2.不知火


 東京北西区。雑多なビルが連なる街中でも一際目立って聳え立つ重厚なビル――冒険者ギルド【不知火】の本部一階に併設された酒場にて、平日の昼間にも関わらず数多の冒険者たちが酒を飲み交わし、バカ騒ぎをしていた。


 そんな熱気と酒気が籠った暑苦しい空間の端、カウンター席の奥に並んで座る二人の青年がいた。

 黒髪の目付きが悪い男と、橙色の髪をした軽快な雰囲気を持つ男だ。


 黒髪の男――アズマは、不意に大きなくしゃみを漏らして、洟をすすりながらジョッキを傾ける。そんな彼を隣で見ていた仁斗じんとが、からかうような口調で言った。


「どうしたアズマ、風邪か?」


「バカ言え、俺が風邪なんか引くか」


「まぁ確かに、バカは風邪ひかないって言うしな」


「喧嘩売ってんのか?」


 目付きの悪い顔を仁斗に向け、軽く睨みを利かせるアズマ。


 仁斗は「冗談」と笑いながら手を振って、ジョッキに残っていたエールビールを一気に飲み干す。


「美月ちゃーん、もう一杯ね」


 仁斗は通りがった店員の女性にそう声をかける。


「あ、俺も頼んだ」


 アズマも残っていた黄金色の液体を喉の奥に流し込んで、ジョッキを置く。


「全くもう、アズマさんも仁斗さんも昼間から飲み過ぎですよ。皆さんもですけど」


 店員の女性――美月はトレイを脇に抱えながら腰に手を当て、ほんのり顔を赤くしている男二人を呆れたように見た。


 ここは【不知火】所属の冒険者御用達の食事処であるため、店員と顔見知りである者も多い。

 仁斗は空になったジョッキを美月に手渡しながら、店内でバカ騒ぎしている仲間たちを横目にして笑った。


「ま、今日くらいはね。みんな暇なんだから許してよ」


「暇なのはお仕事をサボってるからじゃないですか?」


「しょうがない、だって今日は例の催しがあるからね。みんな仕事よりそっち優先」


「まったく、冒険者ってのは自由でいいですね」


 美月は嘆息混じりに皮肉めいた言葉を残し、空になったジョッキと皿をトレイに積んで厨房の方に消える。

 そんな美月の背中――主に腰より下の辺りを目で追っていた仁斗は、アズマに言う。


「なぁアズマ、やっぱ美月ちゃんって良いよな。可愛いし、スタイルもいいし、何かおれみたいなヤツ相手でもちゃんと面倒見てくれそうだし」


「そうかもな。お前なんかが相手してもらえるとは思えねえけど」


「そこは友達として応援するくらい言ってくれ」


 苦笑する仁斗。

 アズマは小馬鹿にするように鼻で笑う。


「ったくアズマは連れないなぁ。そう言えばお前、一か月くらいに助けたって言ってた子とはあの後なんかあったのか?」


「いや何も。そもそもあれ以来会ってもねえし、会う理由もないだろ」


「なんだつまんねえ。女の子だったんだろ?」


「だから何だよ」


「可愛かったか」


「それを聞いてどうすんだよお前は」


「いや別にー? しっかし、まだ見習いの冒険者の女の子を奈落森林なんて場所で連れ回すとか、お前も無茶苦茶だよな。土蜘蛛にも襲われて色々やばかったみたいだし」


「うっせえ」


 アズマが顔をしかめる。


 実際、あの時のことはアズマもかなり反省している。

 どうしても逃したくない用事があったとは言え、さくらを奈落森林にまで連れて行って危険な目に合わせたのはアズマ自身だ。


 あの後、事情を把握した《冒険者協会》からも怒られた。

 違反事項ではないが、あまりに非常識すぎる、と。


 その時、トイレに乗せてビールジョッキを二つ運んできた美月が、それらをアズマたちの前に置きながら声をかける。


「あの、お二人ともマスターさんが今どこにいるかご存知ですか?」


「マスター? いや知らないけど?」


 仁斗が早速とばかりにジョッキを手に取りながら言う。


「アズマお前は?」


