第7話 沢村 礼子の絶望と小さな光

私は東桜台高校一年の沢村さわむら 礼子れいこ、金髪ショートカットのボーイッシュなヘアーに、一重の鋭い目、制服も崩して着こなし、口調も少しキツめだからだろうか、周りからは少し距離をとられがちだ。


そのためか軽々しく声をかけてくれるような物好きはいなかった……そうこの子以外は、同じクラスで、赤いポニーテルが印象的な明るい笑顔の白間しろま 美希みき


入学してクラスに入ると直ぐに私の所に来て美希は。


「わ〜凄い綺麗な目、あなた美人ね」

「あん?」

「私、白間 美希、美希って呼んで!」

「……」

「あなたの名前教えて?」

「なんでいきなり初対面の人間に名前教えなきゃいけないの?」

「そっか……分かった」

初対面の印象は馴れ馴れしい女って感じで、私が少し突き放したら、落ち込んだのか廊下に出て行ってしまった。


「なんだあいつ、あ〜言うタイプはどうも好かないね」

ハッキリ言って嫌いなタイプだった。


入学式バックれれば良かったなんて考えながら教室の机で顔を伏せながら、同じようにしてる男子を見かけた。


「なんだアイツ、入学早々机で寝て、さびしい奴、誰にも声かけられねーでやんの」

私はそんな事考えながらぼっ〜としてると、大きな声が私にかけられた。


「あれ〜?また会ったね、覚えてる、美希、白間 美希だよ」

「……あん?」

突然また芝居かかった口調で美希が現れ、私の目の前の空いてた席に座った。


「ねぇ、初対面じゃないから、名前教えてよ?」

「はぁ〜嫌だね」

「まぁ、後で自己紹介やるだろうから名前はいいや、仲良くしよ!」

「お前、グイグイ来るな」

「美希、美希って呼んで」

「呼ぶか馬鹿」

「どうする放課後、今日は早く終わるでしょ、どこか遊びに行く?」

「あのなお前、人の話聞いて……」

「そうだ、咲も連れて三人で遊びに行こうよ!」

「てめ〜〜、人の話を……そもそも咲って誰だよ? って言うか私は行かねーからな!」

「あっ!? もうすぐチャイムなるから席戻るね、咲からは私から誘っておくから、放課後待っててね」

「いや、おい、お前、人の話をだな」

「お前じゃないよ? 美希! 美希だよ」


嵐のように現れ言いたい事をベラベラと話すと、美希はさっさと自分の席へと戻った、私は唖然あぜんとしながら、私の意志は関係なしに一方的に話が進んでいた。

その後、姫野ひめの さきと出会い、最初は三人でぎこちない関係ではあったが、美希がそれをまとめてくれていた、そう美希が私の過去の暗い、最悪な人生を、楽しい高校生活にしてくれた。


私は元々この町の生まれではない、少し離れた町に生まれ、裕福ではない家庭に生まれた。

母は美人で優しく、パートをしながら私を育ててくれた、父はギャンブルにおぼれ、負けた日は母や私に暴力を振って来るような最悪な父だった。


小学生の時はそんな父の機嫌におびえ、母も私に暴力が及ぶまいとかばってくれてはいたが、父が物凄く荒れてる時は母も庇いきれず私にも暴力の矛先ほこさきは向かって来た。


中学に上がると私は学校が終わっても家には帰らず、夜の街を徘徊はいかいする日々を送っていた、そんなある日私はあるグループのメンバーに声をかけられた事で度々(たびたび)そのグループが集会してる場所に遊びに行くようになった、そこには同年代の子や、高校生などが毎晩のように集まってはダラダラと過ごしおの々が好きな事をしていたと思う、私はこのグループが何をしてるグループとかには興味なく、ただ逃げられる場所が欲しかったそれだけだった……


だいたいみんなは明るく音楽に合わせて踊ったり、お金をかけてカードゲームをしたり、酒を飲んでワイワイおしゃべりしていたんだと思う、私はそんなメンバーを遠くから、集会所にあったソファーに体育座りしながら眺めているだけだった。


