宮殿に近づくなかれ

「…リュード様は何か特別な体質をお持ちなんでしょうか。」


「いえ。ただ力は強いと言われます。どうかなされましたか?」


「あ、いえ…。リュード様の力が強いのは鍛錬の賜物だと思います。そういうのではなく、毒に強いとかそういう体質の話でして…。その…。先ほど体が頑丈だとおっしゃっていたと思うのですが…。それは昔からですか?だから騎士団でも有名なんでしょうか?」


「騎士団で有名?何のことでしょうか。体が頑丈なのは昔からですが…。」


「…リュード様の体が頑丈ということについてです。」



 確かにリュードは滅多に風邪を引かない。しかし、それだけで頑丈だと噂されるだろうか。それにリュードが自分のことを話すのはエミリオやルペルくらいだ。二人が騎士団に何かを言いふらして回るということは考えられない。

 騎士団で有名なリュードの噂は ”紅蓮の子” の噂だろう。何人殺した、とか人間の心がない、だとか。

 自分の体が頑丈だと噂されていることをリュードは知らない。



「そのようなことは存じ上げませんが…。もしかしたら、今までに私が何回か負傷した際の経過を見てのことかもしれません。どれも命に関わるようなものではなかったので、定かではありませんが。」


「そう、ですか…。」



 暗い顔をして俯くエレーナ。



「エレーナ様…?私のことで何かございましたでしょうか?」


「いえ…。あ!リュード様、最後にお怪我をなされたのはいつでしょうか。」



 思いついた!というように勢い良くこちらを振り向くエレーナ。



「約1ヶ月前ですが…。」


「1ヶ月前…。あの事件での怪我ですか?怪我の程度をお聞きしても?」


「ええ、情けない話ですが。山賊に肩を斬られました。今はもう傷口は塞がっています。」


「塞がっていないことにしましょう。あとは今日お風邪を召されたことに…。」

「…何のことでしょうか……。」



 エレーナは意を決したようにリュードの方に向き直った。



「リュード様。これから宮殿に来るようにとの指示があっても、絶対に宮殿には来ないでください。」

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