第6話 “プレイアデス” ~7人の姉妹~
それにしても、不可解にして不自然だ―――と言うのも、ヒューマンの国がまるで示し合わせたかのように同時に2つ攻め立ててくるなんてね。 これには何かしらの意図があるのかも……
現在私は、数日前にあったアマルガムでの騒動から自治領へと戻ってきて、これまでの期間内に起こったとされる各地の状況を、私の親衛隊である『プレイアデス』を経て報告を受理している。
中でも特段注目しているのが、『学校』では同期生で気が合っていて(と、少なくとも私はそう思っている)交流をしていたオプシダンの動向だ。 彼は本来なら“上級”の魔王として前線でヒューマン達と激しく闘争し、いずれは最上の存在として君臨するのが似合っているのに『面倒臭いから』を理由にその道を選ばなかった。 斯く言う私も家は“上級”なのだがヒューマン達とドンパチやらかしてまで魔王になりたくなかったので、今現在の様に奥まった土地で私の性に合った『研究』などをして生計を立てている。
それより話しを元に戻すとして、ここ最近ではこの大陸各地で動きが活発になってきている。 私自身がそう感じたのが、ある一つの出来事―――そう、元はカーマイン候が治める領内にいたと思われるあのオーガの女性2人……鬼“姫”に“剣”鬼だ。 私が把握している情報では、元来その名はカーマイン候お抱えの軍の“総司令官”と“副司令官”だったはず…しかしそれがブリガンティアの【勇者】達の猛攻の前に敗れ北り《やぶれさり》、文字通り“北”へ―――奥地へと逃げ延びてきたのだという。
しかし、それを私はそのままの意味では受け取らなかった。 だから引き続き―――
「“アルキュオネー”、“アステロペー”、君達二人には引き続いての活動を。 それと加えて鬼“姫”と“剣”鬼が彼の地にいる理由をどうにか割り出して欲しい。」
「(…)領主様は何か目的があるのだと?」
「―――なのかもしれない…ただ、私にしてみればどうしてもあの2人が彼の地にいるのかが不思議てならなくてね。」
「委細―――承知しました。 “アルキュオネー”必ずや領主様のご期待に添う様、奮励努力する所存であります。」
カーマイン候領のオーガの一族で引き継がれるあの名を冠する2人が、ただ敗れ北った《やぶれさった》だけで落ち延びたりはしないはず―――恐らくそこには“臥薪嘗胆”、“捲土重来”したところで敵わないと思ったからこその判断なのだろう…好い判断だ。 それに、頼るべき処も間違えてはいない―――だがしかし、彼……オプシダンはこの私と共に歩むべきなのだ。 その価値を見い出したからこそ、着かず離れずの距離を取りこれまで上手くやって来た。 それをここで他の者に取られてなるものか、その為に現在でも彼の地アマルガムに活動の拠点を置いている“アルキュオネー”と“アステロペー”に依頼の追加を行ったのだが……果たしてどう転ぶものかな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
この私とオプシダン、そして……あまり一緒にはしたくないがヴィリロスとは、私達が魔王となる為に通っていた『学校』での同期生だ。 それにこの私自身この『学校』に通うまでは私こそが一番である事に疑う余地など無かった。 しかしそれは私の領内での事、その『学校』には世界各地にいる『魔王族』の子弟が集まるから私みたいな勘違いしている者も当然集まる。 その中で
「(オプシダン―――だ、と!?誰だ……そのオプシダンと言うヤツは!!)」
* * * * * * * * * * *
「(あ゛~~~話しに聞いてたより簡単だったよなあーーー。 考査のあるまでに習った内容と教書の範囲抑えてれば……だったんだけど、オレが聞いてた話しではよ?少しヒネった問題が出るから―――と、身構えてそう言う予習してたもんだったのに……それにしても失敗しちまったよなあ、なんで首席―――取っちまったんだか。)」
