4.奈落森林Ⅱ
奈落森林に入って五時間ほどが経過したところで、さくらは己の身に溜まる疲労感を誤魔化せなくなってきた。
今日のさくらは朝早くに《夢幻特区》にやって来てから、ずっと歩き詰めである。
お昼ごろ、探索中にワイバーンの群れに襲われて先生や仲間と逸れ、アズマに助けられてからは、かなりのハイペースで進んでいる。
空を見上げると澄み切った夜空が広がっていて、満天の星と大きな月が見えた。
都市部では絶対に見られない素晴らしい眺めである。
だが今のさくらに、そんな綺麗な景色を楽しむ余裕は残っていない。さっきスマホで確認したところ、現在の時刻は二十三時を過ぎていた。
――みんな心配してるだろうなぁ……。
一応、アズマが持っていた《夢幻特区》でも使える通信機を借りて、アズマに保護してもらったこと等、事情は学校に伝えてあるのだが、やはり親や友達はさくらのことを心配しているだろう。
「あ……っ」
アズマの隣を猫背気味で歩いていたさくらが、不意に足元の木の根っこ足を引っかけつんのめる。
「す、すみません」
「……そろそろ休憩するか」
「え、でもアズマさん大事な目的があるって」
「思ったより早いペースで進めてるから問題ない。あとお前にぶっ倒れられても困る」
「すみません……、ありがとうございます」
アズマはここに来るまで何度もさくらを守りながら戦闘を繰り返していたのに、ほとんど疲れた様子を見せていない。
――Bランク冒険者ってすごいんだな……。
さくらは畏敬の念を込めて、ポーチからスクロールを取り出しているアズマを見上げる。
《
アズマは開けた平地に移動して、一辺三十センチほどの正方形型スクロールを地面の上に広げた。スクロールには、びっしりと《法章》の紋様が刻まれている。
「それ、なんですか?」
「俺の《
「へぇぇ……すごい。でも《法具》って滅茶苦茶高いんですよね」
「まぁ、そうだな。これは使い捨てだけど、普通に買ったら六万くらいする」
「ろ、六万……っ、使い捨てで……っ!?」
予想以上の値段にさくらが目を見張る。
「そ、そんなものここで使っちゃうんですか」
「アホか、ここだから使うんだろ。金で安全が買えるならそれに越したことはねぇよ。どうせなら仮眠も取りたいしな」
そう言って、アズマはスクロールに指先を当てる。
「――〝セロ〟」
アズマがそう呟いた瞬間、スクロールに刻まれた《法章》に光が駆け巡る。
淡く温かい色合いの光が灯り、スクロールが粉々の灰となって崩れ落ちると同時、四方に光の線が飛んだ。一辺約五メートルの正方形の光の線が地上に刻まれる。
「この結界の中に居れば、外部から俺たちの気配は感じられない。まぁ絶対安全って訳じゃないが、かなりマシだろ。そんなに長居するつもりはないが、持続効果は五時間だ」
「おぉぉ……、すごいですっ」
さくらが手を合わせて感心の声を上げる。
「ほら、お前は寝とけ。俺が見張りしとくから、三十分くらい経ったら交代な」
「はい、ありがとうございます。………………。」
しかし、地面をジッと見つめて突っ立ったまま動こうとしないさくらに、アズマが胡乱げな視線を向ける。
「どうした。腹でも減ってんのか?」
「いえ、さっき持ってきた保存食をつまんだりしたので、お腹はそこまででもないんですけど、結構地面濡れてるなぁ、と」
昨夜まで降っていた豪雨の影響でぬかるんだ地面は、まだ乾き切っていない。
「…………」
「いや! ぜ、贅沢なのは分かってるんです。冒険者ならそんな細かいこと気にしちゃいけませんよね! あ、あはは。それでは、ありがたく仮眠を取らせていただきます!」
「……確かに、疲れを取るならなるべく良い環境で休んだ方がいいのは事実だからな。俺はこの程度気にしないんだが、まぁ、これでも使っとけ」
