第4話 圧勝



《解放可能なスキルがあります。勇士スキル【絶剣】を解放しますか?》


 スキル!? 【絶剣】!?

 何が起きているのか分からない、分からないが――今は神でも悪魔でも縋ってやる!


「解放します!」

《【絶剣(Lv10)】を解放しました。発動してください》


 どうやって!?

 わけもわからないまま、一か八か、声の限りに吼える。


「【絶剣】ッ!!」


 刹那、ひのきのぼうが眩く輝いた。

 握りしめた光を、無我夢中で振り抜いた、次の瞬間。


 ズバァッ!!!!!! と。


 光の剣が、まるで布でも裂くかのように、熊の巨体を両断していた。


「……は?」


 光が消えると同時に、ひのきのぼうが蒸発する。

 熊が断末魔すら上げられず崩れ去り、穴の空いた街道に、黒い石がかつーん、と落ちた。


「な、に……?」


 呆然と立ち尽くす俺に、機械的な声が矢継ぎ早に告げる。


《戦闘終了。3000経験値と300スキルポイントを獲得しました》

《【魔核】【ダーク・ベアーの毛皮】を獲得しました》

《使い魔の効果により、以後、獲得経験値・獲得スキルポイントが100倍になります》

《レベルが13に上がりました》

《称号【勇士】補正により、以後レベルアップ時に得られる体力、攻撃力、防御力、敏捷が倍増します》


 えっ、えっ、100倍? なに? スキルポイント、え? 補正? なに????


 よく分からないが、ともかく助かったらしい。

 肩で息を継ぎながら立ち尽くす。


「ん……ぅ……」


 小さな声に、我に返った。


 慌てて少女の元へ駆け寄る。

 気を失っているが、大きな怪我はない。


 ほっと息を吐いて、少女が青ざめ、震えていることに気付いた。

 慌ててマントを脱いでくるむ。


「そういえばさっき、毛皮を獲得したって……――」


 毛皮を拾おうと振り返る。


 森の中に。


 巨大な獣がいた。


 脊髄に氷の棒を差し込まれたように、息が詰まる。


(いつの、間に……――)


 巨大な四足獣だ。木々の間に身を潜め、まばたきもせずこちらを睨んでいる。

 縞模様の毛を逆立て、牙を剥き出し、金色の瞳をぎらぎらと光らせながら低い唸りを上げる、巨大な虎。

 噴き付ける威圧感に全身が総毛立つ。


 さっきの熊も、十分に化け物だった。

 だが、格が違う。

 少しでも動けば、死ぬ。


 干上がった喉がごくりと鳴る。先程の熊さえ可愛く思えるほどの、凄まじい殺気。なんだここは、化け物の森か? もしかして俺の死因、『魔獣にモテまくって死』の可能性もある……?


「……――ッ」


 本能が軋み警報を上げる。【絶剣】を発動しようにも、たったひとつの武器だったひのきのぼうはもうない――いや、あったとしても、構えるよりも早く、あの凶悪な爪が俺たちを八つ裂きにするだろう。


 絶体絶命の中で、はっと思い出す。


 そうだ、魔術……! 確か、ひとつだけ使える魔術があったはずだ!

 どんな魔術かは分からないが、やるしかない……!


 俺は決死の覚悟で虎へと手をかざし――


「【灯火】!」


 ぽわん、と。


 指先に、ささやかな火が灯った。


「…………――」


 死んだ。


『ガアアアアアアアアアアアアアッ!』


 虎が身の毛もよだつ唸りを上げて跳躍した、その時。

 頭の中に、あの声が鳴り響いた。


《実績解除。【魔術士】の称号を獲得しました》

《魔術士スキル【無詠唱】を獲得しました》

《【灯火】の上位魔術を習得可能です。習得しますか?》


「ッ……! 頼む、とにかく強いやつ!」


 間髪入れず、謎の声が応えた、


《上級魔術【爆炎】を習得しました。発動してください》


 突進してくる虎へ手をかざし、絶叫する。


「【爆炎】ッ!!」


 刹那。

 手のひらから凄まじい炎が逆巻き、森が消し飛んだ。


「……はい?」


 灼熱の炎が駆け抜けた後。

 うっそうと茂っていた木々が消滅し、何もない空間がぽっかりと開いていた。

 虎は跡形もなくなっている――いや。黒い石と牙らしきアイテムをぽつんと残して、すっかり消え去っていた。


 呆然と手のひらを見下ろす。

 ……俺、最弱スペックのはずでは? それとも、この世界の最弱ってこんなに強いのか……?


《戦闘終了。5000経験値と500スキルポイントを獲得しました》

《【魔核】【イヴィル・タイガーの牙】を獲得しました》

《レベルが30に上がりました》

《実績解除。【冒険者】の称号を獲得しました》

《【冒険者】の称号獲得により、2000スキルポイントが付与されました》

《称号【冒険者】補正により、以後、レベルアップ時に上昇する最大HP、MPが倍増します》

《称号【魔術士】補正により、以後、レベルアップ時に得られる魔力が倍増します》


 脳内に響く声で我に返った。

 とにかくこの化け物の森を出なければ。


 急いで黒い石とアイテムを拾うと、少女の元に駆け戻った。


 鎖が解けず難儀していると、再びあの声が聞こえた。

《【冒険者】の称号獲得により、スキル【解錠】が解放可能です。解放しますか?》

「お願いします」

《【解錠(Lv10)】を解放しました》


 試しに手をかざして「【解錠】」と呟くと、頑強そうな鍵があっさり外れた。

 ……この脳内音声ガイド、とても助かるが、いったい誰がナビゲートしてくれているんだろう?


 熊が落とした毛皮で少女をくるみ、背中に負った。


「……あれ?」


 異様に体が軽い。

 さっきは少し走っただけで息切れがしたのに、軽々と背負える。


 そういえば、謎の声が『レベルが上がった』と言っていた。もしかしてパラメーターが改善されたのだろうか? 後で確認してみよう。


 迷った末、男たちが去ったのとは反対の方向に歩き出す。

 おそらく彼らが去った方には街があるのだろうが……


 柔らかなぬくもりを背中に感じながら、男たちの言葉を思い出す。


『これでいい。あとは魔獣どもが骨も残さず片付けてくれる』

「……――」


 事情は分からないが、この子をあの男たちに会わせるわけにはいかない。

 俺は黙って、街があるとおぼしき方角に背を向けて、足を踏み出した。


 森の中の街道は、かなり長い間使われていないらしい。

 煉瓦は崩れ、硬い草が生い茂ってひどく歩きづらい。地味に体力を削られる。

 蔓草に足を取られないよう慎重に歩いていると、脳内に声がした。


《【冒険者】の称号獲得により、スキル【悪路走破】【加速】が解放可能です。解放しますか?》

「お願いします」

《【悪路走破(Lv10)】【加速(Lv10)】を解放しました》


 身体を見下ろすが、特に変わったところはない。


 俺は試しに一歩踏み出し――

 ぐんっ! と物凄い勢いで前に進んだ。


「うおお!?」


 身体が加速し、ぐんぐんと景色が通り過ぎていく。

 ええ~!? なにこれ~!? 楽し――――――!!!!

 耳元で唸る風の音に興奮しながら、俺はびゅんびゅんと森の街道を走り抜けた。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 お読み頂きましてありがとうございます。

 少しでも「面白い」「続きが読みたい」と感じましたら、★評価やブックマーク等していただけますととても嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る