「よおうーーーオプシ!何だお前冴えねえ
「うるせえよ、カーマイン。 お前にゃ判らんだろうなあーーー目立ちたくないのに目立つって言うこの気持ち。」
「ははっ!ヨユーで皮肉か?このヤロウ。 ここにゃその首席取る為に血眼になる連中も少なくないって言うのによ!!」(ゲヒャヒャヒャヒャ)
オレは別に、この考査で首席を取ろうなんざこいつの下の毛ほども思っちゃいない。 逆に言えば思いっきり目立ってしまっている事に胃がキリキリと痛み出してくる始末だ。 しかしなあ……世の中不思議なもんだよな、こんなにも目立つようになることを率先してやれるヤツがいるって事は。 それに、オレは自分の
しかし、で、ある。 それを今更気付いて対策を練ったところで遅かりし―――だったのは言うまでもないことで…
「ちょっとあなた、お待ちなさいな。」
「えっ、なに、どうしたんだいお嬢さん。」
ほら、こういう風になにかしらの因縁をつけて声をかけてくるヤツもいたものだ。 だが、オレは少しばかり考察を巡らし変な方向で目立ってみよう―――との考えに至り、少しばかりチャラついた格好で『学校』内をフラつき始めたのだ。 この外見を見てさすがに首席を取ったのは単なる“まぐれ”だと思ってくれることだろう―――そう願ったものだったが……
この女子生徒―――アクアマリンの髪と眸をした、オレに何かしらの因縁をつけてきたヤツの二言目が……
「あの、わたくしと是非とも結婚を!!」
は・い? ええええーーーーっ?? な、何だこの女……その結論て飛躍しすぎてない?し、しかもーーー割かし目がホンキだ……これはまずい、これはいつものように
「えっ?まだ早いだろう?だってまだオレ達は親の脛に噛り付いてないといけないんだからさあ。 だから結婚なんてまだ早い―――ただそうだねえ~魅力的なハニーからの申し出を無視するわけにもいかないから……お付き合いを前提に―――ってところでどう?」
「お・つ・き・あ・い!!!え……ええそうでしたわね、わたくしったらあなたみたいな魅力的な男性初めてでしたもので…」(もじもじもじりん)
何なんだろうね―――このお嬢さん……今のオレの発言にナニを感じてしまったのか、何だか全身をクネらせ始めたぞ?しかも顔も赤らめて……熱でもあるのだろうか。 それにいるんだよねえーーーこう言うややこしい事を言うヤツ、とは言ってもオレから拒否るのは基本ナイんだよね。 それにいい返事を返したとしても実際はオレがどうするかだろ?それに第一その当時のオレには(男女関係の)お付き合いにはサラサラ興味もなかったため、ヴィリロスのヤツとはその後何の進展もなかったのだ。
* * * * * * * * * * *
あれがオプシダン―――?この私の上を行く成績を取った者か?! いやしかし―――服のセンスとかは壊滅的だな……しかも、そんな彼に喰ってかかる者が(私以外に)いようとは……ん~~~と、ナニナニ―――彼女も私と同じ“上級”の家の出でヴィリロス……成績は10位にも入っていないな。 よくそんなもので首席を取った彼に喰ってかかれるものだ……と、少しばかり呆れていたその時。
な、な、な、な…………なななななななななんだと、『結婚』!!? しまった、そう言う事か!!あの女は因縁をつけるかのようにして将来の設計を見込んで一気に陥落させようと言う腹か!(大間違いです)
ぐぬぬぬ……この私ともあろう者が出遅れてしまうとは―――ん?しかし何だか少し様子がおかしいぞ?全くと言っていいほど彼からの返事に誠意が感じられない……おまけに目が死んだ魚の様になっている、ひょっとしてこれが生返事と言うヤツか??!
