第3話 死して尚喰みる

 刑務所は人の終わりだと思うだろうが、場合によっては楽園に変わる。住む場所や健康の保証が無いとき、行く宛が無ければ精度の良い生活環境となり得る。


少なくともその中で、神と呼ばれる事はある



 「大変です所長!」


「どうした、また囚人が脱走でもしたか?」


「逆です!」「逆...どういう意味だ」


「それが..帰ってきたんです!」

地獄の門で睨みつける元住人が、監視カメラを見つめ不気味に口角を捻じ曲げている。


「…直ぐに捕らえろ。」

一歩、二歩と放たれた狂犬の脚が敷地に踏み込む。その度に人が倒れ、強度を増していく


「特殊警棒..よく叩かれたもんだぜ、気付かなかったが相当な威力だったらしいな。」

周囲に転がっている警官達がその証拠だ、何名か銃を抜いた者もいたがそんなものはかすり傷のきっかけにもならなかった。


『すごいな、君は何者なんだ?』


「ここまで来てまだわかんねぇか、まぁ別にいいけどな。全部見ればわかるからよ」

鎖はもはや解かれて消えた

手首に錠もされていない


「‥よぉ、クソの皆さん。」

相対するは当時の敵、そして今の邪魔者


「貴様、ギラ・ゴウラス..!!」


「あんたは..名前なんだっけなぁ?

まぁいいや、仲間たちつまませて貰うぞ」

大きな庭で多対一。

帰ってきた子供を素直に迎えいれればいいものの、何かを強く警戒している。


「貴様何が目的だ。

..何故のこのこ此処へ帰ってきた?」


「オレを探してたんじゃ無かったのかよ!

それで帰ってきてやればこれなのか..」

手元には警棒、辺りには血に濡れた警官達。

ただ帰って来たにしては騒ぎが過ぎる


「とことん邪魔な連中だなっ!」

警棒を振り上げ隊列に突っ込んだ。

看守を含めた警官は容赦する事なくギラを発砲、無数の銃声と共に弾丸を撃ち込む。


「うおっ..」

身体に食い込む無数の弾丸はネジを回すように渦を巻き外れ床へ落ちる。


「それで殺せると思ったか」


「なんだそのカラダは‥!?」


「なんだっていいだろうよ‼︎」

弾丸の衝撃で落ちた警棒を握り直し、改めて隊列に特攻する。


『おかしい..』 「何がだよ?」

異変が起きない筈が無い。

街があの調子なら、より近しく接していたこの場所にも同様の変化が生じている筈だ。


「もしかしてアレの事か?」

立ち止まり、親指を背後に突き示す。

倒れていた警官達たちが起き上がりゆらゆらと蠢めきこちらへ近付いてくるのがわかる。


『あれは…!』


「街の連中と同じだな、しっかり息の根止めとくんだったぜ。門の前で彷徨われてちゃ外に出ようにもウザってぇからな」

前方の警官達の顔が曇る、標的の背後に仲間がいるなら銃弾を乱発はしにくい。


「…奴等はどうした?

さっきまで倒れていただろ、何が起きたんだ」


「何処見てんだよテメェ。

オレの事はもう興味ねぇってワケかよ」


「お前こそいいのか。

背後の連中はお前を狙ってるんだぞ?」


「……」 「どうした、怖くなったか。」

煽る看守に感情を見せる訳でなく、冷静な表情で人差し指を立て囚人は言う。


「お前もヤベェぞ?」

看守の率いる隊列の警官が、背後から腕を広げて跳び上がる。


「なっ..⁉︎」


『ここも始まったみたいだ』

街と同じ衝撃が、臭い飯を腐らせる。

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