第5話 廃墟の宿屋

 爽快感を楽しんでいる内に、あっという間に森を抜けた。


《【冥府の森】を踏破しました》

《実績解除。【探索者】の称号を獲得しました》

《【探索者】の称号獲得により、2000スキルポイントが付与されました》

《解放可能なスキルがあります。解放しますか?》


「あ、ええと、ちょっと保留で」


 どうやらこの世界には、便利なスキルがたくさんあるらしい。ひとまず危機は抜けたようだし、後でゆっくり吟味したい。


 目の前に広がるのは、緑ゆたかな丘陵地だった。森の陰鬱な空気を吸い続けた身に、太陽が眩しい。


 背中の少女の様子を気にしつつ古びた街道を辿る内、丘の上に大きな建物が見えてきた。

 近づくと、かなり朽ちている。


「廃墟か……」


 広い庭には、かつて畑があったのだろうか、錆びた鍬や鋤がうち捨てられていた。


 おそるおそる中に入ってみる。

 元は宿屋だったようだ、一階には広い食堂や浴場があり、二階には似たような個室が十部屋ほど並んでいた。ただ、そこかしこに穴が空き、設備はどれも古びていて使えそうにない。

 かつてはここで旅の疲れを癒やしたであろう旅人たちに想いを馳せながら、階段を上る。

 もしも持ち主がいないなら、しばらく使わせてもらおう。


 比較的綺麗な個室に入ると、ベッドの埃を払い、少女をそっと横たえた。

 目立った外傷はないが、ひどく衰弱している。


「何か、食べ物とか薬とかないかな……」


 俺は部屋を見渡すと、鏡台の引き出しへ手を伸ばし――


「うおお!」


 凶悪な爬虫類と目が合って、危うく尻餅をつきかける。

 よく見ると、鏡に映った自分だった。


「お、お、俺か」


 改めて、すごい形相だ。

 ざんばら髪の間からこちらを睨む三白眼はギラギラとつり上がり、不揃いなギザ歯の間からは尖った舌が覗いている。いっそ凄味すら感じさせる人間離れした容貌に、べったりと張り付いた隈と肌の青黒さがいっそう拍車を掛ける。

 人というよりはモンスターに近いのではないだろうか。さながら顔面凶器だ。


 がさがさの手で、痩せこけた頬をさする。

 ……この顔色、大丈夫か? 内臓やられてない?


「ぅ……」


 はっと振り返る。


 少女は目を閉じ、苦しげな呼吸を繰り返していた。


 屋内に避難できたとはいえ、いつ先程の熊や虎――魔獣の襲撃があるか分からない。まずは安全の確保が最優先だ。

 何か、魔獣の侵入を防げるような魔術やスキルがあればいいのだが。

 俺の心を読んだように、脳内音声が流れる。


《【魔術士】の称号獲得により、防御魔術【障壁】と上級魔術【結界】が解放可能です。解放しますか?》

「お願いします」

《【障壁】【結界】を解放しました。発動してください》


 大きく息を吸い、呟く。


「【結界】」


 目の前に淡い光の球が生まれたかと思うと、ぶわっ、と広がった。


「おお?」


 心なしか、空気が澄んだ気がする。

 窓の外を見ると、庭を含む敷地一帯が透明な半球ヴェールに包まれていた。


《【結界】を展開。対象の建物を保護しました》

「ありがとう、助かった」


 ひとまず安全は確保されたと考えていいだろう。

 改めて、衰弱している少女に目を移す。

 何か、回復系の魔術なんかを使えたらいいのだが……――


《【魔術士】の称号獲得により、回復魔術【治癒】が解放可能です。習得しますか?》

「お願いします」

《【治癒】を習得しました。発動してください》


 少女に手をかざし、言われた通りに唱える。


「【治癒】」


 白い光が少女を覆い、浅かった呼吸がすぅっと穏やかになった。青白かった頬が、ほんの少し血色を帯びる。

 ほっと胸をなで下ろす。

 ただ、顔色は良くなったものの、目を覚ます気配はない。手を取ってみるとひどく冷たく、脈は弱々しかった。


 足を鎖に繋がれた痛ましい姿を思い出して、唇を噛む。


(……まるで、奴隷のような……――)


 痩せ細った身体を見れば、彼女が長年どんな扱いを受けてきたのか、想像に難くない。

 魔術では回復出来ない部分――恐らく、基礎体力そのものが落ちているのだろう。

 何か、滋養のある食べ物を確保しなければ。


「ええと……アポート・ステータス」


 呼びかけに応えて、スクリーンがポップアップした。


 持ち物を確認するついでに、一度ステータスを見てみよう。



-------------------------------------

【ステータス】

 名前:シリウス・ヒューゴ

 種族:ヒト

 年齢:23歳

 性別:男

 Lv:30

 身分:平民

 職業:なし

 所持金:銅貨五枚

 装備品:布の服 F+

     ボロ布のマントF

     革の靴 E

 所持品:野菜の種 E

     木の実 F

     ヤギの干し肉 D

     【魔核】×2 NEW!

     【ダーク・ベアーの毛皮】 NEW!

     【イヴィル・タイガーの牙】 NEW!

     【冥府の森】のキノコ NEW!

     【冥府の森】の木の実 NEW!

 称号:【転移者】【勇士】【魔術士】【冒険者】【探索者】

 スキル:勇士スキル【絶剣(Lv10)】S

     魔術士スキル【無詠唱】S

     冒険者スキル【解錠(Lv10)】B

           【加速(Lv10)】C

           【悪路走破(Lv10)】C

 魔術: 生活魔術 【灯火】E

     攻撃魔術 【爆炎】A+

     防御魔術 【障壁】D

          【結界】A

     回復魔術 【治癒】D


【各種パラメーター】

 HP:45,000 A

 MP:18,000 B

 魅力:5 F

 体力:398 C

 魔力:298 C

 攻撃力:405 B

 防御力:652 A

 敏捷:198 B

 幸運:45 F

-------------------------------------



 ステータス、めちゃめちゃ上がってる。


「ガチャを引いた時にはEかFしかなかったのに……」


 レベルも上がっているし、称号もスキルも魔術もものすごく増えている。

 魔獣を二頭倒しただけなのだが、この世界ではこれが普通なのだろうか?


 さらに画面をスクロールすると、【所持スキルポイント:28000】という表記が目に付いた。

 この所持スキルポイントを振り分けて、スキルを解放できるらしい。あとで詳しく見てみよう。


 一番下までスクロールして、ふと気付く。


-------------------------------------

 エクストラ【???】

-------------------------------------



 なんだろう?

 タップしてみるが、特に反応はない。

 気にはなるが、今は少女のケアが最優先だ。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 お読み頂きましてありがとうございます。

 少しでも「面白い」「続きが読みたい」と感じましたら、★評価やブックマーク等していただけますととても嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る