ふむ……どうやら敵はチャラついているように見えても中々手強そうだ。 あの女―――ヴィリロスと言ったか?彼女の策も中々だったが、それをもヒラリと
しかし―――そうはいっても、なかなか見つからないものだよなあ……“きっかけ”。 そう、“きっかけ”さえ掴んでしまえば後でどうとでもなる―――そう……あとは“きっかけ”さえ掴みかければ……
「ち、ちょっとぉ?ナ、ナニをしているんだ??」
「えっ?ああ、これあんたのレポート?ちょっと目に着いちゃったんでね、勝手ながらに読ませてもらったよ。」
ええ……っと、コレは一体??なぜ気になっている彼―――オプシダンが、ここ最近私が思いついたアイデアをまとめて次の『研究』に生かせるかのレポートを、私の許可なく無断で読んでいる??
しかしそこで私は思った―――これはひょっとすると天が私に与え給うたる“配剤”ではなかろうかと。 そう、“きっかけ”は思わずの処で出来、あとは私が掴むだけ―――…
「み、み、見るなあ~~~!私の許可なく、無断で、勝手に!!」
――――ヤってしまった……どうやら気が動転し過ぎて感情の方が勝ってしまったみたいだ……ああぁ~~~どうして私は昔からこうなんだろう?昔から父親には『お前に(嫁の)貰い手が無かったとしたら、ひょっとしたら『研究』こそがお前の夫となるべき者なのかな。』と皮肉られたのが今にして思い起こされる……
しかし―――?
「あっ、スマンスマン…けれどこの『魔力転用理論』て思わず興味が惹かれたものでねえ―――けど、ま、あんたがそんなにまで嫌がるんだったら無理にまで見ないよ。」
えっ……ウソだろ?何なのだこの彼の反応は―――そう私が思ったのも無理なかった。 それというのも彼の事をもっとよく知る為にここ何年か彼に纏わりつくようにして張り付いていた処(←立派なストーカー行為)、彼はさして興味が無い対象の前では素っ気ない……実に素っ気ない態度なのだ(例えばヴィリロスの件とか)。 なのに……私に対してはちゃんとした対応を??これは“チャンス”だ―――“チャンス”に違いない!
「あっ…ちょ、ちょっと待ってほしい。 じ、実は折り入って聞いてみたい事があったのだが……」
「ん?どしたの―――」
「じ……実は……そ、そのう~~~~こ、この理論のこの部分なのだけどね、ちょっとアイデアが浮かばないと言うか……」
わ・た・し・の意気地なしぃぃ~~~!今言うべきはそう言う事ではないだろう!! しかし、あの当時の私にとってはあれが限界だったのだーーー(と、言いつつ
だか、今を思えばの話しをすると、あそこでああいう風に切り出したからこそ今現在オプシダンとは“好く”もなくまた“悪く”もなく付き合っていられると言う事になる―――の・かな?
なんかコイツ―――会うたびに衣装がカゲキなってない?今も当初見た時(『学校』入り立ての頃)と比較すると胸繰りのところがやけにギリギリを攻めてきてるというか―――いやね、オレもね、一応は男なのよ?だからそう言う……(性的な意味での)興味が無い―――とまではいわない。 しかし、だからと言って急にジロジロ見ちゃうのもなんだか変でしょう?だから割と気を使って目線をそちらに向かわせない様にしてるんだけども……くぁ~~~それにしても気になる!
