第41話 骨川刑務所襲撃〜後編〜

「「ぎゃああぁぁぁ!!」」

足の甲に銃を撃たれた刑務所職員達は苦痛の叫び声を上げる。


「き、貴様! こ、こんな事してどうなるか分かっているのか? 骨川……骨川 大便氏はこの街……いや、この国を牛耳るフィクサーの一人とも言われているんだぞ!!」

唯一拳銃で撃たれなかった警棒を持った警備員が茜に向かって叫び、声を荒げるもそんな声などお構いなしに、鳳凰院 茜は涼しい顔でぽっこり下駄の音を響かせ、刑務所敷地内の奥へと歩みを進めた。


「あ、あのあま……ただじゃ済まさね」

警棒を持った警備員はすかさず携帯を取り出すと登録名簿からある所に電話をかける。


トゥルルルル トゥルルルル


「あっ!? もしもし、こちら骨川刑務所の警備をさせて頂いております沼田と申しますが、あっ!? 秘書の方ですか? 至急に大便氏に繋げてもらえないでしょうか? 緊急の事態が起こりまして……あっ、はい……今しがた骨川刑務所にヤクザの連中が襲撃しまして、職員と警備の四人が撃たれ……えっ、はいそうです、それではその事を秘書さんの方から大便氏にお伝えして……はい、ありがとうございます、お忙しい所に申し訳ないです、失礼します」

警棒を持った警備員の沼田は直ぐに骨川財閥に連絡し、骨川財閥の骨川大便総裁専属秘書へと襲撃の事の詳細を伝えた。


「おい貴様ら、お前らがあの着物女と仲間なのは分かってんだ、今からうちの息の掛かっている警察官がここへ来るから待っていろよ、逃げても無駄だからな!」

警備員沼田は警棒を振り回し叫ぶ、しかし暗黒白虎組の組員はそんな声など聞こえないかの様にただ黙って立ち尽くしていると、するとしばらくして少し遠くの方から一連の騒ぎを聞きつけたのか、ボサボサ頭の髪をした大柄な男がこちらに叫びながら向かって来た。


「おーい! 何だ今の銃声音は? それに何やら悲鳴の様な声も聞こえたが……」

大柄の男は刑務所門前まで来るとその場に立ち止まり、周辺を見回すと誰に問うでもなく再度改めて同じ質問を問いかける。


「な、なんだ貴様はどっか行け!」

警備員沼田はボサボサ頭の大柄な男にイラ立ちを隠せず怒声を上げる。


「いやいやそうはいかんだろ、銃声音と悲鳴が聞こえたんだ、俺はこんな身なりだがな一応刑事なんでね……ほら」

大柄のボサボサ頭の男は懐から黒い手帳を取り出すと警備員沼田に見せる様に掲げた。


「け、警視庁……刑事?」

警備員沼田は動揺した、なぜなら沼田が呼んでる警察官ではないからだ。


「おう、特殊能力対策課の山田 太郎という者だが、たまたま用事で東桜台高校にいたら銃声が聞こえたんでな、なんかトラブルなんだろ? こんな早朝に強面こわもての男達が大勢集まって、それになんだそこに落ちている銃は? モデルガンじゃねーよな……撃たれている奴がいるみたいだし、救急車は呼んだか? とにかくこんな現場に出くわしてしまっては見過ごすわけにはいかないんだわ、警察関係者なんでな」

山田は周りを見渡しながら撃たれた男達の元へと近づく。


「お、おい……許可なく勝手に敷地内に入るな! もう警察には連絡してある、あんたには関係ないんだ……どこか行ってくれ」

警備員沼田は困惑した表情を浮かべ山田の進行をさまたげる。


「悪いな仕事なんでな」

山田は警備員沼田の声など無視して、発砲したであろう拳銃をハンカチで掴むと懐から取り出した透明なビニール袋に入れた。


「お、おい! 貴様何してるそれは……」

「これがどうした? 犯行に使われた凶器なんだろ? それともあんたの所有物だったか? なら銃刀法違反で現行犯逮捕しなきゃならんが」

山田は警備員沼田の制止に鋭い眼光で睨みつけ詰め寄る様に答える。


すると一台のパトカーがサイレンを鳴らさずに骨川刑務所前に停車、二人の警察官が降車する。


「おい沼田、なんだこんな朝早くから……げっ!?」

警察官の一人が警備員沼田に問い詰めようと近づくとボサボサ頭の大柄な山田を の姿に気づき言葉を詰まらせた。


「おぉ丁度いい所にきた発砲事件だ、取り敢えずお前らは現場の確保と応援を呼んどけ、俺はそこの強面こわもての男達の聞き取り調査しとくからよ」


「えっ!? は、はい……や、山田刑事!」

山田は二人の警察官を見るや直ぐに指示を出し、警察官二人は緊張した面持ちで震えながら敬礼をした。


山田は袋に入れた銃を懐にしまうと再び手帳を出しながら暗黒白虎組の組員達の所へと向かった。


「あぁちょっといいかな? お前らに事情説明してもらいたいんだわ」

「なら私が話を聞きましょう」

暗黒白虎組若頭、門 半蔵が前に出て山田と対面すると、お互い先程とは違い周囲に声が聞き取れない低さでコソコソと話し出した。


「ちょ、ちょっと半蔵さん、こんな朝早く何をしてんですか? もし報道関係者まで来たら悪く書かれて茜にも迷惑かかりますよ? 取り敢えずここは自分が誤魔化して起きますから、半蔵さん達は早々にこの場を立ち去ってください」

