第14話 白間 美希の三つ巴の想い人

 白間しろま 美希みきが白間家の玄関前で黒戸くろと しろの妹、黒戸くろと くれないと口論していると、美希のスマホに一通のメールが届き、紅のスマホからも着信音が鳴り響いた。


美希はメールの差出人を見る。

「あっ、礼子からだ」

久須くす 竜也たつやに襲われていた沢村さわむら 礼子れいこからメールが来た事で、礼子が無事だった事に美希は安堵し、友達を置いて逃げてしまった事への罪悪感が少しやわらぎ、「良かった、白が上手くやってくれたのかな……」っと美希は礼子から来たメールを急いで開いて読む、しかしそのメールの内容を見た美希はあまりの衝撃に絶句し、その場に立っていられずに腰から力が抜け座り込んでしまった。


『美希どうしよう、あの後ね黒戸、うちの同じクラスの黒戸が助けにきてくれたんだけど、刺されて、何十箇所も刺されて、血が大量に、今桜ヶ丘中央病院に搬送中なんだけど、わたしどうしたら』


現実を受け入れらない内容に、美希は大声で嗚咽おえつするような声で泣き叫ぶ。


「み、美希ちゃん……!? だ、大丈夫?」

美希が泣き叫び地面にへたり込む姿を見た紅は鳴り響く自身の電話に出るのを止め驚いた顔をして美希の元に駆け寄り、着信音が鳴り響くスマホを鞄にしまい美希に声をかける。


「し、白が……白が、また私のせいで……」

美希は憔悴しょうすいした様な顔で紅にしがみつき震えながらスマホのメール画面を見せる。


「えっ……!? な、な、何これ、なんでお兄ちゃんが刺されたって!? ねぇ……ねぇ、冗談だよね? 美希ちゃん? ねっ? ねっ……?」

紅はメール画面の内容が理解出来ず、美希の肩を掴み何度も何度も揺らしながら問いかける。


美希は中々頭の整理が出来なかったが、ただただメールに書いてあった『桜ヶ丘中央病院』に一刻も早く向かい、白に会わないといけない気持ちを抑えることが出来ず、紅の手を退しりぞけると、病院に向かい走り出した。


「ちょっ、ちょっと美希ちゃん待ちなさいよ! まだ話が……」

紅もまた何が今お兄ちゃんに起きているのか理解出来ないまま、とにかく美希に見せられたメールに書かれていた病院、たぶん美希が向かって走ってる所に行けばお兄ちゃんがいるのだろう。


二人は夕闇の中、桜ヶ丘中央病院に向かって走っていった。


ーー

ーー

ーー


どれくらいの時間が経っただろうか周囲は既に薄暗く、桜ヶ丘中央病院の近くに来た頃には周囲は既に薄暗くなっており、病院の正門はすでに閉められていた。


「はぁはぁ……もう面会時間が終わってる……」

美希は長い事走っていた為に息切れし、疲労で歩くのすら足を引きずるようだった。


正門がダメなら裏門が開いているはずと思い、美希と紅は裏門に向かい歩いて行く、裏門の近くにはなぜかパトカーが一台停まっていた、パトカーを見た美希はさっきのメールが思い浮かび、良くない事ばかり脳裏を走り不安が増していく。


痛い足を引きずるようにやっと裏門に到着した二人、夜遅くの病院の裏通りとあって薄暗うすぐらいその場所はとても静寂に包まれていた。


裏門を通り二人は病院の裏口に近づくと、裏口出入り口に二人の男性が立っているのが見え、一人は警察の方だろう制服を着て、もう一人はしなびれたスーツを着たボサボサ髪をした中年男性が立っていた。


美希と紅はその裏口に向かい歩いて行こうとするとその裏口のドアから一人の女性が口元を指でさすりながら出て来た、その姿は制服のいたる所に血の跡の様な汚れが目立ち、白いワイシャツにいたっては半分近く真っ赤に染まっていた、その女性は裏口を出ると近くにいた二人の男性に軽く会釈えしゃくし何かを話し始めた。


女性は背が高く、モデルのようなスタイル、ショートカットの金髪がよく似あう……


「れ、礼子……!?」

美希はその見覚えのあるその容姿ようしを見るや、会話中にも関わらず大きな声で名前を叫んだ。


「えっ!? あっ……み、美希!」

礼子は大きな問いかけに最初は驚き周囲を見回すと美希の事に気ずき二人の男性に深々と頭を下げて会話を一旦辞めて美希の方に歩み寄って来た。


「美希……ごめんね変なメールしちゃって、あの時は色々と動揺しちゃって……私は大丈夫だから……ありがとう来てくれて、今ね刑事さんが夜遅いから家までパトカーで送ってってくれるって話をしていてね……」