それに、気になると言えばコイツ……グラナティスが書いたという論文の内容にあった。 そもそもオレ達には『魔力』が備わっている。 しかしその『魔力』を有用に活用するには概ね戦闘だとか戦争用に使用するのが今までの常識だったのだ。 だから“上級”の奴らはその高い魔力や能力を活かし、日夜ヒューマン達と抗争を続けているのだ。
そう―――ここで気付いたかもしれないが、これまでは主に戦闘や戦争用でしか有用性が見い出せなかった魔力というものが、この論文で一気に―――とまではいかないかもしれないが戦闘や戦争以外での活用法も見えてくる。 そう、その論文にはそれだけの価値があると思ったのだが……
まあ―――普通怒るよねぇ(笑) だって自分が大切にしてきた研究を赤の他人……
しかし―――?である、グラナティスはオレが無断でレポートの論文を見た事は怒りはしたものの、何故だかオレに意見を求め出したのだ。 とは言えなあ……オレはただその内容には興味は示したもののそうした知識―――『魔法工学』ての?そういうのはからっきしなんだけれど……
「ん~~~なんかさあ……こうーーー別のモノに魔力を蓄積させられる……“容器”?みたいなものがあった方がいいんじゃないかなあ。」
「おお!そう言う考え方があったか、いやあ~~~目から鱗とはこの事だなあ。 そうしたアイデアは浮かばなかった。 ああ、自己紹介が遅れてしまったね、私はグラナティスだ、どうやら君とは気が合いそうだから今後とも何かとよろしく頼むとするよ。」
「ああどうも―――オレはオプシダンだ。 それにしても……グラナティスってどこかで聞いた名だなあ?」
「一次考査の時、君の“次席”だった者の名だよ。 それにしてもその後は振るわなかったようだけれども?」
「ああ―――そりゃだって“まぐれ”ってもんだよ。 いやあ~~怖いねえ?“まぐれ”って。 そう言うあんた……グラナティスは一次以降は首席キープしてるじゃないのよ。」
私はこの時、彼の嘘を見逃さなかった。 それというのも彼が提じたアイデアは実は私も至った処だったのだが、どうにも“容器”の心当たりがない―――しかしここに私のアイデアにまで至った人物がいる……と言う事は、だ。 いずれは“容器”に関しても何らかの啓示が
それに彼の“嘘”と言うのは、例の一次考査以降は彼は真面目に取り組んでいない―――だから彼に負けじと必死になって努力(要はお勉強)を欠かさなかった私が、卒業するまでの最終考査まで首席だったのだ。 ……が―――前述を見ての様に卒業の際の首席はオプシダンであり、次席は私ではない他の学生だったのは“ここだけの話し”だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
現在私達姉妹は、アマルガムを拠点に冒険者として生計を立てている。 実を言うと冒険者としてやっていくのに特段ここ(アマルガム)ではないといけない―――と言う事もないのだが、そこはまあ……私達なりの事情と言うのもあるのだ。 そう、つまり私―――アリーシャはあまりここ(アマルガム)が好きではない。 それというのも、以前からお世話になっているグラナティス公に対し無礼極まりない態度で接して来るあの男―――オプシダン公の事をあまり快く思っていないからなのだ。
それに……冒険者としての稼ぎを求めるなら出来たばかりの“
しかし―――例えそうであっても私達の一存でどうにでもなる事ではない為、渋々ながらもアマルガムで冒険者としてやっていかなければならないのだ…
だが―――そうした浮ついた気分で受けたクエストを遂行していると途端に窮地に陥ってしまう事は儘にしてある事で―――
「どうしようアリーシャ姉ちゃん……すっかり周りを囲まれちゃったよ。」
「弱音を吐くなリルーファ、どうにか包囲網の手薄な部分を衝いて一点突破を図るぞ!」
こうしてどうにか、姑息的……一時的なその場しのぎで急場を凌いだものだったのだが―――今回私達がクエストの遂行途中で遭遇したのはヒューマンの“盗賊”と言う者達だった。 しかし思う処もある、それというのもアマルガムと言う都市はその土地柄の関係上我々魔族領とヒューマン達の国家の“境”が接している前線よりは奥まった場所にあり―――まあとどのつまりそうおいそれとヒューマン達がこんな奥まった場所にいるとは思わなかったのだが、今はそこで悩む為に足を止めてはならない―――何より私達の身に危険が迫っているのは間違いはないのだから。
だけど……ふとした事で“本当”の事が漏れてしまうのは仕方のないことで―――
「(!!)危ない……『エンタープライズ』―――――!!!」
それは、アリーシャに“死”と言う危険が舞い降りようとした瞬間に、私の口から洩れた“真の名”だった。
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