第6話 白間 美希の悩める少女

私は白間しろま 美希みき、東桜台高校に通う一年生だ。


周りの女子がうらやむ綺麗なDカップの胸に。綺麗な黒髪を赤いリボンでポニーテールにしたヘアースタイル、目は普通の人より少し大きく、笑顔が可愛いと友達から良く言われる、性格はとても明るく社交的で分けへだてなく誰とでも気さくに接する、優しくて気が利いて、皆んなからも好かれる、そんなクラスのマスコット的……と自画自賛してみたが、ただ単に私と言う存在は八方美人なだけの、周りに気を使い、今その場にある状況や空気を読んで、ただただ大勢の輪に合わせて嫌われない様に頑張って振舞ってる、そうそれが私と言う存在。


東桜台高校に入って私はすぐに大勢の友達が出来た、特に仲が良いのは、学年で美人一位、二位を争う二人、姫野ひめの さき沢村さわむら 礼子れいこ。二人とはクラスも一緒で最初は個々で仲良くなり、徐々に私を通じて三人で連つるむ事が多かった。


そんな咲や礼子のように美人でもない私が、二人に釣り合うように、必死に充実した高校生活を送るために周りに波長を合わせなが、私はなんとか日々を過ごすのに必死だった。


そんな私とは真逆の学園生活を送っている男子がいる……黒戸くろと しろと言うクラスの男子生徒だ。


彼は周りの空気も読まず、合わせるでもなく、一人ぼっちなのに何故か毎日楽しそうに日々を過ごしてる、そんな彼に私は気に止めてしまう……


ある日の昼休憩、咲と礼子と私で机を並べながら三人で昼食を食べてる時、咲が上の空である方向をボ〜〜ッとしながら見つめているのに気づいた。


「ねぇ、咲? 咲ってば!」

「……」

咲は何か物思いにふけた表情でこちらに気づいていない。


「コラッ〜〜咲! 何をボ〜〜ッと見てるのよ?」

私は咲の顔の目の前に自分の顔を突き出して、鼻先がくっ付くかくっ付かないか位の距離で話しかけた。


「えっ!? あっ、えっ……あっ、な、何でもないよ……なんの話だっけ、ゴメン」

流石に咲も私達が話し掛けてる事に気づいて、慌てて何かを誤魔化す様に苦笑にがわらいしながら答えた。

私は話を戻そうと咲に話掛けながら、咲が何を見つめていたのか気になり、話掛けながら咲の見つめていた先を私も確認した。


「もう、だから……んっ!? 白……もしかして黒戸の事見てたの……?」

私は見つめていたものが何なのか分かった途端、なんとも言えない複雑な気持ちになった。


「えっ! あっ……うん」

咲は私の言葉に答えずらそうにうなずく


そんな咲の態度に複雑な感情が私の心に刺さった、その感情が何なのか私にも分からない、咲の私への適当な返答に腹が立ったのか、黒戸の事を咲が見ていたと言う事か、とにかく私の心へ、モヤモヤとムカムカと、なんとも言い難いもどかしい感情が私を覆い苦しくて仕方なかった、そこにそんな私の感情を知ってか知らずか礼子が口をはさむ。