そんなある日の事、私の所に一人の男が声をかけてきた。


「よう嬢ちゃん、いつもそんな所で座ってるだけで楽しいかい? もっと楽しもーーぜ、名前はなんて言うんだ?」

そうその男こそ久須くす竜也たつや、このグループのリーダー格。


「わ、私……? れ、礼子って言います、私はただここにいるだけで十分なんで……」

その頃、私は男の人が知らないうちに苦手になっていた、男性を見ると父の暴力を思い出し震えてしまうのだ。


「へぇ〜〜礼子って言うんだ、可愛い名前だぁ、俺は竜也、久須 竜也、一応ここを仕切ってる者だが、そんな怯える事はねーーだろ、別にとって喰おうなんて思ってねーからよクックックッ、なんか悩みでもあるなら話してみろよ、聞いてあげるからよ」

久須は慣れた感じで饒舌じょうせつに色々な意味で距離を縮める。


「礼子、仲間だろ? 話してみろよ、お兄さんが力になるし解決してやるよクックックッ」

私はその時、悩みを話せばなんか少しは気持ちが楽になるんじゃないかという気持ちと、少し恐怖の怯えからか家の事情や父の暴力などを久須に話した。


それから色々と久須と話していくうちに久須の事が容姿も内面もカッコいいと思う様になっていき、男性恐怖症も少しずつ改善していき、久須の事を悩みを聞いてくれる良いお兄さんって感じに私は思ってしまっていた。


それから久須に悩みを相談した数日後のある日、父は数人の男達に道端でボコボコに袋叩きに合い大怪我を負った。


それ以来父は「許してくれ頼む、言う事は聞くから」と譫言うわごとのように何度も何度も何かに怯える様に独り言を言うようになった。


私はまさかと思いながらその事件以来あのグループや、久須 竜也が怖くなり、集会所に顔を出さなくなっていた。


その後は父の怪我も回復し、入院から家に帰ってくるなり、すぐさま父の方から離婚話が申し出された。

母も元々そのつもりでいたらしく、離婚はすんなりと成立、私は母に引き取られる形で結果的に父と離れる事となり、これまでの色々な悩みや苦痛が晴れ、穏やかで平穏な生活が送れると思っていた。



日々は流れ、父と母の離婚からしばらくしてあまり顔を出す事が無くなったあのグループの集会場、最後の別れと思い訣別の意味で挨拶に行った。


この行動が私の大きな間違いだったのだろう、集会所に行くと久須がすぐに私に気づき、近づいて来た。


「久しぶりだな礼子、最近あまり顔を出さなくなったじゃねーの、どうだ悩みは解決したか? なぁ礼子、俺の女になれよ可愛がってやるからよクックックッ」

久須は私の肩に手を置き私をソファーに押し倒そうとする、私はとっさに久須の胸の辺りを押してはねのけると、久須は勢いよくソファーから転げ落ち、久須は地面に倒れる。


「いてて……」

「ご、ごめんなさ……!?」

倒れた久須に謝ろうと近ずいた私の顔に何か飛んで来るのが見えた。


それは何の躊躇ちゅうちょもない、フルスイングの拳だった。


「いてーなコラァ!、舐めてんのかコラァ!!」

もろに顔面をとらえた拳を受けた私はソファーから吹っ飛はされ、地面に叩きつかれる様に倒れた、するとすかさず久須は倒れた私の腹をサッカーボールを蹴るかの様に蹴り上げる。


「あっ……あ、た、助けて」

私は必死に立ち上がり、痛みをこらえながら外に逃げようと、無我夢中で走り出す、その光景を見たグループの仲間の人が暴れ叫んでる久須をなんとか押さえ込んでいる。


「あんた女の子に何してんのよ!」

「久須がキレたぞ、みんな止めろ!」

私はそんな声を遠くから聞きながら、遠くへ遠くへ逃げなきゃと、鼻や口から血を出しながらそれを手で押さえ、脇腹の痛みを我慢して、泣きながら必死にその場を離れた。

家になんとか逃げ込むと、ティッシュで血をなんとか止血しながら布団にくるまって私は震えた。


「父の暴力から逃げられたかと思えばこれだ……しょせん男なんて、男なんて……」

私は涙を流しながら、色々な事に絶望していた。


私はそれ以来外出を控えて、この街より遠い高校に入学するため勉強を頑張った。

こんな嫌な思い出ばかりの街に居たくないと母に懇願こんがんして、母も同じ気持ちだったのだろう、高校合格と同時に今の街に引っ越した。


ーー

ーー

ーー


運命とは残酷なものだ、もう出会う事もないだろうと思っていた男、会わないためにわざわざ遠くの街に引っ越したのに、こんな街のショッピングモールのこの場所に偶然出会ってしまうのだ、最悪の男と……