「いや、知らん。ていうかマスターが居ないって、連絡も取れないってことか?」


 アズマが美月を見やる。


「はい……。もし居場所を知ってそうな人がいたら声をかけてくれと、たった今受付の人に頼まれまして」


「そう言われてもな。試合のことは忘れてないだろうから、直前には来ると思うが」


 【不知火】のギルドマスターの奔放さは誰もが知るところである。

 どうでもいい時には周りをうろちょろしている癖に、肝心な時に居ないという事態は、もはや慣れたものだ。


 本日この後、ここの地下にある決闘場で、【不知火】のギルドマスターと他ギルドのマスターが、訳あって決闘試合をするという催しが開かれる。

 平日の昼間にも関わらず、多くの冒険者たちがここに集まっているのは、それを見るためだ。


 恐らく、その事前の打ち合わせの場に彼女が現れず、ちょっとした騒ぎになっているのだろう。


「そうですか。もし居場所が分かったら教えてくださると助かります」


 美月が、開け放たれた大扉の向こうにチラリと見える受付カウンターへと視線をやりながら言った。


「りょーかい。あ、美月ちゃん、唐揚げも追加で」


「はいはい分かりました、唐揚げですね」


 手をひらひらと振る仁斗に、美月は少し呆れたように頷いて背を向けた。


「ま、あの人は自由の化身みたいな人だからな。無駄だとは思うけど連絡入れとくか」


 そう言って仁斗はジョッキ片手にスマホをいじり始める。

 その時、ダダッとアズマたちの元へ駆け寄って来る一つの足音が響いた。


 ブンブンと手を振りながらアズマに笑いかけるのは、頭部の両側面から生えているうさぎのような垂れ耳を揺らしながら走る一人の少女だ。


「ケイくーん! ケイくんのほたるが、長い長い遠征からただいま帰りましたよっ!」


「ちょ、てめっ」


 その少女――ほたるは、カウンター席に座っているアズマに勢いよく跳び付いた。


 アズマは一瞬イスから転げ落ちそうになりながらも、どうにかほたるを受け止める。

 ほたるは恍惚とした笑みを漏らして、アズマの胸元に鼻先をこすりつける。


「あぁっはんぁぁぁああっケイくん、ケイくんの匂いがします……っ。あぁ……、あぁ、んん、っ、はぁっはぁ……っ、ケイくぅん……、ほたるは、ほたるは今この瞬間の為に厳しい依頼を成し遂げて来たんですね……っ。あぁ、あぁぁぁ、ケイくん好きぃ……っ」


「お前……っ、マジでこういうのいい加減にしろ」


 アズマはほたるを引き剥がして、投げるように床へ落とす。


 ほたるは床で膝を左右に開いて座り込み、潤んだ瞳でアズマを見上げた。

 彼女の頭から伸びる垂れた兎耳と、尾骨のある辺りから生えた短い尻尾がひくひくと動いている。


「でも、でもでも、ほたるは頑張って来たんですよ。四日間もケイくんと離れ離れにされて……っ、ほたるがどんな思いで夜な夜な自分を慰めたか、ケイくんは分かってるんですか!? 全部、全部あのクソ副マスターが悪いんです……っ。あの性悪ゴミクズ変態野郎……、絶対いつか撃ち殺してやる……」


「ほたる、お前な……」


 アズマは頭痛がするように額を手で押さえ、大きく嘆息した。


「ほたるちゃーん、久しぶりだね。相変わらずみたいで安心したよ」


 隣でアズマとほたるのやり取りを笑いをこらえながら眺めていた仁斗が、ひらひらと手を振った。


「あ、ジンさんもお久しぶりです。ここ最近全然会わなかったのでとっくに死んだのかと思ってました。元気そうですね」


「ほんとに相変わらずだね」


 仁斗は苦笑する。


「にしてもほたるちゃんは、まだアズマに振り向いてもらえてないのかな」


「いえ、これはケイくんの照れ隠しなのです。ホントはケイくんはほたるのことが好きで好きでたまらないのです。だからケイくんのことが好きで好きでたまらないほたると、相思相愛相性バッチリという訳です。ちょうど今日あたりに入籍するでしょう」


