第15話 沢村礼子の恋こころ

沢村さわむら 礼子れいこは警察に送ってもらい家に着くと直ぐに何かを洗い流すかの様にお風呂に向かい、湯船に浸かって今日あった事を思い返していた。


病院からの帰り突然紅が刑事の山田を襲い山田刑事は一瞬で気絶させられた、だがその光景はお巡りさんや美希みきは気づいてはおらず、ただ山田刑事が突然倒れたのだと勘違いして駆け寄る、礼子は紅のその動きや身に纏まとうオーラにその場を動けず何も言葉を発せられなかった。


その後お巡りさんが山田刑事を抱えてパトカーの助手席に乗せるのを美希は手伝い、礼子と美希、くれないが後部座席に乗せてもらいそれぞれの家に送ってもらう事となった。


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家に帰る道中の車内は静まり返りそれぞれが沈黙を守っていたが、そんな静寂を最初に断ち切ったのは紅だった。


「礼子さんって言いましたっけ、あなたはお兄ちゃんとはどの様なご関係で?」

紅は虫ケラを見る様な眼差しで礼子を見つめ話しかける。


「お、お兄ちゃん……?」

礼子は唐突な質問に戸惑い。


「白……あっ!? 違う……え〜と、あっ!? そ、そう黒戸の事を聞いてるんだよ礼子、紅ちゃんは黒戸の妹さんなのね」

すると美希が耳打ちする様に礼子に紅の事を教える。


「えっ!? あ〜あ……そうなんだ、え〜と……私は……私は黒戸の同級生、同じクラスの……そう、同級生……」

礼子は美希から紅の事を聞かされると少し驚き、さっき見た紅の光景が脳裏を走り、まだ知り合って間もない少女に恐怖で体が震え言葉に詰まり結局は無難な答えを口に出していた。


「ふ〜ん、同級生……ね、まぁそう言う事にしておきましょうか、ねぇ美希さん?」

紅は窓の外を見ながら『何が同級生だこの女狐めぎつねめ』と言わんばかりの態度で、ワザとらしく美希に同調を求める様に話しかける。


「えっ!?  わ、私は……私も白……黒戸とは……」

いつもの美希なら普通に『私も同級生だよ』と言っていただろう、だが美希は何かこの紅に対して後ろめたい事があるのか、歯切れの悪い言葉の詰まった物言いでそれ以上何も言えずうつむいてしまった。


「やっぱり美希ちゃんは昔と全然変わってないね、ただの同級生って言えばいいんだよそこの礼子さんの様に、それともまたお兄ちゃんは『ストーカー』って言う?」

紅は美希に対しおちょくる様なそんな口調の態度で話しかけていたが、目だけは鋭く『そんな事を言ったらどうなるか分かってるんでしょうね』と言わんばかりの威圧感で美希を睨んでいた、そんなやり取りを横目で見ていた礼子は美希が明らかに困っているのを感じ。


「あのさ、紅ちゃんって言ったっけ? あなたと美希の間に何があったかは知らないけど、そんな相手をおちょくる様な言い方はどうかと思うわ」

礼子は美希を助けると同時に、紅の態度に腹が立ち口をはさむ。


「……ふん」

紅はねた。


するとまた車内は静寂に包まれ、そのまま沈黙した空気の中パトカーはそれぞれの家へと走り出していった。


ーー

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礼子は湯船に口まで潜り、ぶくぶくと泡を立てながら、車内で自分が言った『同級生』と言う言葉を思い返しながら少し後悔していた。


「同級生か……前なら同級生ですら考えてもいなかっただろう相手、でも、でも今は……今は黒戸と同級生、いやそれ以上……友達……? 恋人……」

礼子は口元まで湯船に浸かり、自答自問を繰り返しては顔を赤くして頭を左右に振り、『私どうしちゃったんだろと』と呟きながら唇を指でさすり、病室で黒戸とキスをした時のことを思い出しては胸の鼓動が小刻みに激しく動き、胸がキューンと締め付けられると、何だかとても息苦しく切ない想いにかられていた。


「そう言えば美希は紅ちゃんと知り合いだったのね、それなら美希は昔から黒戸と知り合いだったって事なのかな……」

礼子はそう考えを巡らせていると自分自身が黒戸 白の事を何も知らない事が何だか歯痒はがゆく、美希のあの時々の態度はやっぱり……


礼子はそれ以上は何も考えないようにしようと頬を両手で軽く叩きお風呂から出る。


「負けないからね美希」

礼子はそう口に出すと明日の学校に備えて早く寝ようと布団に入り、保存用の透明な袋に入れた黒戸の血がべったり付いてしまった鮮血に染まったワイシャツをギュッと抱きしめ。


「黒戸……ありがとう」

助けてくれた事を思い出しながら、目に涙を浮かべ深い眠りについた。

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