第6話 鑑定





「このキノコ、食べられるのかな」


 ここに来る途中、森でキノコや木の実を採取したのだった。

 脳内の声が応える。


《【冒険者】の称号獲得により、スキル【鑑定】が解放可能です。解放しますか?》


 【鑑定】を解放してもらい、さっそくキノコと木の実を見てみる。



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 【マナベリー】:【冥府の森】に自生する、魔力を秘めた木の実。

         食べると魔力が向上する。

         生での食用が可。

 【チカラダケ】:【冥府の森】に自生する、魔力を秘めたキノコ。

         食べると攻撃力が上昇する。

         加熱調理が必要。

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「おお」


 食べても問題ないようだ。その上、ステータス上昇効果もあるらしい。

 【冥府の森】というのは、俺が転移スポーンした森のことだろう。……すごい物騒な名前だな。


 木イチゴに似た木の実を、試しに一粒食べてみる。

 少し酸っぱいが、爽やかな甘みがあって美味しい。汁気も多いので、あまり噛まなくても食べられそうだ。


キノコこっちはどうかな」


 試しに【灯火】で炙って、かじってみる。


「うっっっっま!?」


 肉厚の食感から、じゅわっとうまみが溢れ出す。まるで上質な肉のようだ。こんなキノコは食べたことがない。

 ただ、割と歯ごたえがあって食べづらい。体力が落ちているこの子では、少し食べるのが難しそうだ。


「スープにできたらいいんだけど……」


 先程ちらりと見た台所の様子からすると、調味料や調理器具の類いはあまり望めそうにない。キノコは後にしよう。

 ひとまず慎重に少女の身体を支え起こし、木の実をそっと唇にあてがう。


「食べられる?」


 小さく問うと、少女の瞳がうっすらと開いた。

 乾いた唇に木の実を優しく押し込むと、少女は力なく咀嚼し、飲み込んだ。


「…………」


 虚ろだった双眸に、わずかに光が宿る。

 不思議な色を宿す虹彩が、ぼんやりと俺を見上げた。

 透明なまなざしに見つめられて、はっと気付く。マズい、俺の化け物のような容姿では、この子を怖がらせてしまう――


 顔を隠すよりも早く、少女が口を開いた。

 ひび割れた唇から、枯れ果てて、今にも掻き消えそうな声が零れる。


「あり、がと……う……」


 彼女はそう言って、微かに笑った。


「……――」


 この子は森に捨てられて、魔獣に食い殺されそうになって――それでも見ず知らずの、こんな恐ろしい容貌の男に「ありがとう」と、そう声を振り絞って笑うのだ。


 胸が詰まって泣きそうになる。


 俺は小さな木の実を、一粒一粒、ゆっくりと食べさせた。

 最後の一粒を飲み込んだのを確かめて、再びベッドに横たえる。

 少女はそれきり、再び目を閉じた。


 一階に降りて台所を見てみるが、数少ない調理道具はほとんど劣化していた。鍋なんかはぼろぼろで、今にも底が抜けそうだ。

 考えてみれば水もないし、やはり一度街に出て、必要なものを買い揃える必要がありそうだ。


 それに、と、鎖に繋がれ、震えていた少女の姿を思い出す。

 【モテ死】の宿業を背負った俺ではあまり長く関わることはできないが、せめて元気になるまでは、安心して療養させてあげたい。

 そのために、新しい服やシーツ類も揃えたい。


 先立つものはお金だが、手持ちは銅貨五枚。まだこの世界の通貨よく分からないが、大金ではないだろうことは分かる。


「何か、お金に出来そうなものはないかな」


 他のアイテムを並べて、【鑑定】で見てみる。



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【魔核】A:魔獣の心臓。

      魔力を秘め、武器や防具、魔石に加工される。

      ギルドや道具屋で換金できる。

【魔核】B:魔獣の心臓。

      魔力を秘め、武器や防具、魔石に加工される。

      ギルドや道具屋で換金できる。

【ダーク・ベアーの毛皮】B

  炎を遮断する。また、保温性に優れ、防寒具として重宝されている。

  希少価値が高く、高値で取引される。

【イヴィル・タイガーの牙】A

  低レベルの魔獣を一撃で屠る殺傷力を持ち、武器に加工される。

  希少価値が高く、高値で取引される。

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「おお!」


 これはありがたい。売ればかなりのお金になりそうだ。

 ギルドに道具屋で換金できる、か……ギルドがあるということは、冒険者とかもいるのだろうか。

 とりあえずあの子の防寒のために【ダーク・ベアーの毛皮】だけ残して、他はお金に変えよう。

 近くに街があればいいのだが。


 《【探索者】の称号獲得により、スキル【地図】が解放可能です。解放しますか?》


 まるで俺の思考を読んだように、脳内音声が流れる。

 解放してもらうと、さっそく発動した。


「【地図】」


 唱えると、半透明のスクリーンがポップアップし、約半径三〇㎞圏内の地図が現れた。

 地図によると、森を含めたこの辺り一帯は、国境間に設けられた緩衝地帯となっていて、どこの国にも属していないらしい。

 ここに来るまでに通った道は、【旧街道】と表記されていた。やはり、今はもう使われていないようだ。


 俺が転移スポーンした森を見てみる。



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【冥府の森】 危険度A

  Bランク以上の魔獣が犇めく森。

  かつては街道が通っていたが、凶暴な魔獣が増え、現在は魔境として恐れられている。

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 ……んん?

 危険度A?

 改めて、なぜ最弱パラメーターの俺が生還できたのか分からない。ほとんど奇跡ではないだろうか。


 この廃屋は、【冥府の森】のただ中にぽつんと存在していた。


「魔境の森の、打ち捨てられた宿屋か」


 さながら陸の孤島だ。

 あまり人と関わりたくない身としては都合が良い。


 例の男たちが去っていた方角――【冥府の森】の北には、大きな街があった。【城塞都市リンディバーク】と表記されている。

 少女が眠る二階を見上げる。……この街には近付かない方がいいだろう。


「南にも街があるな。【フラウローズ】か」


 北の町に比べると規模は小さいが、行ってみよう。

 問題は、無事に森を越えて辿り着けるかだが……

 改めて、自分のステータスを見返す。


「スキルも【鑑定】できるかな」


 【解錠】と【加速】、【悪路走破】は分かるのだが、気になるのは【絶剣】だ。

 ステータス画面を見ながら、【鑑定】を発動する。



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【絶剣】:【勇士】固有スキル。

     手にしたものを、あらゆる魔を断つ絶世の剣へと変える。

     武器の強度によって、使える回数が限られている。

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「!」


 手にしたものを、あらゆる魔を断つ絶世の剣へ変える……これはチート級のスキルなのではないだろうか?


 高揚すると同時に、腑に落ちる。

 そうか、だからひのきのぼうは一回使っただけで蒸発してしまったのか。


 それにしてもすごいスキルだ。このスキルがあれば、魔獣と渡り合える。森を抜けて街へ行くこともできるだろう。

 だが、なぜいきなりこんなスキルを習得できたんだろう……?


「そういえば」


 ふと思い出して、ポケットからたわしを取り出す。


 この使い魔たわし、ずっと気になってたんだよな。






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