「黒戸っていつも暗いよね、毎日何が面白くて学校来てんだろうね」

紙パックのリンゴジュースをストローで吸いながら、冷めた目で黒戸をながめながら、何か寂しい眼差しで見つめていた。


「そうそう暗いよね白……いや、黒戸って、常に一人でさ孤独で……」

なんとか明るい振りをしてはいたが、たぶん私の表情は言葉とは裏腹に暗かったかもしれない。


黒戸以外の他の男子の話なら私も普通に話していたただろう、でも黒戸 白の話はなんか嫌だった、私以外の他の女子にされる事が、他の女子に注目される事が。

ーー

ーー

ーー


私には好きな男の子がいる、生まれた時から同じ産婦人科で、家も隣同士で、子供の頃から良く一緒に遊んでいた、巷で言うところの幼馴染と言うやつだ。


ただその男の子とは小学二年生の時に喧嘩……ううん違うな、私の一方的な裏切りで仲違なかたがいしてしまい、それ以来まともに喋りもしていない。


いつも仲直りしたいと思ってはいるが、タイミング、キッカケ、そして周囲の目がそれを邪魔する、

まぁ仲直りするタイミングやキッカケはいつでも有った、でも出来なかった……一番の原因は仲違いした大きな理由、周囲の目なのだ。


小学生二年生の始めまでは仲良く一緒に学校も行ったし、沢山遊んだりお喋りもした、そんな小学二年生の始め頃に一人の女子からこんな質問をされた。

「美希ちゃんって白くんと付き合ってんの?」


それを聞いてたのか、ある男子達がその会話に入ってきた。

「えっ! マジであんなキモい奴と付き合ってんの?」

「他にカッコいい男子いるじゃん、俺とか」

など色々と言われて、私の性格や、思春期とは言わないが、子供ながらの恥ずかしさもあって私はその子らについ「黒戸とは付き合ってる……わけじゃないけど……」と言いつつ『好き』と言いたかったが流石さすがに恥ずかしく、否定的なことを言ってしまった。


教室にいた男子や女子は「えっ!? 付き合ってないのに付きまとってんの、キモ!」「なんだ、それってストーカーじゃん」「黒戸ってキモくない」「男子最低〜〜」などとさわぎ出した。


「ち、違う……」

私は誤解を解こうと声を出そうとするが、騒ぎはどんどん広がる、たまたまそんな騒ぎのの中、白が教室にはいない事が救いだったと思っていた時に、教室の後ろ側の引き戸が少し開いてるのが見えた。その扉を開けようと誰かの手なのだろう、だが何故かその手は止まって何かを思い出したかの様に、ドアは少し開いたまま、その場を立ち去ってしまった。

その後白は授業始まるギリギリに教室に戻ってきた。


教室では当然、白をからかったり、馬鹿にしたりする生徒が現れた。

私は「みんな、違う……」と何か言おうとすると、一人の男子が「大丈夫ストーカーから俺が守ってあげるから」と

私の声をさえぎる。


その日の帰りに白は私の席にくると只々一言。

「美希ちゃん、帰ろ?」

「えっ……うん……!?」

私は白の誘いに答えようとした時。


「おい白! ストーカーのクセに気安く美希ちゃんに話掛けてんじゃねーよ!!」

一人のクラスの男子が白を突き飛ばす。


白は机や椅子を倒して床に倒れ込み。

「……あっは、は……う、うんそうだよね、ごめん……ごめん」

白の顔は見えなかったが、笑っているのか、悲しんでるのか分からない表情だったのだろう、何度も謝りながら教室を出て行った。


「み、みんな……違うの、白は……」

私が何かを話そうとすると必ずある男の子が話に割って入ってきて邪魔する。

「もう大丈夫だよ美希ちゃん、俺らがついてるから」

何かがおかしい、教室全体が白を排除する方向に向いてるとしか思えなかった。


(ごめん……ごめん、白……私、私じゃどうしようも出来ない)