アズマは腰のポーチから引っ張り出した防水性のシートを、さくらに投げて渡す。
「あ、ど、どうも、ありがとうございます……」
毎度毎度、適当な理由を付けたり、文句を言ったりしつつも、何だかんださくらのために色々してくれるアズマ。
奈落森林という極めて危ない場所に入って長く経つのに、未ださくらは傷一つ負っていない。
アズマが守ってくれているからだ。それを再認識して、何だか顔が熱くなってきたさくらは誤魔化すように明るい声を出す。
「そ、それにしてもそのポーチ、色んなものが入ってますよねー」
「まぁな」
ここに来るまで、アズマが腰のポーチから、その時々に応じて色んなものを取り出すのをさくらは見ている。明らかに見た目の要領に収まり切る数じゃない。
たぶん、かなり特殊なポーチなのだ。
今日さくらがそのポーチから出てくるのを目撃した品々は、通信機に、《夢晶》を納めるケース、拭布数枚に、保存食と水、スクロールに今取り出したシート、そして一眼レフカメラ。
アズマは冒険者でありながらプロのカメラマンであると、ここに来るまでの道中で聞いた。いくつか写真集も出しているらしい。
正確には写真家だとアズマは言っていたが、カメラマンとの違いがさくらにはよく分からなかった。
《夢幻特区》にある様々な幻想的光景や、幻想生物を撮るのが、写真家としてのアズマの仕事らしい。
写真を撮るのは調査等の目的ではなく、あくまで写真そのものが目的。
珍しく、綺麗で、荘厳で、夢のような光景を収めるために、自分はシャッターを切るのだとアズマは話していた。《夢幻特区》には、皆が思っている以上に美しい光景が存在しているのだ、とも。
「あの、アズマさんは、何かの写真を撮るためにここに来たんですよね」
腰のベルトに挟んでいた片手剣(タオルを何枚か刀身に巻き付け鞘代わりにしている)を置いて、防水シートを敷いた上に寝転がったさくらは、樹木の幹に背中を預けて地面に腰を下ろしているアズマの方を向く。
「あれ、そのことお前に話したっけか」
「いえ、でもなんとなく……。一体どんな写真を撮ろうとしてるんですか?」
「知りたいか?」
アズマがニヤリと子供のように笑って、さくらを見た。
その無邪気な笑顔を見て、さくらの心臓が小さく跳ねる。
――この人、こんな風に笑うんだ……。
鼓動が早くなって、顔が火照る。思わずさくらは寝返りを打ってアズマに背を向けた。
「え、えぇ、そりゃまぁ、知りたいですけど。こんな危ない所に来てまで撮りたい写真がどんなものなのか」
「そいつはまだ教えられねえな」
「な、なんでですかっ。意地悪しないで教えてくださいよ」
「やだよ。それじゃあつまんねえだろ。見てからのお楽しみってやつだな。まぁ俺も話に聞いただけで、実際に見にいくのは初めてなんだが」
「……いじわる」
「いいから早く寝てろ。時間になったらお前がまだ疲れてるって喚いても引きずってくからな」
「むぅ……」
さくらは不満げに唸りながらも、大人しく目を閉じる。
夏の気配を感じるようになってきたこの時期と言えど、夜になるとそこそこ冷え込む。
両腕で自分を抱くようにして体をさすっていると、突然さくらの上に小さめのタオルケットが降って来た。わざわざ確認しなくても、アズマが投げて寄越したものだと分かる。
「……アズマさんって、かなり卑怯ですよね」
「あ? 何が」
「い、いえ、ありがとうございます。おやすみなさい」
自分でも思っている以上に疲れていたのか、寒さという要因が取り除かれた次の瞬間には、さくらは眠りに落ちていた。
涼やかな風が緩やかに吹き、木々の枝を揺らす。ザワザワと枝木が擦れ合う音が鳴っている。
さらに耳を澄ませば、ガサガサと夜の生き物が忙しなく動いている音がどこかで響いている。