「おい! 礼子、オメー今日はいくら持ってんだよ? さっさとどっかで茶でもして、ホテル行こうぜ、クックックッ」

久須は人を舐め回すように見回して聞いてきた。


「……」

私はそんな質問を無視すると、私の足のつま先に痛みが走った。


「痛い!」

久須が私の靴の上に思いっ切り体重をかけ踏んできていた。


「あんだその態度、言葉で言って分かんねーなら先に体で押さえなきゃダメか? こっちが下手したてに出てデートっぽく雰囲気出してやってんのによ、生意気な態度ばかりとりやがって、おい!」

私の足を踏みながら、舌をベロベロさせて、私の髪の匂いを嗅ぎ、唾を飛ばながら威嚇いかくしてくる。


「無いわよ、アンタになんかにおごるお金なんて一銭もないのよ!」

久須から顔をそらせて目を合わせないよう、震えながらも私は叫んだ。

その瞬間、私の首を手で鷲掴わしづかみみにされ、壁に『ドン!』という音と共に押し付けられ、私は一瞬息が止まった。


「金がねーなら別に茶は要らねーわ、じゃーよ、さっさとここでやるか野外プレイでもよ、お前まだ処女なんだろ? 俺が初めての男になってやるよ、クックックッ、嬉しいだろ?」

私を片手で押さえつけたまま、久須はもう片方の手で自分のスウェットのズボンをずり下げた。


私はシダバタ押さえつけられてる手をどかそうとしたがビクともしない。


久須は空いてる手で、私のシャツのえりに指を掛け、ボタンで留められているシャツを勢いよく千切られ、ボタンは弾け飛び地面に散乱した、私はシャツがはだけた事で純白のブラジャーがあらわになり、とっさにあらわになった下着を両手で抱える様に隠した。


「可愛いね、そんななりして純白のブラとは、礼子は純粋じゅんすいだね、ますます礼子の純潔じゅんけつを奪いたくなったぜクックックッ」

私はブルブル震えて、通りすがる人の顔をチラチラと見たが、通りすがる人みんなが目が合わそうとせずにそっぽを向く。


(所詮は他人なんてみんなこんなものなのだ、まぁこれも全て自分の自業自得……他人の力を使って苦難から逃げた罰なのかもしれない……)

