雨宿り
「リュード様、大丈夫ですか?」
そう言ってこちらを気遣うエレーナも雨に濡れている。
「私は大丈夫です、それよりエレーナ様が…。」
「あら。お互い様でしたね。」
リュードに言われて自分の姿を確認したエレーナは苦笑いしながらそう言った。
「本降りになってしまいましたね。」
置いてあったベンチに座りながらエレーナが言う。
「そうですね。しばらくは止まないと思います。」
「そうですよね…。」
「エレーナ様はこちらにお一人で?」
「え?ええ。」
リュードは特に雨に濡れることなどどうでもよかった。任務中であれば体力を奪われるので気にするが、今は早く駐屯所に帰ることの方が優先だ。まあ、今日は少し罪悪感が強かったのかもしれないが。
しかしこの雨が止むまで、ここに一人エレーナを置いていくと言うのはリュードの騎士の心が許さなかった。
それに今は墓荒らしの件もある。宮殿近くの墓地とはいえ、薄暗い雨の日の夕暮れ。安全とは言い切れない。
「エレーナ様、今日はお帰りはどうなさるおつもりでしたか?」
「えっと、ここから宮殿に戻って馬車で帰るつもりでした。」
「ではこの雨が止みましたら、宮殿までお送りいたします。」
「いえ!!そんな、リュード様に悪いです!」
「私もあとは駐屯所に帰るだけですので、お気になさらず。それに雨が止んだ頃には大分暗くなってると思われます。墓荒らしの件もありますし、宮殿まででもお一人で帰すわけにはまいりません。」
「で、ですが…。」
「私に騎士道を全うさせてはいただけませんでしょうか?」
心優しいエレーナには卑怯な台詞だが、最後の手段である。
「わ、わかりました。リュード様、お世話になります。」
リュードの駄目押しの一言でエレーナは折れた。
だがエレーナは納得しきってないようだ。
「ですが、リュード様。そちらの方のお墓参りはよろしいのですか?」
エレーナが遠慮がちに指すのはリュードが持っている花束。
先ほどよりも萎れてしまっている。
「あ、これは。エレーナ様をお送りした後に参りますので大丈夫です。」
リュードは花束をサッと自身の後ろに隠した。
「そんな!私も送ってくださるよりも先にそちらの方のお墓参りをなさってください!」
「いえ、本当に大丈夫です。お気遣いいただくようなことは。」
「ですが…!」
「本当に大丈夫です!彼らの墓はこの墓地の端にありますし、私には来てほしくないでしょうから。」
「……彼ら?」
しまった、とリュードが思ったときには時既に遅し。
感傷的になっていたとはいえ、余計なことをと後悔しても、聡いエレーナの前では後の祭りである。
「それに来てほしくないって………。」
「不要なことを口にしました。お許しください。」
リュードが目を伏せながら答えると、エレーナも何か察したようだった。
「私の方こそ申し訳ありません。不躾な質問をいたしました。」
「いえ、大丈夫です。」
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