「しねえ」


 アズマが苦虫を嚙み潰したような顔で吐き捨てる。


「まったくもう、ケイくんったら素直じゃないんですからっ」


 ほたるが両手で頬を包みながらしなをつくって体をくねらせる。

 アズマの顔がさらに苦くなった。


 アズマたちのやり取りを眺めていた近くの席の冒険者たちが、品のない声で囃し立て始める。

 そんな彼らにアズマは鋭い視線を飛ばしながら、再びため息を吐く。


「アズマもほたるちゃんの何が不満なの? こんなに可愛いのに!」


「おぉ、ジンさんそうです! もっと言ってやってください! ほたるは絶世の美少女でおっぱいも大きくてケイくんのことを何でも知ってて、どんな変態的な要求にもこの体を捧げる覚悟のある世界一ケイくんにお似合いのお嫁さんであると!」


「ほらアズマ、ほたるちゃんもこう言ってる。ここで彼女を受け入れなきゃ男が廃るぜ? 据え膳食わぬは何とやらってやつだ」


「ジンてめえ、分かって言ってんだろ」


「まぁねー。でもこんなに一途なのに、アズマに雑に扱われるほたるちゃんが不憫でならないよおれは」


 仁斗が芝居がかった嘆きの口調で言いながら、床に座るほたるを見下ろした。

 するとほたるは手で目を覆って「しくしく」とすすり泣く真似を始める。


「ほらー、泣いちゃった」


「アホか」


「どうほたるちゃん、今夜はおれが慰めてあげようか?」


「あ、それは結構です。あり得ないので」


 きっぱりと冷めた声で断って、ほたるは立ち上がる。


「それは残念。あ、そういえばほたるちゃん、マスターがどこにいるか知ってたりする?」


「マスターですか? マスターなら今朝夢幻特区でフラフラしてるのを見かけましたよ。ちょうどほたるたちが帰ろうとしている時ですね。例の決闘の時間までにはギルドに戻るから心配しないでー、と言ってたので特に気にしませんでしたが」


「どんな時でも平常運転だな……、ウチのマスターは」


 アズマが呆れたように言う。


 その時、からあげが乗った皿をトレイに乗せた美月が現れた。

 テーブルに置かれる前に手を伸ばして皿からからあげを摘まむ仁斗。


「美月ちゃんありがとー」


「お行儀悪いですよ、仁斗さん」


「ごめんごめん、あぁそれとさっき言ってたマスターの件だけど」


「あ、それなら今さっき解決したようなので大丈夫です。それよりアズマさん、受付にお客さんが来てるみたいですよ」


「俺に……?」


「えぇ、私もチラッと見かけましたけど、可愛らしい女の子が一人」


「女!? ケイくん、浮気ですか! ほたるが遠征に行っている間に浮気したんですか!」


 ほたるが目を見開きアズマに詰め寄って、胸倉を掴みブンブンと揺さぶる。


「バカ、ちげぇよ……っ! あぁもうめんどくせえなお前は!」




 学校を後にしたさくらは電車を利用し、東京北西区七番街にある【ギルド不知火】の本部ビルにやって来ていた。

 さくらが通う東京西冒険者学校から【ギルド不知火】までは、電車を乗り継いで歩けば四十分ほどで辿り着く。


 東京北西区七番街は、東京西部の中でも有数の繁華街だ。無数の商店やモール街、商業ビル、娯楽施設が立ち並んでおり、人の数も多い。

【ギルド不知火】はそんな人口密集地から少し外れた所にある高層建築群の中にあった。雑多なビルが立ち並ぶ中でも、一際異彩を放って堂々と天を衝く巨大高層建築――これこそが、日本内でも広く名を知られる無類の冒険者ギルド【不知火】の本部である。それを示すように、昼間でも爛々と赤く輝くイルミネーションでなぞられた『不知火』の三文字が、ビルの中腹あたりで激しく主張していた。


