第5話



「はい、これで答えは24」


「ありがとう。分かり易かった~」


渚が笑顔でお礼を言う。イケメンのスマイルは男女問わず心を和ませるものだ。マイナスイオンでも出ているのかもしれない。


「いちごみるく」


自販機に100円で売ってある紙パックのジュースのおねだりを、俺も渚に顔を近づけてニコッと笑いながら言ってみる。渚は顔を手で覆って、小悪魔、と一言呟いた。


「前までカフェラテ飲んでたのに。飽きた?」


少しだけ目が潤んでいる渚は、俺の手を撫でながらそう聞いてきた。渚はスキンシップが多い。


「いや、渚が前飲んでたから、美味しいのかなって思っただけ」


「分かったぁ。昼休みに買ってくるよ~」


渚とは昼飯を一緒に食べている。正直このクラスに渚がいなかったら詰んでいたかもしれない。



 午前の授業も終わり、教室内は緩い雰囲気。そんな中でスマホを触る渚は俺でも話しかけることを躊躇う鬼気迫る表情をしていた。


 机の上にはコンビニで買ったのだろう、かかおおにぎりと緑茶。それと、おそらく俺へのものだろういちごみるく。俺の昼飯は購買で買ってきた100円のメロンパンである。


 隣の席なので椅子を近づけるだけでいい。渚は放っておいてメロンパンに食らいつき始める。早く食べるとなくなるので、一口三十回嚙むと何となく満腹になる。別にダイエットしているわけではないのだが、金がないのである。


「……ねえ、雫。今日一緒に帰ろうよ」


渚から帰りの約束を持ち掛けられた。渚はテニス部に入っている。練習は大体七時くらいまで続く。甘井と話し終わっても、十分時間が余るだろう。教室で宿題しながら時間を潰せばいいか、と思う。


「いいよ。今日は部活行くつもりだし」


そういうと渚はさらに顔を暗くする。


「へぇ~。部活って何するの?」


「今日は草むしりだけだと思う」


「雫一人?」


「いや、二人で」


「誰と?」


「甘井っていう奴。三組の子だけど、渚は知らないと思う」


「甘井って女?」


「そうだけど?」


「二人っきりで?」


「うん」


渚は少し眉を顰めた。


「雫ってさ、その子のこと好きなの?」


「別にそんなことない」


甘井は面倒見の良いお姉ちゃんみたいな感じだ。頼りになるな、とは思うけど。


「高校では付き合うのはもういいや。一回痛い目見てるし」


中学校時代のあれやこれやを頭に浮かべて、俺は心の中でため息を吐いた。


「……」


「あ、いちごみるく貰っていい?」


「いいけど。ね、高校の間は雫に彼女はできないってこと?」


渚はなんだかうれしそうな顔をしている。友達に彼女ができないのがそんなに面白いのだろうか。


「いや、自分からはどうこうしないってだけ。誰か可愛い子が告白してきてくれたらそれはコロッといくかもね」


なんだか癪だったのでそういうと、渚は目を見開いた。そこからはぽろりぽろりと涙が落ちる。それは芸術作品のように美しい。やっぱ美形が泣いているのはクるなぁ。


「酷い、裏切り者!」


「ウソ泣き止めろ。ていうか、渚も作ろうと思えばすぐ作れるだろ」


最初の頃はすぐに泣く渚におろおろしていたが、半年以上一緒にいれば流石に分かる。こいつは確信犯だと。


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