私は心の中で何度も何度も謝罪し、涙が溢こぼれそうになったが、他の女子が私に近づいて来たのでこらえた。


「美希ちゃん、一緒に帰ろ」

「黒戸の様なストーカーから私達が守ってあげる」

女子達は各々が好き勝手な事を言っている。


「みんな、聞いて、聞いてくれる? あのね白は、白は別にストーカーじゃないの!」

私は帰り、いつも邪魔する男子がいない時を狙い、勇気を持って誤解を説明した。


「はぁ何言ってんの美希、そんなの分かってるよ、面白いからやってるだけだもん」

一人の女子が私に笑いながら言った。


「えっ!? な、なんで、そんなの、そんなの白が可哀想じゃん」

私はみんなに訴えたが、みんなから返ってきた返事に絶望した。

「何言ってんの? 冷めるような事言わないでくれる」

「マジ、空気読もうよ美希ちゃん」

「そうそう、これは遊びだから」

私の心はこの時壊れた、私が正しい事を伝えても、何を言おうと、白を虐めるための道具に私は使われたに過ぎないと言う事に。



それ以来、白が私に話かける事もなくなった、クラスからも悪口を言われたり、嫌がらせなどのイジメを受け、男子だけじゃなく女子からも嫌われていた。


小学校、中学校とクラスが変わろうとも、同じ学区内なので、一度付いてしまったレッテルはそう変わるものではない、不思議と白に対する暴力的ないじめは無かったと思うが、明らかな無視や悪口は中学生になっても続いていた。


でも白は白で毎日ちゃんと学校に通うし、真面目に授業を受け、悪口も他人事の様に聞き流している、それに彼の顔を見ても虐められているのに、目がよどむ事なく、何か先を見据えた希望に満ちた目をしているのだ。


だからと言って、彼に対する後ろめたい気持ちがぬぐえる訳もなく、せめてもの罪滅つみほろぼしの意味と私の気持ちを込めて、毎年バレンタイン、誕生日、クリスマスに彼の家のポストに匿名でプレゼントを入れている、ただ一つ気になっていたのは、その時いつもポストに誰か他に白に対してプレゼントを渡してる人がいて、必ず私より先にプレゼントが入っているのだ。


「私の他にも白の味方がいるんだ……嬉しいけど、なんか嫉妬しちゃう」

私は嬉しい反面、ちょと嫉妬心が芽生えた。



ある中学一年生の頃にクリスマスに手編みのマフラーを渡そうと不器用ながらも編んだ時があった、市販されてるマフラーに比べたら目を覆おおう様な出来だったが、母に見せた時に「良いんじゃない」と言われたので、私は白のクリスマスプレゼントに匿名で彼の家のポストに入れた。


冬休みが終わり始業式、白は私が作った手編みのマフラーを着けて登校してきてくれた、それを見てなんだか私は凄く嬉しく、他の生徒にバレない様にみをこぼしていた。


だが白が教室に入ると、すぐに周りに数人の男子が取り囲み、白を馬鹿にする。


「さすがストーカーは、ちゃんと毎日ストーカーしに登校するんだな」


「なんだそのダサいマフラーは」


「おぉ、本当だ、なんだその出来損ないのボロ雑巾見たいなマフラーは」

私は遠くからその言葉が聞こえた、白が着けてくれて嬉しかったのに、今は悲しく恥ずかしく、あんな出来損ないの手編みのマフラーを渡したことに後悔の気持ちで一杯になっていた。


(また白に迷惑な事……ごめん……ごめんね)

その時である、マフラーを馬鹿にした男子が叫んだのだ。


「な、な、なんだお前……は、離せよ!?」

マフラーを馬鹿にした生徒の胸ぐらを白は掴み、相手を睨みつけ低い声で。


「あまり調子に乗んなよ! マフラー関係ねーだろうが」

今まで自分の悪口をどんなに言われても無反応で怒ることが無かった白が、なぜかその日初めて怒っていたのだ。


白があの手編みのマフラー が誰が編んだか知らないはずなのに、私はなんだか嬉しかった、勝手な解釈かも知れないけど、なんだか私の為に白が怒ってくれたと思うと嬉しくて、嬉しくて……悲しい、私は机に顔を伏せながら、泣いていた。


胸ぐらを掴まれた生徒は、「興醒きょうざめした」「シラけた」「マジになってんじゃねーよ、バーカ」など捨て台詞を吐いて、自分達の席に戻っていった。


今は白と仲違いして、彼から嫌われてるかもしれないけど、改めて私は彼が好き、大好き、だから高校も同じ学校を受け、必ず高校で仲直りする、小学生、中学校の様な失敗しない為にと思った。