 実際にこの目で【不知火】の本部ビルを見上げ、その異様な威容に圧倒されるようにさくらは固まっていた。

 真昼間でも派手過ぎる輝きを放っている『不知火』の文字には、一体何の意味があるのだろう。それだけでなく、ビルの壁面は赤系統の色で鮮やかに彩られている。

 ハッキリ言ってシュールすぎる。マップで示された【ギルド不知火】の場所がここじゃなければ、絶対に近付こうとはしなかった。


 正面入り口と思われるモザイクガラス製の自動ドアから少し離れた位置で、さて一体どうしたものかと、さくらは思案する。


 より優れた冒険者になるために! と、何となく勢いで来てしまったが、具体的なことは何も考えていない。

 強いて、己の希望を包み隠さずありのまま言うなら、さくらはアズマに修行的なものを付けて欲しいと思っている。一か月前に偶然できた彼との縁を利用し、彼に稽古を付けてもらい、彼と同じくらい優秀な冒険者になりたい。


 図々しいにも程がある思考回路だ。

 こんなほとんど押しかけに近い形でアズマと再会し、こんなことを頼めば、どんな嫌味やら文句やらの苦言を呈されるか分からない。身の程を弁えろ、というものである。

 しかし本心なのだから仕方ない。アズマの冒険者としての凄さは、一か月前にさくらがこの目で見て、確信した事実だ。

 さくらは、強くなりたいのだ、強引な手を使ってでも。


 それに、頑張って拝み倒せば、なし崩し的にアズマはさくらに色々教えてくれるんじゃないだろうか、という予感がある。

 そう、アズマはツンデレだ。ツンデレなのだ。それもまた、一か月前にさくらがこの目で見て、確信した事実だ。


 そんな風に思考をぐるぐると回していると、さくらを覗き込むように見つめる紅の瞳があった。

 目の覚めるような美貌。

 すれ違えば誰もが振り返ってその立ち居振る舞いを目で追ってしまうような異容。

 まるで夢の中で巡り会う捉えどころのない少女。その少女は、紅い瞳をパチクリと瞬かせ、長いまつ毛を揺らしながらジッとさくらを見つめる。


「!?」


 気付けば、そこにいた。誰かが近付く気配はなかった。思わずさくらは地面を蹴って距離を取る。そして気付いた。その少女と会うのが、初めてじゃない事に。


「良い反応ね。もしかして冒険者かしら? 私のギルドに何かご用?」 


 少女は赤い髪をなびかせる。

 胸元が大きく開いた袖なしのブラウスに、瑞々しい太ももを惜しげもなく晒す短パンという装い。

 露出している肌は眩しく白く、だからこそ、そこに刻まれた刺青めいた《法章》が目立つ。首筋、胸元、右太もも、左の肩、右腕。パッと見て視認できる箇所だけでも五つ。《夢法術》という異能を使うための《法章》が刻まれていた。


《法章》という代物の存在をよく知る者なら、これだけで彼女がいかに異常か悟るだろう。《法章》を身に刻むことは、簡単に言ってしまえば、人体に特殊能力を使うための器官を無理やり埋め込むようなものだ。常人なら一つか二つで限界。三つ刻んで正気を保っていられるのが一握りの天才。それを彼女は少なくとも五つ身体に刻み込んで、優雅に笑っている。


 間違いない。この少女こそが、冒険者ギルド【不知火】のギルドマスターにして、現在日本でも四人しかいない〝Sランク冒険者英雄〟――そして何より、五年前、街になだれ込んだ《夢邪鬼ナイトメア》に襲われたさくらを助けてくれたあの少女だ。