そんな風に、もうこの世の中に幻滅し、自分に嫌悪感をおぼえ、全てを諦めかけた時だった。


「痛てっ!?」

久須から悲鳴が上がった。


誰かが久須の手を力強く掴み、私を優しく掴んで竜也から引き離した。


「大丈夫?」

男性はとても優しいかすかな声で問いかけ、私をかばう様な形で久須の方に向いていた。


その男性には見覚えがある。

「く、く……黒戸……?」

黒戸は無言で自分の着ていたブレザーを気恥ずかしそうに私に渡した。


私は今何が起きてるか分からずただただ立ち尽くしているだけだったが、何故だか目から涙がこぼれ落ちてきた。


もう誰も助けてくれない、見て見ぬフリをする人ばかりで絶望していた私には彼の背中は大きく見え、その声は私にひと時の安堵感あんどを与えてくれた。


「ご、ごめん、こんな僕の上着じゃ汚くて嫌だよね……」

黒戸はブレザーを手に持ったままなかなか受け取らない私に困ったように哀しそうに笑った。


「あっ!? ご、ごめんなさい、ち、違うの……違うの……ただ色々と動揺して何が何だか分からなくって……あ、ありがと……!?」

私が黒戸からブレザーを受け取ろうとした時だ、黒戸の横顔めがけて何かが襲いかかり、黒戸は顔を歪めて吹っ飛ぶ。


久須が黒戸の左頭部目掛けてフルスイングで殴りつけてきていたのだ。


「あっぐぁぁ!!」

黒戸は左頭部を抑えて蹲うずくまっていた。


「おい! なんだお前は? 気安く人の彼女おんなに話しかけてんじゃねーぞコラァ!」

久須は怒声どせいを張りつつ、唾を黒戸に吐きながら、うずくまる黒戸の顔や腹、腕、脚を何度も何度殴る蹴るを繰り返した。


「や、やめて! お願いだからもうやめて……こ、これ以上やったら彼が死んじゃう……」

私は久須を後ろから押さえ込むように掴み、久須を止めようとした。


「彼? おいおい何言ってんだ礼子、クックックッ、彼氏は俺だろうが? そう言う時は『やめて!くずが死んじゃう』って言うだよクックックッ」

久須は表情は笑っているが目の焦点は合っておらず、黒戸に対する殴る蹴るは止めず、低いトーンで私に話しかけた。


「ところで礼子、この手はなんだ? お前はさっきからどっちの味方なんだ、あーん?」

そう言い終わると黒戸に対する暴行はやめ。私の手を払いのけ、左手で私の首を締め付けるように鷲掴みにして壁際に叩きつける。


「い、痛い……く、苦し……い」

首を絞められている事で私はかすかな声しかでず。


「礼子、お前も痛い目を見ないと分かんね〜〜みたいだな、少し美人だからって甘く見てやりゃーよ調子に乗りやがって」

久須は冷めきった目で私を睨みつけ、右手を大きく振りかぶって私の顔面に向けて振り下ろした、私は目をつぶり体を震わせながら、拳が飛んでくるのを待つ他なかった。


しかしなかなか私に拳は飛んでくる気配がなく、恐る恐る目を開けると、竜也の拳は私の目鼻の先で止まっている。


「えっ!?」

目の前では、殴りかけていた久須の右手首を黒戸がつかみ止めていた。


黒戸は額から血が大量に流れ出て、呼吸も荒い状態で、私の首を絞めている竜也の左手を払いのけて、私に優しく問いかけてきた。


「だ……大丈……」

黒戸が言いかける前に竜也の膝蹴ひざげりが黒戸の腹にめり込み、黒戸は私の前でまたうずくまった。


「んだ〜〜テメーは! さっきからちょろちょろとマジでイライラする野郎だ」

久須はまたうずくまった黒戸に対し何発も何発も蹴りや拳を繰り出した。


「や、やめ……」

私はまた止めに入ろうと久須に近ずき、久須を止めようとした時だ、黒戸が私や久須に聞こえる声で。


「沢村さん……大丈夫……大丈夫だから、こんな奴の、効かないから……だから後は僕に任せて帰って……帰っていいよ」

私は震えながら声もでず。


(帰れるわけないじゃない、黒戸には関係ない事なのに)

それを聞いた、聞こえた久須は当然キレ。


「なんだとコラァ、俺の事を舐めてんのかあん!」

久須は黒戸を仰向けに叩きつけ、馬乗りになる形で黒戸の顔面を何発も殴りつける。


流石に周辺の通行人も集まりだし黒戸と久須を中心に、円を描くように人だかりが出来始めた。


しかし誰も二人を止めようとする者が出てこない、スマホで写真を撮るもの、動画を撮るもの、SNSの「ヒトリゴト」アプリで書き込むものなど、最低な連中ばかりだ、そしてそんな連中と同じく何も出来ずに傍観するしかない私が一番最低な奴だ。


黒戸はぐったりしたまま動かず、ただサンドバッグの様に殴られ、白いシャツはみるみる赤く染まっていく。


久須は手に付いた黒戸の血を舐め「不味!屑の味だなこりゃ、クックックッ」と笑いながら黒戸に血の混じった唾を吐きながら立ち上がった。


「く、黒戸!」

私は倒れてる黒戸に近づこうとしたが、久須はすぐに私を睨みつけ、私は一歩も動く事が出来ない。


久須は私に睨みを効かせながらジリジリと近づいてくる、私はガクガクと震えて目をつぶるほかなかった。


「さぁ、邪魔は消えた事だしさっさとホテルにでも行って、やる事やろうじゃねーかよお前の金でな、クックックッ」

久須が少しずた私に近づいてくる気配が感じる、私は恐怖のあまり立っているのが精一杯でその場から一歩も動く事も出来なかった。


(もうダメだ……ごめん……ごめんね黒戸、こんな事に巻き込ませて)

