気まずい沈黙の破り方

「………。」


「………。」



 気まずい沈黙が二人の間を流れる。



「あの、リュード様もお座りになったらいかがでしょう?お疲れではありませんか?」



 沈黙に耐えかねてエレーナが口を開く。



「いえ。私は結構です。」



 特に疲れてもなかったので、リュードはそれを断った。



「そうですか…。」



 エレーナの気まずそうな声に、リュードは気付く。さっきの提案がこの気まずい沈黙に対するエレーナの気遣いであったことに。

 ならばこの気遣いに乗った方がいいだろう。



「あ、いえ、やはり雨で少し疲れてしまいました。お言葉に甘えてもよろしいですか?」


「え、ええ。大丈夫ですよ。少し狭いかもしれませんが。」



 そう言ってエレーナは自分の服を寄せ、リュードが座るスペースを作った。

 リュードはエレーナからできる限り遠いところに浅く座った。二人掛けのベンチなので、そのような努力は微々たるものなのだが。



「あの、大丈夫ですか?狭くはありませんか?」


「大丈夫です。私よりもエレーナ様の方こそ狭くはありませんか?」


「私は大丈夫です!良かった…。」



 エレーナはかなり背が高い。それを心配してのことだろう。



「くしゅんっ!」



 可愛いらしいくしゃみに隣を振り向いてみれば「失礼しました。」とエレーナが申し訳なさそうに言った。



「お身体は大丈夫ですか?」


「少し冷えただけです!大丈夫です。」



 少し冷えただけというが、肩をさすっているあたり寒さに弱いのかもしれない。それにエレーナの濡れた髪が首筋に張り付いている。そこからも体温を奪われているはずだ。

 リュードはおもむろに立ち上がると自分の制服の上着を脱ぎ始めた。



「リュード様、何を!?」


「いえ、風よけくらいになればと思いまして。」


「え?」



 制服を思いっきり絞る。そんなに染み込んでいなかったらしくあまり水は出なかった。さすがは防衛隊の制服だ。エレーナのいない方にバサバサと制服を振る。

 これである程度の水分はとれたはずだ。



「体温を奪うほどの水分は残っておりません。こちらをお使いください。」


「そんな、いけません!リュード様が風邪を召されてしまいます。」


「私の体は頑丈ですので、ご心配なさらず。それに、このままではエレーナ様が風邪を召されてしまいます。」


「私は大丈夫です!」



 大丈夫だという割には、顔が白い。



「くしゅんっ!」



 また可愛らしいくしゃみを一つ。



「す、すみません…。」



 気まずそうに顔を逸らすエレーナ。



「薬の研究でお疲れでしょう。長時間体が冷えれば、本当にお風邪を召されてしまいますよ。」



 そう言ってエレーナに上着を差し出した。

 エレーナは思い当たる節があるのだろう。少し考えた後、それを受け取った。



「ありがとうございます、リュード様…。本当に何から何まで…。」


「いえ、当たり前のことですのでお気になさらないでください。」



 エレーナはリュードの制服をゆっくりと肩に羽織った。



「…暖かいです。ありがとうございます、リュード様。」


「良かったです。」



 エレーナが申し訳なく感じないように、リュードはまたベンチに座った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る