第3話 妬みと怒り
「う、がっ……」
声が聞こえた刹那、少女は咄嗟に青年から距離をとる。
不覚だ。
稀血に夢中になりすぎ、まだ息があることに気が付かなかった。
あの交通事故でまだ生きているのも、やはり稀血のおかげだろうか。それとも単なる偶然か。
「ふふっ、まだ死んでないとは不幸な奴だな。苦しみながら死ぬがいい」
死。
それは少女にとってほど遠い概念。だからこそ、憧れや憎しみを抱く。
後は青年の命の限界を待って、大人しく息を引き取った後に頂くとしよう。いや、今にでも無理矢理食べるべきか。
少女は瀕死の青年を気にも留めずに、稀血をいただくことだけを考えていた。
その最中、青年は余力を振り絞ってそっぽを向く少女に向けて言葉を放った。
「……し、死にたく……ないッ……」
その発言に、残した言葉に、少女が感じたのは哀れみでも悲しみでもなく、それは純粋な怒りだった。
「ッ!はぁぁあッ!?」
少女は歯を食いしばり、顔を真っ赤にして、静寂な街の中央で叫んだ。
「死にたくないだと!これだから人間は貧弱で、強欲で、身勝手で、無責任で、そして死ねることのありがたみを……」
少女は言葉を飲み込んだ。そのセリフは禁句だと自分自身で決めていたのに。
深呼吸をして気分を整え、改めて瀕死の青年に視線を向ける。
そして、微小の憤慨が混ざった声で少女は言い放った。
「死にたくないなら、そうしてあげる」
再び瞳が黄金に輝き、少女からおぞましくも、妖艶なオーラが放出される。月日に照らされた影には大きく広げられた禍々しい羽が映し出されていた。
少女は青年のもとに屈み、垂れる髪を耳に掛け、ゆっくりと時間をかけてその首にかぶりつく。
その後少女と青年は姿を消し、まるで何事もなかったかのように深夜の街には再び静寂が訪れた。
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