 さくらが冒険者を目指すキッカケになった少女だ。あの頃と何も変わっていない。着ている服以外は、見た目の少女のような若々しさも、雰囲気も、何もかも同じだ。


「あ、あの……っ、私の事、覚えて、ますか?」


 ずっとあの日のお礼を言いに行こうと思って、ここを訪れることができなかった。

 きっと、彼女は街中で助けた変哲もない少女のことなど、覚えていないだろうと思ってしまったから。

 今日も、さくらが会いに来たのはアズマであって、この少女に会うことができるとは思っていなかった。まさか、こんな形で顔を合わせることになるなんて。


【不知火】のギルドマスター――くれなは、顎にスラリと伸びた白魚のような指を添えながら、さくらを見つめる。


「あら、私のお客さん? そうよね、あなたとは初めて会った気がしないのよ。うーん、どこで会ったのかしら」


 その時、紅の背後の自動ドアが機械音を立てながら開き、中から一人の男性が飛び出してきた。

 その若い男は、目の前にいる紅を見て、両眼を皿のように見開いた。


「ま、マスターっ!? こんな所に!? 何してるんですか!」


 何やら慌てている様子の男に、紅は悠然と振り返って首を傾げる。


「なに、と言われても困るわね。特に何かをしていた訳ではないけれど、ちょっとこの子と世間話でもと思っていたの」


「何ってのはそういうことじゃないですよ! 今日が【水明の月】との決闘試合だって覚えてないんですか!?」


「あなたは私のことを何だと思っているのかしら。かの【不知火】の名を持つ、この私なのよ。覚えてるに決まってるじゃない」


 紅が形の良い胸に手を当て、誇らしげに言う。


「だったら勝手にギルドから居なくならないでくださいよ! こっちがどれだけあなたを探したと思ってるんですか!?」


「それはごめんなさい。ちょっと《夢幻特区》で準備運動がてら《夢邪鬼》を狩っていたものだから」


「あーっ! もうマジで何やってるんですか!? もういいです。とにかく中に来てください!」


「何をそんなに焦っているの? まだ決闘試合の時刻まで十分くらいあるでしょう?」


「十分しかないんですよ!」


 そうして、紅は男に引きずられてビルの中に消える。


 その場に取り残されたのは、呆然と立ち尽くすさくら。


 さくらがそのまま固まっていると、再び正面の自動ドアが開いて、紅が飛び出してきた。


「話の途中でごめんなさいね。ウチのスタッフは優秀なんだけど、せっかちで困っちゃうわ。あっ、そうそう。あなたの名前を聞かせてもらってもいいかしら?」


「私は、青雲さくら、です」


「おーけい覚えたわ、さくらね。さくらは私のギルドに何しに来たの?」


「あ、え、えっと、その……っ! 私、アズマさんに――」


 するとさくらが全ての台詞を言い終える前に、紅が納得したように手を叩いて頷く。


「あぁ! あなたがアズマに奈落森林を連れ回された冒険者学校の子ね! 話は聞いているわ。アズマったらあなたのこと――って、あら?」


 紅がそこまで言いかけた所で、自動ドアが開いて今度は三人の男女が飛び出してきた。紅は三人がかりで拘束されると、ずるずると引きずられていく。


「さくらーっ! あなたのことは話を通しておくから、アズマに会うなり何なり好きにするといいわ! また会いましょねーっ!」


 満面の笑みでブンブンと手を振っていた紅の姿が、ゆっくりと閉じる自動ドアの向こうへ消える。


 またも呆然と立ち尽くすさくら。呆気にとられ、ぽかんと口を開けていたさくらは、不意にぶんぶんと頭を振って気を取り直した。

 流石、かの【不知火】のギルドマスター、凄い勢いだった。昔、助けてもらったお礼を言うことは出来なかったが、次に会えた時は、もし思い出して貰えなくても、きっとあの時の感謝を伝えよう。


 さくらは、内なる緊張を抑え込むように拳を握って「よし」と呟く。

 完全に想定外の出会いであったが、ギルドの主に許可を貰うことができた。これで堂々と入ることができる。


 さくらは歩みを進め、己を向かい入れるように開いた自動ドアをくぐった。


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