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 この人の第一印象は、とにかくお人好しな人間だな、というものだった。

 一ノ瀬亮介。

 入社直後に初めて会った時から、二五才という年齢ながら、十五才の少年のような純粋な面と、三十才の大人のような成熟した思慮深い面を併せ持つ不思議な人だった。見た目から性格まで、何もかもが自分とかけ離れたどこか遠い存在だった。一ノ瀬さんに付きっきりで新人研修をしてもらったことが縁で、以来何かにつけて面倒を見てもらってばかりでいる。いつまで経っても半人前の自分の面倒を根気よく見てくれて、失敗をした自分の代わりに頭を下げてくれたことも一度や二度ではない。今年の春に配置替えがあって、今では同じ部署内でも顔を合わせることがめっきり少なくなったが、それまでずっと一ノ瀬さんが直属の上司だった。

 誰に対してもこの調子ということもあって、いつも彼の周りには自然と人が集まってくる。でもそれはきっと、面倒見がよく柔和な性格よりも、百八十超えの高身長に目鼻立ちのくっきりとした端正な顔立ちがそうさせるのだろう。彼自身は決して完全無欠といった感じではないのだが、その抜けている所がまた母性本能をくすぐられるらしく、社内の女性社員のみならず、男性社員や取引先にも多くのファンがいるとの噂が絶えない。

 そんな彼に告白を挑んだ者は数知れずだが、誰一人として成功せず、未だ一ノ瀬さんのそういった手の噂の一つすらないことが、女子社員達の間で様々な憶測を生んでいた。

 そんな一ノ瀬さんを自分も頼れる上司として信頼していたのだが、いつからか自分の気持ちはそれだけでなくなっていた。それに気づいたのも、もうずいぶんと前のことだ。その時は驚きよりも、正直自分の愚かさに呆れた。自分には分不相応で、あまりにも不毛過ぎる相手だった。それゆえにさっさと諦め、自分にもそう言い聞かせてきたのだ。

 それなのに、今日に限って…。

 これが偶然だというならば、いくらなんでも残酷過ぎる。

 もはや何をする気力もなく、しばらく自販機前の壁に寄りかかっていた。


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