はるか遠くで、獣が遠吠えをしている。
澄んだ夜空には満天の星が散らばり、煌々とした満月が淡光に包まれる森林をさらに明るく照らしていた。
樹木の幹を背もたれ代わりにして腰を下ろしていたアズマは、一眼レフカメラを空に向け、手元をブレないようにしっかりと固定しながらゆっくりシャッターを切った。
星の光を取り込むために、シャッタースピードをかなり遅くしているので、本当は三脚か何かに固定して撮るべきなのだが、まぁ今はいいだろう。
写真というのは不思議なものだとアズマは思う。
人間が人生の中で視界に収める光景は一期一会で、全く同じ景色を見ることは二度とない。なぜなら、世界は変わり続けるものだからだ。
七十年前の《就寝開闢》が起こる以前の日本の様子を、よく写真で見せてくれた人が居た。アズマが育った孤児院の院長で、不思議な老人だった。
もう彼は亡くなってしまったが、彼が見せてくれる昔の日本は、今の日本と色んな部分が異なっていて、面白かった。
彼はかつて写真家だったらしく、アズマにカメラの使い方を教えてくれたのもその人だ。
もっとも、アズマが撮影というものに没頭するようになった理由は、他にあるのだが、それがキッカケの一つだったことに違いはない。
写真は、本来たった一度しか与えられない人生の一秒一瞬を切り取って、半永久的に保存することができる。
あの日見た素敵な景色も、二度とは会えない彼の人の笑顔も、果ては自分が知らない別の時間、別の場所の光景まで写真は記録して、誰にでも平等にその有様を伝え得る。
自分が見て経験して、素晴らしいと思ったその景色を、その時の感動を、幸せを、別の誰かに見せてやることができるのだ。
真実を写すと書いて〝写真〟。
レンズの先にある何かをたった一瞬で写し取ってしまう写真には、不思議な魔力がある。大昔の人々は写真に己の姿を収められると、魂を吸い取られてしまうと思っていたらしいが、無理もない話だ。
アズマは、視界の端で、安心しきったように穏やかな寝息を立て、だらしない笑みを浮かべているさくらをふと見やった。
基本的に鬱陶しいさくらだが、こうして大人しく、幼い子供のように眠っているとそこそこ可愛らしい。
彼女との出会いは全くの偶然で、ハッキリ言って面倒のタネでしかない。
彼女を連れて行くと決めたのも、あの場に彼女を放り出して、万一にも後で訃報を聞いたりなんかした時には、その日の飯が不味くなると思ったからだ。
青雲さくらという少女は、弱くて世間知らずの未熟で、生意気で、良くも悪くも素直だ。アズマのような初めて会った相手にも臆せずどんどん己の気持ちをぶつけてくる。
まるで昔の自分のようだとふと思って、アズマは自嘲する。
「しかし、まだ見習いのくせによくこんなとこで熟睡できるなこいつ……大物か、アホか、バカなのか……」
《夢幻特区》がどんなに危険な場所であるかは、今日アズマと行動することで、さくらも実感していた筈なのだが……。まったく、緊張感があるのか無いのか分からない。
何とはなしに、アズマは手にしていたカメラを、間抜けな寝顔を浮かべているさくらに向けてシャッターを切る。
「…………なにやってんだ俺は」
アズマがたった今撮った写真のデータを削除しようと、カメラをいじっていた時、サァ――ッと、限界まで張り詰めた冷気が一体に広がったのを肌で感じた。
「……やっぱり、何かいるな」
アズマは顔を上げて、西に視線を飛ばす。この奈落森林に足を踏み入れた時から感じていたことだが、何かがいる。森に住みつく生き物たちも、平時よりピリピリと緊張していた。
それに、さくらから聞いたワイバーンの群れが現れたという情報と、ここに来る途中で遭遇したオーガのこともある。どちらも《ネームド》だが、あんな都市部に程近い場所で姿を見せるのは珍しい。嫌な予感がすると、アズマは思った。一つ一つは小さな違和感だが、それらが重なると偶然では済まされない。
