第5話 アップルジュース
「めちゃくちゃ珍しいね!遅刻するって」
時刻は午後一時になり、そろそろ昼休みが終わりに差し掛かるとき、凌は遅刻登校した。
クラスの中でもあまり目立たない存在だったからか「ただ遅刻した人」として周囲からみられるが、こいつだけは違った。
言っても信じてもらえそうにないのだが、幼稚園から今に至るまですべて同じクラスという高確率幼馴染、それが彼女、英(はなぶさ)カエデだ。昔から明るく周囲からも好かれている。
「ほんとだよ、せっかくここまで無遅刻だったのに……」
「ガチでへこんでんじゃん。まぁこれでも飲んで元気出してよ」
机に突っ伏して萎えている凌にカエデはストローの刺さった紙パックのリンゴジュースを渡した。普通あげるならストローまで刺さないのではないのか、そう疑問に思った凌はうずくまりながらカエデに尋ねる。
「これは?」
「私の、の・み・か・け♪」
一瞬で場が凍り付いた。カエデはその明るさと冗談抜きで可愛いルックスでクラスの中心に君臨していた。女子生徒からは憧れの人気者、男子生徒からは彼女にしたい、守りたい対象となっている。
そんな彼女からの飲みかけプレゼントにクラス中の視線は一気に色を変えてこちらを凝視してくる。
「おいおい、冗談でもたちが悪いぜ、お嬢さん」
ジョークにはジョークで返すべし。凌はキリッと態度を変え、爆弾に等しいその飲みかけのアップルジュースを紳士的に返した。
「気持ちだけで十分だよ」
「またまた、無理しちゃってさ。それよりなんかあったの?少し顔色悪いよ。なんか青白いっていうか」
そう言われて、自分の体調を伺う。確かに今朝は異常な眩暈や苦痛があったが、今となっては大分回復したほうだ。
それにしても……、アレは一体?
凌は家から出るときに見た、あの血まみれの自分の服を思い出した。
あの血痕は誰のか?
そもそもなぜ俺の服についているのか?
あの服は昨晩深夜徘徊していた時に来ていたものなのだが、一体自分の身に何が起こったのか?
思い当たる節は一つしかない。
「変な質問してもいい?」
「ん?いいよ」
急な凌の問いかけに、カエデはアップルジュースのストローを咥えながら軽率に応答した。
「もし交通事故でトラックに思いっきり跳ねられた時って、次の日に治ると思う?」
「んー、無理かね」
「ですよねー」
やはりアレは夢だ。そうでないと今の自分がこうして健康に生きているはずがない。でも、だとしたらあの血まみれの服は一体?
疑問が解決せず、あやふやな記憶を辿ることしかできないまま昼休みの終わりを知らせるチャイムが校内を鳴り響いた。
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