山田は苦笑いを浮かべ懇願する。


「それが……すいやせん山田はん、いまは茜組長が刑務所に乗り込んでいる最中で……ですからあっしらはこの場を離れるわけにはいかんのです」

半蔵は困った顔で答える。


「えっ! はぁ!? 茜が中にいるの? な、なんで? たくあーもう何してんだあいつは……んっ? あぁ、ちょっと待って下さい半蔵さん、まさかとは思いますが……ちなみにあの銃で撃たれた奴らを撃ったのって誰なんです?」

山田はつい大きな声で驚いた声を上げると少し離れた所にいる撃たれた四人の刑務所職員と警備員を見ながら再び小声で問いかける。


「茜組長です」

半蔵は表情を変えず、しっかりした声で答えた。


「あちゃー! はぁ〜マジか……あ〜たく本当にあいつは何してんだ……余計な仕事増やしやがって」

山田を顔を手で覆い、独り言の様に呟く。


「まぁしゃーね、とにかく半蔵さん達は組事務所に戻っていて下さい、後の事は俺がどうにかしますから」

「し、しかし……」

山田は半蔵の胸を軽く数回叩き親指を立てる、しかし半蔵からしたら関係のない山田を巻き込む事に躊躇ためらいもあり回答に詰まる。


「よし、お前ら解散だ! はよれ」

山田は大声で叫ぶと、暗黒白虎組に手を去る様に振り強引に現場を仕切る。


「すいやせん山田はん、でしたら言葉に甘えここは一旦引かせて頂きやす……茜組長の事はお任せしました」

半蔵は深々と山田に頭を下げると他の組員に声を掛けて刑務所を後にした。


「お、、おい……貴様ら何勝手に……」

警備員沼田は立ち去ろうとする暗黒白虎組の組員に向かって叫ぶ。


「あぁ野次馬は帰した、あいつらはたまたまここを通った全員赤の他人同士らしいから、事件とは関係ないと俺が判断したんだ」

山田は真剣な眼差しと声で警備員沼田に答える。


「はぁ〜!? 野次馬? 赤の他人同士? いやいやどう見てもアイツらは全員ヤクザの仲間同士でしょうが刑事さん?」

警備員沼田は困惑した表情で山田に問い詰める。


「まぁ何を言おうが今は俺が現場責任者なんでな、もしあんたが俺の指示に従えないなら公務執行妨害罪であんたを逮捕せないかんが……どうする?」

山田は惚けたけた表情ながら睨みつける眼差しで沼田を脅す。


「ふ、ふざけるな! あいつらはあの、うちの連中を撃ったあの女の仲間なんだ!」

警備員沼田は怒声をあげ、茜が向かった刑務所敷地内を指差し山田へと詰め寄った。


「ほう……容疑者があちらに向かったんですね? 事件調査の協力ありがとうございます」

山田は警備員沼田に一礼すると、警備員沼田が指を指した方へと歩みをすすめ刑務所敷地内へと入っていった。


「お、おい、ふざけるな! 誰が勝手に入っていいと言った?」

警備員沼田は山田の勝手過ぎる行動に怒鳴り声を上げる。


「んっ!? お前が容疑者がこっちに言ったって言ったんだろうが? それとも虚偽の発言か? 容疑者を庇ってるのか? もし共犯者ならお前を逮捕せないかんが? 俺は刑事で犯罪者を逮捕するのが仕事なんだは」

山田は警備員沼田に振り向くと冷めた目で睨みつけ問い詰める。


「ぐぅ……!?」

警備員沼田は山田の威圧的態度に圧倒され何も言えなくなる。


「文句ないなら俺は容疑者を追ってくるから、お前ら応援よんで現場の確保と被害者の保護を頼んだぞ」

山田は警察官二人に指示を出すと刑務所敷地内奥へと姿を消した。



「無茶苦茶だ! どうすんだお前ら? これ以上不祥事起こせば骨川財閥に俺らが消されるぞ、あの狂った刑事をお前らが消してこいよ!」

警備員沼田は警察官二人に詰め寄る。


「バ、バカ言うな! お前はあいつを知らないのか? 格闘技界でも世界最強って言われてた男だぞ……仮に拳銃で挑んでも勝てる気がせん、やるならお前が行け!」

警察官の一人が反抗する。


「そんな事言い合ってる場合じゃねーだろ、取り敢えずこの現場をどうするかだ? 撃たれた奴らは骨川病院に搬送して銃で撃たれた事は内密に処理してもらえ、俺らも署には連絡しないで適当な報告書出しておくから、お前らも口裏合わせておけよ」

もう一人の警察官は現場を見廻して状況整理しながら話す。


「……うぅ、まぁそうだな、そうするしかねーか」

警備員沼田は渋々ながら警察官の案に頷く。


「それにあいつらが向かったのって久須 竜也のところなんだろ? だったら久須がなんとかするんじゃねーか? あいつは強さに凶悪性も兼ね備えてるからな、だから俺らはあいつらが久須に殺されることだけを願って、その後処理をする事を考えよーぜ」

警察官の一人が拳銃を拾いながら話す。


「そ、それもそうだな、あの久須相手だ……」

警備員沼田が骨川病院に電話を掛けながら答える。


「なら俺は署に帰って通報は誤報でしたと上に報告書書いとくからよ、先に戻るぞ」

警察官の一人がパトカーに乗り窓を開けて話すと車を出した。


「「おぉ、よろしく!」」

警備員沼田た警察官の一人は手を振って答え。


「ちゃっちゃか後処理済ませたら軽く飲みにでも行こうぜ!」

警備員沼田は警察官の一人に話す。


「それもそうだな、結果何も起きなかったんだからよ」

警察官の一人は笑顔でそれに答えた。






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