「――は、はいっ!」
その時、突然さくらが寝言を口にしながら起き上がって、寝惚け眼でアズマを見た。
「あ、……あれ……?」
「おう、起きたか」
「……ふぁ、あ、はい、おはようございます……」
さくらは目元を擦りながら、ふにゃふにゃと声をこぼす。
「疲れは取れたかよ」
「少なくとも眠気は取れました」
さくらはその場で大きく伸びをして軽く息を吐いてから立ち上がる。まだ体に疲労感は残っているが、寝る前よりは大分マシだ。やはり人間にとって睡眠は重要だと実感する。
「そうか良かったな。じゃあ俺も仮眠を取るから、お前は見張り頼む」
樹の根元に座りなおして体勢を整えながら、アズマが言った。どうやら横にはならず、座ったまま眠るようだ。ふと、アズマがあくびを噛み殺す。
半日以上、さくらを守りながら《夢幻特区》を歩き続けても一切疲れた様子を見せなかったアズマの、その人間らしい所作に、さくらはどこか安心感を覚える。
さっき見せられた屈託のない笑みと言い、当たり前だが、アズマもさくらと同じ人間なのだと感じた。
意図せずアズマの顔をジッと見つめてしまうさくらを、アズマが胡乱げに見た。
「なんだよ」
「な、なんでもないです! 見張りは私に任せてアズマさんは安心ぐっすり眠ってください! 私に任せてください!」
硬く拳を握りしめ、気合満々に宣言するさくらの空回り感に、アズマは不安を覚えた。
「はぁ……、そんな気を張らなくてもいい。少しでも何かあったら俺を起こせばいいから」
「りょ、了解です」
何故かピシリと敬礼を決めるさくらにさらなる不安感が募るが、どんなポンコツでも何か起こった時にアズマを起こすくらいはできるだろう。
アズマは腕を組んで眼を閉じ、浅い眠りについた。
アズマが寝付いた後、さくらは「よし」と気合を入れるように呟き、さっきまで自分が使っていたタオルケットをアズマに被せる。そして片手剣を握りしめ、アズマの隣に座る。
――な、なんかあった時、すぐ起こせるようにしないと……。
さくらはジッとアズマの寝顔を見つめる。綺麗な顔だ。基本的に整っているアズマの顔立ちを荒々しい印象にしている要因は、目付きの悪さと言動による所が大きいようで、こうして静かに眠っている姿を見ると、そこそこイケメンである。
若くしてBランクの有望さで、顔も悪くない、言動こそ荒っぽいが、何だかんだ面倒見が良くて頼りがいもある。
「……モテそうだな」
ボソリとさくらは呟いた。
そして思う。
暗がりの人気のない夜の森に、若い男女が二人きり。もしアズマに恋人のような人物がいた場合、この状況はかなりまずいんじゃないだろうか、と。
――さ、刺されたらどうしよう……。
アズマに恋人がいないことを祈りつつ、さくらはふと、アズマが手に持ったままのカメラに視線を下ろした。アズマはカメラマンとしても活動しているらしく、それを示すように今日も時折カメラを取り出しては、写真を撮ったりしていた。
ふとさくらは立ち上がり、離れた位置に置いてあるバックパックの元に移動してスマホを取り出すと、上空に広がる素晴らしい星空を写真に収めようとシャッターを切った。パシャリと音が鳴る。
まずいと思って、さくらは振り返ってアズマを見た。どうやら今の音では起きなかったらしい。安堵の息を漏らす。
――静かにしないと。
そしてさくらは、たった今撮った星空の写真を確認してみた。
「……あれ」
しかしそこに映っているのはぼんやりと森を包んでいる光と同じ色に彩られた暗闇で、さくらが見ている星空と同じものは映っていない。さくらは首を捻る。
――壊れちゃったのかな……?