礼子は美希を見て安堵したのか、少し嬉しそうな表情で美希に喜びつつ謝った。


「ううん、私こそごめん……何も、何もしてあげられない上に礼子を置いて逃げて……それに大丈夫って……その……その血……どこか怪我したんじゃないの?」

美希は何度も頭を下げ、礼子の今の姿を心配した。


「あぁコレは……コレは……わ、私の血じゃないから、あの後に美希がいなくなった後にしばらくして黒戸が……あの同じクラスの黒戸が来てくれてさ……この血も……私を……私なんかを助けようと庇って……その時に黒戸を抱きかかえた時に付いちゃっただけだから……」

礼子は事件時の事を思い出してしまうのか話すトーンが徐々に低くなり、少し悲しい表情で震える自分の体を両手で抱きしめ何かを想うように涙声で話す。


「その白……あ……違う、く、黒戸は、黒戸は大丈夫なんだよね!?」

美希は礼子の話を聞くや焦る様に礼子の肩を両手で鷲掴み質問をした。


「えっ!? あっ……黒戸は……黒戸君なら今のところ大丈夫……最初は意識失ったりしていたけど、お医者さんも驚くほどの驚異的な回復だって……」

礼子はなぜ美希がこんなに黒戸の事を心配するのか不思議に思ったが聞かれた問いに対して素直に答えた、確かにクラスメイトの一人がこんな大怪我したんだから気になるのかもしれないが、でも明らかにいまの美希の態度は大切な人を心配するかの様な表情と態度に見えた。


「そ、そっか……よかった……」

礼子の話を聞いて美希は安堵し、両手を胸の辺りで祈る様に組み、目をつぶって、早く白が元気になるよう願っていた、するとそんなやり取りを礼子と美希がしている後ろからイライラした様な明らかに不機嫌そうな声が彼女達二人に向けて投げられた。


「あのね、さっきから話聞いてると、人のお兄ちゃんを気安く呼び捨てで馴れ馴れしく呼ばないで頂けます、貴方あなたがたの様な赤の他人は、大事な事だからもう一度言うわ、赤の他人はさっさとお引き取りして頂けないでしょうか? 二度と白お兄ちゃんに近付かないで下さい、さようなら」

黒戸 紅は二人の会話から白が無事な事や、今は回復に向かってる事をさっして安堵した一方、目の前の美少女二人がお兄ちゃんの事を口に出している事にいら立ちを隠せず、紅は手をぶらぶらさせ、「シッ、シッ」と二人の美少女に対して悪い虫を追い出す様な仕草で悪態を示した。


「まったく私が見張ってないと変な虫が近寄ってきて嫌になりますね、あ〜あ早く私も白お兄ちゃんと同じ高校に入って、お兄ちゃんの近辺管理をしてあげなあといけないわね」

紅はぶつぶつ独り言を呟きながら、裏口のドアの取っ手を掴み入ろうとした。


「おいおい嬢ちゃんダメだダメ、もう面会時間は終わってんだ、おじさん達がパトカーで家まで送ってやっから今日は諦めて明日にしな」

紅にボサボサ頭のしなびたスーツを着た男が駆け寄り、裏口から入ろうとする紅を制止しようとした。


「あん!」

だいぶ年の差のあるだろうその男性に紅は虫の居所が悪かったのか物凄い形相ぎょうそうで睨み威嚇いかくした。


その目を見たボサボサ頭の萎れたスーツの男は体が硬直し、その場から動けなくなり。

(な、なんだこの感覚は……恐怖? この俺がこんなお嬢ちゃんに……まるで蛇に睨まれた蛙の様なこんな感覚はあの時以来……あの時……)

ボサボサ頭の男は冷や汗をかき生唾なまつばを飲み込み、その少女をよく観察した。


「薄紫の髪、三白眼の眼差し、そして全体を覆うような凄まじいオーラ……!?」

男はかつて唯一ゆいいついままで生きてきた中で一番の恐怖を感じ、死を覚悟した時の事を思い出した。


「お、お、お前!? パ、パ、パープルデビ……ぐはぁ!!」

男がある名前を口に出しかけた瞬間、紅は男の懐に一瞬の速さで入り込み、お腹の溝に一撃のボディーブローを畳み込む、男は一瞬で気を失いその場に倒れこんだ。


「だ、だ、大丈夫ですかおじさん?」

紅は何事もなかったのかの様に、ボサボサ頭の萎れたスーツの男を心配するフリをして声を掛けた。


周りも突然何が起きたのか分からず駆け寄り心配する、そう紅がボサボサ頭の男に行おこなった行動はあまりの速さに誰も気づいていなかった、それぐらいの速さでこの少女は事を瞬時におこなったのだ……だがしかし一人だけはその行動に気づいていた者がいた……そう沢村 礼子、彼女だけはたまたま見てしまった、紅がボサボサ頭の萎れたスーツの男に一撃を喰らわす一瞬を、だから目の前で心配する振りをしてる紅のそんな様子を後ろから凝視ぎょうしせざるおえなかったのだ。


「えっ……!?」

礼子の体は全身硬直し凄すさまじいプレッシャー圧が彼女を襲った。


それもそのはずである、疑いの目で見ている少女が首を九十度動かして礼子の事を見つめ、こちらに向けてニコッと笑っていたのだから。

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