が今一つ判らねえが……あと因みに言うとな、その親衛隊―――7人の“姉妹”で組織されていて……』


「『プレイアデス』―――まさかお前達がグラナティス公が抱える精鋭中の精鋭とうたわれているかの親衛隊か??」


「(あ…っ)―――しまっ……」


「キサラギ―――お前いま剣向ける相手、間違っているんじゃないの?」

「いや……だがしかし―――」

「『しかし』も『かかし』もねえの、オレにはどう見たって今の彼女達は保護対象だと思うんだけどねえ?――――ええと、なんて言ったらいいんだっけ?こういう場合」(ハハハ…)


私は……私達を追い立ててくる連中から逃れる為と反撃する事に注意力を注ぎ込んでいたが為に、連中から逃れる先の事に関しては散漫になっていた、しかし私の妹はそちらの方に気付くのが早かったため私に後方への注意を促したのだったが―――時すでに遅し、私の目の前には行く手を遮る大きな壁……そうあの魔王族の男性―――オプシダン公が立ち塞がっていたのである。

それに速度も出ていたところに妹からの注意も遅かった―――と言った処か、勢いよくオプシダン公にぶつかってしまった私は……しかし公はそんな私をしっかりと受け止めてくれたのだ。

思えば…公に初めて会った時の印象はそれは最悪なモノだった、私達“姉妹”の主上であるグラナティス公に対しても無礼極まりない態度を取るし、そんな公への監視を怠らぬように―――としていたグラナティス公のおもんばかりも過ぎたものではないのかと疑わしかったのだったが……


な―――な、な、な、ななななななんなんだこれはああぁ~っ?! お、男の人の胸板ってこんなにも分厚くて広いものなのぉ?そ、それに私を抱えて離さない太くて硬くて逞しい二の腕……

「あ……あ、あ、あああああの―――ッッ!!」

「あっ?あああ……悪りぃ悪りぃ」

あれ?この子大丈夫か?オレと激しくぶつかった時にしたたかに打ち付けてしまったんだろうか―――顔が赤いようだぞ?多少スピードが乗っていたとはいえ、エルフの女性が激しくぶつかって来た処で魔王族のオレは揺るぎさえしない、まあそこんところは種属の“差”と言うべきではなかろうか。

それに、彼女達を追い立てていたこいつら―――って……


「あ、の、いつまでオプシダン様にくっついているんですか―――これからの戦闘の邪魔ですので、さっさと退いていただけませぇん?」(イラッ)


ん??どしたのサツキさん―――なんだかいつもお話ししている時のトーンとは違ってやや低め(と言うより“ドス”利かせている)……ですよねえ?


「あっ?あああ―――これは失礼……それよりもあなた達は今何と?『戦闘』……だと言ったのか?」

「ええ―――私達は今回この界隈に出没しているヒューマンの“盗賊”者達を討伐する為に捜索をしていたのです。 ですが……まさかここに討伐対象が一つ増えることになるとは…」


あのぉーーーサツキさんや?もしかしなくてもだけど……増えた討伐対象って―――

「な、なあサツキさん?何を言っているんだ?彼女達はこいつらから追われていたんじゃないのか??」

「ええ、私も当初はそう思っていたのですけれども……そこのエルフ―――確か【アルキュオネー】さんでしたっけ?あなた……まだ私ですら経験した事のない『お姫様抱っこ』をオプシダン様からしてもらってえぇえ~~!しかも初対面の時には興味すらない目をしていたといいますのにぃぃ~~~!!!」(キィィィ~!)

ン?な、なんだかおかしな方向に状況が向かっちゃっていない?て言うよりーーーー待て待て待て、オレと【アルキュオネー】……じゃなかった、アリーシャがぶつかった経緯は何も故意ではなく寧ろ自然的な成り行きだろう?それがまたなんでどうして……

「それよりさぁ、話し合いとか言い合いするんだったら目の前のを何とかするのが筋じゃない?」

「それもそうだな、それに見た処―――“盗賊”風情のようだから大したことはなさそうだしな。」

「キサラギ―――またあなたの悪い癖ですよ、外見みためで判断をすると言うのは……」

ほおーーーさっすがカーマインも認めたご自慢の“姫”サマだこと、もう気付いていたとは……しかし―――だなあ…


現在いまの処はまだ判断する材料が乏しい―――上にこの状況……あまり好ましいと思いませんが、敢えて仕掛けて“視”ると言うのもまた一つの手……

「―――参ります!“イザナミ”のしゅ『霹靂禍』」

「ほおぉーーー今のが音に聞く“イザナミ”の攻撃式であるしゅの法ね。」

「―――にしては、あまり効き目がなかったようですね。」

「ええ……まあ、今のは敢えて“視”させてもらっただけ―――それによって私が疑問としていた処も晴れてきました。」


“イザナミ”の攻撃式であるしゅの法―――その一つを紐解く為独特な手指しゅしの動きで雷雲を呼び寄せると、強烈な雷撃がヒューマンの“盗賊”達を襲った。 本来ならここでヒューマンの“盗賊”はご退場―――の運びとなるはずなのだが、【アルキュオネー】(アリーシャ)の片割れであるエルフが指摘した通りにヤツらには雷撃でのダメージはさらさら感じられなかった。 そう―――つまり、ここで最悪……と言うべきかサツキさんが懸念していた事が当たってしまったのである。

(それにしても……こちらの方でもバトルが勃発しちゃったようで―――まあ確かに【アルキュオネー】(アリーシャ)の妹さんの……【アステロペー】だっけ?この子のモノの言い様にも少しばかりトゲがあるように思えたけどさぁ……なにもそこに反応しなくてもいいんじゃない?サツキさん……)


しかし、そう―――オレも一種抱いていた懸念……まさかヒューマンの『勇者』クラスの奴らが『なりすまし』てまでこんな奥地に分け入って来るなんて思ってやしなかったが、サツキさんの“イザナミ”のしゅもってしても傷一つ付けられなかった―――と言う事はそう思ってしまっていいのだろう。

それが判ってしまった処で放置するのはいけない、こう言った禍根を遺していてはいずれオレも厄介事に首を突っ込まされる羽目になるだろうからな。

あ゛ーーーーだからと言って目立つのは勘弁な、オレは目立ちたくないのもあって魔王を引退しここで余生をのーーーんびりと過ごす予定なんだから…

―――ほんの少し痛い目を見るかもしれないけど、そいつはお前サン達の自業自得ってヤツで処理しろな。」



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