さくらは無言で手元のスマホを見つめた後、シャッター音が外に響かないようにスピーカーを手で押さえながら、少し離れた位置にいるアズマにスマホを向けた。
液晶画面に、淡い光に照らされたアズマの寝顔が映る。
――壊れてないか確認するだけだから……、確認するだけだから……。
自分でもよく分からない言い訳を内心で繰り返しながら、さくらはシャッターを切った。ぼんやりと幽霊のように浮かび上がるアズマの寝顔が写真として記録される。
「こ、壊れては、ないのかな……?」
顔が熱くなる。一体何をやっているのだ自分は。
「ま、まぁでも一応保存しておこう……」
さくらが小さく呟いたその時、森が揺れた。
「――!?」
ズン――ッ、と。何か鈍重の巨体が移動するように、大地が鳴動し、大気が揺れ、森がざわつく。
どこかで、大量の木々がなぎ倒されるような音が響いた。獣たちが吠え猛り、その一瞬後、甲高い絶叫のような耳障りな音が轟いた。
「あ、アズマさ――っ!」
さくらがアズマを起こそうとした時には、既に彼は立ち上がって鞘に手をかけていた。
「何か来てる。この結界から出るなよ」
「は、はぃ」
コクコクと何度も首を縦に振るさくら。
手に持っていたスマホをポケットにしまい込んで、アズマの側に行く。
「な、何が来てるんですか……っ?」
「さぁな、でもかなりヤバそうだ」
「え、えぇぇぇっ」
「運がいいぞお前、奈落森林でもこの辺りの浅瀬じゃ、ここまでヤバそうなヤツはそうそう出ない。貴重な経験だな」
「なに言ってるんですか! 運最悪ですよぉ。なんでそんな冷静なんですかぁ」
さくらが泣きそうな声を上げる。
「まぁ、焦った所で何か得がある訳でもないしな。冒険者にとって大事なのは、どんな時でも焦らず、策を立てることだ。考えを巡らせて、必要以上に怖がらず、目の前のその先を予測して、対処すればいい」
「い、いきなりそんな難しいこと言われても……っ」
その時、ザザッと木々が擦れ合う音が、大量に重なって響きながら、こちらに近づいて来るのが分かった。
「――ひゃぁぁぁっ!?」
樹木の幹に体を預けるようにしているアズマとさくらのすぐ近くを、夥しい数の生き物が通り過ぎて行った。
四脚、二脚の獣。人の子供ほどの大きさもある多種多様の虫。大きな翼を広げる怪鳥。人型の何か。
一瞬過ぎて、それらの細かい姿形一つ一つは捉えられなかったが、大量の数の生き物たちが、アズマとさくらには目もくれず、どんどんと波のように過ぎ去っていく。
「な、なんで襲われないんですか!? 私たち」
「結界の中にいるからだよ。ジッとしてれば悟られることはない。動くなよ」
すぐ近くにいるアズマやさくらには目もくれずに通り過ぎていく生き物たち。アズマが張った結界の効果を実感して、さくらは安心する。しかし、その安心も束の間だった。
ズン――ッ、と。鈍重な地鳴りが森を揺らす。
さっきよりずっと近い。さらにソレが移動する音はどんどん大きくなっていく。バキバキと木々が重なり折れ、砕ける音が近い。地響きが近い。大気の鳴動が近い。ふと、さくらの鼻を、嗅いだこともない異臭が突いた。
「う――っ」
咄嗟に鼻を押さえ、さくらは振り返って木の幹から顔を覗かせる。
その時、さくらは自分の視界が捉えてしまったソレを見て、声にならない絶叫を上げた。
「――――〝土蜘蛛〟だ。気付かれなくても踏み潰される。逃げるぞ」
アズマがさくらを横抱きに持ち上げて、地を蹴った。高速で流れる視界の中、さくらは見た。
高さ五メートルほどもあるその巨体を。虎のような体躯から蜘蛛の脚が八本太く長く伸びて、その頭部に昼間見たオーガのような醜悪な鬼面が乗っているのを。
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