高校に上がり、一緒の東桜台高校に入学する事が出来、高校で二人の関係もリセット出来ると思ったが、そう簡単には行かず、未だ会話すらない関係だ、それに白も昔と変わらず、誰かと話すわけでもなく、一人孤独に学園生活を過ごしている。


彼と……黒戸 白と、白間 美希の関係はこのまま一生修復しないまま終わるのだろう、でもそれも仕方ないのだろ、全てが私の責任であり、自業自得なのだから……

ーー

ーー

ーー


ショッピングモール出口の交差点、礼子と怖い男から逃げてしまった私は、通りすがる人達に声を掛けて。


「お願い、助けて! 礼子が……礼子がやばい奴に捕まっちゃたの」

声を掛けられた通りすがりの人達は大体みんな。


「ご、ごめん、今忙しくて」


「面倒ごとはちょっと、ごめんね」

など同じような答えを返した。


中には同じクラスの仲の良い男子もいたが、迷惑そうな顔して。


「助けてあげたいけど、これからちょっと、ごめんね」

所詮は同じクラスメートでも仲の良いフリをしてるだけなのだ。


でも諦めずに私は手当たり次第通りすがる人に声を掛け続け、何十人にと通りすがりの人達に声を掛けたがみんな厄介事はごめんとばかりに断られた。


しだいに私に近付こうとする人もいなくなり、こちらから近づくと避けたり、無視する始末だ。


私も断れたり、無視され続ける事への疲労と、自分への不甲斐無さで、その場に座り込み顔を伏せて、友達一人も助けられない情けなさで、口を噛み締めながら、ボロボロと泣いてしまっていた。


「ごめん、礼子……ごめんね……」

しばらくそんな状態で途方に暮れていると、私の方に誰かが近づいて来る気配を感じた、私は少し顔を上げて、近づいて来る足元を見ると、東桜台高校の制服のズボンを履いている人だと分かった、私は断られる事承知で、私に歩み寄って来てくれたその人に、わらをも掴む思いでその人に掴みかかり。


「お願い……お願い、礼子を……」

私は必死にその人に訴え掛けながら、顔を上げた。


「えっ……!? し……白?」

そう私の目の前にいたのは黒戸 白、一番お願いなんか頼める相手じゃない。


「……」

私は白のブレザーの襟を掴んだまま、それ以上何も言えずに固まってしまった、今まであんな酷いこと言ってきた私が、彼に何か頼めるか、頼んだところで、断られるに決まっている。


襟を掴まれてる彼も何も言ってはくれない、そこにただ立ってるだけだ、もしかしたら私を馬鹿に近じてきたのかも、まぁ今の私など馬鹿にされても仕方ないだろう。


私が何も言えず彼の胸に頭を埋うずめ固まっていると、頭の上を大きな何かが乗ってきた。

とても優しく、暖かく、その何かは私の頭を撫でるのだ。


「分かったよ」


「えっ!?」

私は一瞬目を見開き、彼が何か言った言葉が理解できなかった。

何十人に声をかけても誰も言ってくれなかった一言、『ごめん』と言う否定ひていではなく『分かった』と言う肯定こうてい、ただのそんな一言……白が言ってくれた一言が、私の抱えていた何かを取ってくれた気がした。


「し……白、私……」

私は彼の胸に顔を埋めたまま何かを言おうとしたが、白は私が何か言う前に私を両手で抱きしめ優しい声で。


「大丈夫、大丈夫だから、美希は帰ってろよ」

私は彼の、白の言葉を聞いた途端、今まで流してきた涙とは違う、とても大切な涙が溢れてきた。


それは彼と私の関係を隔てていた何かを洗い流してくれるような……そんな涙だった。

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