そんな思いを抱えて、私は目を瞑って震えていたが……しかし、一向に久須が私に近づいくる事がなく。


「おい? なんの真似だ!」

久須が突然あさっての方向に怒鳴りだした、明らかに私じゃない方向に。


私は目を開けると、黒戸が久須の足首を掴み、久須を止めている。


「さ、沢村さん……何してんのさ? も、もういいから帰んなよ、明日も学校だよ……」

黒戸は血だらけでボロボロの状態で、それでも私に優しい笑顔で話しかける。


「か、帰れる……帰れるわけないじゃない! そんなにボロボロになって、黒戸には関係のない事なのに」

私は泣きながら黒戸に叫ぶ。


「はっはっはっ……こ、困ったな……確かに僕には関係ないけど……そんな震えて泣きながら悲しい顔した女の子を放っておけるほど、僕は気持ち悪いぼっちじゃないんだよ」

黒戸は困った顔して答えた。


「おいおい、俺を無視して青春ごっこかよクックックッ」

久須は頭をポリポリ掻きながら、黒戸の顔面目掛けて、掴まれてない足で蹴り込む。


「しつこい男は嫌われるぜ。離さねーって言うなら、指、腕、足の骨でも全部折るか、クックックッ」

そう言いながら、久須は掴まれてる黒戸の指を一本一本折っていった。

私にも聞こえる『ボキ!、ボキ!』と言う骨が折れる音。その音が鳴るたび黒戸の口から「ぐわあぁぁぁ!!」っと言う叫び声が上がった。


「もう、もうやめて……ホテルでもなんでも行くから、彼は見逃して」

私は耐えられなかった、自分の為に誰かが傷つく事が、私一人耐えれば誰も傷つかなくて済むなら、それが一番の解決作なのだと。


「クックックッ、ついに俺の女になるか? いいぜ、全部の骨折ったら見逃してやる」

久須は私の方を見ずに楽しそうにそう言いながら黒戸の骨をゆっくりと折っていく。


「クックックッ……ん!? なんのマネだ礼子?」

私はとっさに久須にタックルして、久須の腰に手を回す形で黒戸から久須を引き離す。


「黒戸、逃げて! もういいから、ごめんね……ありがとう……こんな形じゃなくてあなたと知り合えてたら良かったのに……」

私は涙を流しながら精一杯の笑顔で黒戸に謝罪とお礼を言う。


「おいおい礼子、なんのつもりだって言ってんだよコラァ!」

久須は体制の悪い状態で私の腹や顔に拳をぶつけてきた。


(痛い、痛い)

でも耐えなきゃ、黒戸が逃げられない。


しかし久須の拳は二、三発叩いただけで止まり。私の手をまた優しい手が久須から私を引き離した。


「言ったろ、放っておかないし、僕も逃げない……僕の方こそごめんね、ちゃんと守って上げられなくて」

ボロボロでフラフラになりながら、折れてるかもしれない指で、また竜也を押さえ込むように黒戸はハニカミながらかすかに聞き取れる声で話しかけてきた。


「な、なんで……なんでアンタが……アンタが謝るなよ、もういいから、もう十分守ってもらったから……ぐっぅぅ」

私はその場に座り込み涙が止まらなくなっていた。


その時である、遠くからパトカーのサイレンが鳴り響く。


「チッ、察かよ」

久須は強引に黒戸を引き離すと。


「おい礼子覚えておけ、あとテメーもだ屑、今日の所は見逃してやる、だがテメーら二人は必ずまた見つけて、今日の事を、後悔させてやるからな」

久須は立ち上がると、黒戸の腹を思いっきり蹴り上げその場を立ち去ろうとした。

が……久須はなぜか蹴り上げた後そのまま動かない。


なぜなら黒戸が久須の蹴り上げた足を離さないとばかりに、腕を久須の足に絡まらせ食らいついていたのだ。


「おいおい、どう言うつもりだコラァ……離せやクソが」

竜也は倒れてる黒戸に対して何度も上から頭や背骨を何度も何度も殴りつける。


パトカーのサイレンはどんどん近づいて来ていた。


「は、離すわけないだろ、逃げないって言ったの聞こえなかったのか? ここでお前を離したら今までの事が水の泡だ」

黒戸は何か楽しそうにボロボロになった体で、必死に久須の足にしがみつき、久須を馬鹿にする様に話し出した。


「何だと? コラァ、離せや!」

久須はそれでも、何度も何度殴りつけたが、それでも黒戸は離さない。


「そうかい、そうかい面白れーじゃねーか、コレでもお前は離さないかね、クックックッ」

久須の目は完璧にイッテいた、殴っていた手をポケットに入れると、手から何かを掴み取り出した、その掴んだものを器用に指先でシャカシャカ回すと、それは形を変え、鋭利な刃物へと変形した。


久須は冷めた目で黒戸の背中目掛けてその刃物を突き刺す。


「ぐわぁぁぁ!!」

黒戸を大きな悲鳴をあげ、背中から大量の血が溢れ出し、地面もみるみる鮮血せんけつに染まっていく、それでも離さない黒戸に何度も刃物を突き刺す。


「オラオラ、死ねや!クックックッ」

久須は完全にイカれていた。


「いやーー!!」その光景を見た私は目を手で覆い隠し、叫ぶしか出来なかった。

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