第3話
その日俺はできる限り普通の服装を纏って目的地である駅へと向かっていた。正直オタクである俺にとってファッションとは天敵と言っても過言ではないほどの苦手分野である。
まぁ元からファッションには興味なかったから苦手以前の問題なんだよね。
そんなわけでネットを使って調べたりしたわけだがよくわからなかった。
美桜にも聞こうとも思ったんだけど結局聞けなかったんだよな。 昨日に至ってはかなり機嫌が悪かったし。
そんななかで待ちに待った土曜日を迎えたのだが。遅刻しないと意気込みすぎたせいか20分程前についてしまった。
ちょっとに早く着きすぎだよな、遅れるよりましだけど。
一応辺りを確認してみる。休日だということもあり多くの人が行きかっていた。中には俺と同じように待ち合わせをしている人もいて、スマホをいじりながら立っている。 べ、別にどうも思わないけどね。
俺はもう一度時間を確認する。時刻は10時45分、まだ約束の時間には少し早い。
待ちどうしいなー陽菜さんに早く逢いたいなあ
どうであれ今日は陽菜さんとお出かけできるのだ、まだ合って数日だがメールでやり取りするうちに、どんどんと陽菜さんに惹かれていき、陽菜さんのことをもっと知りたいと感じしまう。
「もしかして須郷君?」
唐突に自分の名前が呼ばれて、声のした方に振り返った。
「おまたせ、もしかして待った?」
そこには理想のお姉さん系美少女が立っていた。白のブラウスと赤色のスカートの中から黒いタイツに包まれた足がより美しさを感じさせる。ハーフアップに結んだ黒髪が風に揺れており、先日とはまた違う可愛らしさにあふれていた。
「どうしたの?」
陽菜さんが上目遣いで俺の顔を覗き込んできた。
「な、なんでもです。それに俺も今来たところです」
やべぇ!超かわいい!しかも俺のために来てくれたんだよなこれ!?
「じゃぁ、行こっか?」
優しく語りかけるように陽菜さんが微笑んでそう言った。
「はい、よろしくお願いします!」
「そんなに硬くならないでいいよー、そもそも君へのお礼なんだから」
陽菜さんの横に並んで、駅のホームへと向かって行く。
「そういえば、今日ってどこに行くんですか?」
なんだかんだ行き先を聞いていなかった。
陽菜さんとお出かけ出来るならどこでも良かったからあんまり考えてなかったな。
すると、陽菜さんは、嬉しそうに「あ、気になる?」と笑顔で言うと。
「今日は須郷君と一緒にちょっとしたアニメイベントに行きたいと思います!声優さんのトークショーもあるよ」
「マジですか!」
「マジだよー」
マジで!?声優さんのトークショー!?しかもこんなかわいい陽菜さんと行けるのか!?
なんかもう全ての夢が叶った気がする。
「めちゃくちゃ楽しみです!」
俺たちは並んだまま駅のホームへと入って行った。
「次の駅だよ」
電車に乗って数十分、次の駅の名前を車掌さんがアナウンスしたタイミングで、陽菜さんがそう言った。
そういえば、この辺りの市民ホールかなんかで、毎年やってたような。一人じゃ勇気なくて結局いけなかったんだけどね。
電車はそれなりに混んでおり、俺たち二人は吊り革に揺られながら立っていた。
かなりの至近距離に陽菜さんが立っている。陽菜さんはそれなりに身長があって俺の額ぐらいに陽菜さんの黒髪があるんだけど、さっきからいい匂いがする。てかやばい、近い、電車が軽く揺れる度にちょいちょい揺れる部分がどうしても見えてしまう。
やばい。
俺は思わず視線を逸らそうとして。
「あっ」
瞬間、今まで以上に列車が強く揺れて、陽菜さんが俺の胸に飛び込んできた。陽菜さんの黒髪がなびいて、香りが弾け飛んだ。
「ご、ごめんね、須郷君」
「——だ、大丈夫です」
なんだこれ、美少女ってやっぱすげぇ!いい香りするし、それに少し照れてる陽菜さんがめっちゃかわいい!雰囲気は大人っぽいのに。
そんなこんなで、走行しているうち目的の駅に着いた。ただの移動の筈がもう既に楽しかった。ちょっとドキッとしたけど。
「つ、着いたね、降りよっか」
「そ、そうですね」
俺も陽菜さんも若干照れつつ電車を降りた。
「そういえば、今日のステージは星ファンに出てたシーナちゃん役の声優さんが来るよ」
「え!? 早川 奏さんが来るんですか!?」
「そうだよ、それにイベント会場にはコラボカフェなんかもあるんだって、折角だし行ってみない?」
「行きます!」
「それじゃ決まりだね。ステージは昼からだならカフェでお昼にしようか?」
「そうですね、もうすぐ12時ですし」
こうして俺たちはイベント会場にあるコラボカフェに行く事にした。
「いらっしゃいませー」
店員さんの元気な声が俺と陽菜さんを出迎えてくれた。中に入ると、アニメの世界を再現した内装が飛び込んできた。
「す、すげぇー」
「あ、見て! ここ、ギルドのカウンターが再現されてるよ!」
「本当ですね!あ、これは——」
二人で思わず興奮して、辺りを見渡しながら、席に着いた。アニメを見ていれば直ぐに気付くであろうポイント、例えば壁のデザインなんかが多々あり、見てるだけで楽しくなってくる。
まあ、一番は陽菜さんとこれた所なんだけどね。
「何頼もっか?」
「陽菜……さん?」
「うん?どうしたの?」
何故か陽菜さんが隣に座っている。綺麗な横顔に思わず目を奪われてしまう。改めて見ると本当に綺麗な横顔だ。
ていうか、隣!?いやめちゃくちゃ嬉しいけども!
ただでさえ緊張しているのに、さらに隣に超絶お姉さん系美少女の陽菜さんが座ってるのはやばい、顔とか真っ赤になってそう。
……陽菜さんは堂々してるなあ
「何頼もっか?」
陽菜さんがメニューを広げて、コラボメニューを見ている。見ると、アニメの中に出てきた酒場のメニューだったりが並んでいた。
メニューもしっかりと再現しているのが、コラボカフェの凄い所だ。
「そうですね、俺はじゃあ、この肉料理にします」
「それじゃ私も同じのにしようかな」
俺たちが頼んだのはアニメの酒場で登場した、異世界の定番メニュー的やつだった。アニメに登場するグリフォンのステーキを再現しているらしい。
結構リアルで、かなり見た目も美味しそうだし、それに、コラボカフェの感じも楽しめそうだったから選んだんだけど。
陽菜さん、もしかして俺に合わせてくれてのか?……いや流石考えすぎだよな。
「……須郷君」
「はい?」
「この前は本当にありがとう」
少し感情を抑え込んだ、そんな声音だった。
陽菜さんが真剣な眼差しで俺の方を見ている。
「——俺はたまたま拾っただけです」
「それでも、とても大切なものだったから、だからは本当にありがとう」
「き、気にしないで下さい。俺も見つかってよかったです……もしご迷惑でなかったらストラップのことを教えてもらえませんか?」
流石に失礼だったかも、と言ってから後悔するが陽菜さんは笑顔で「実はね」と話してくれた。
「これは私が初めていった星ファンのイベントで買ったものなの。私が一番好きな作品で一番好きなキャラクター。それに最後の一個だったの、私も彼女みたいになれたらなって……やっぱり恥ずかしいかな?キャラクターに憧れるなんて」
「そんなことないです。俺にも好きなキャラクターいっぱいいますし。憧れたり、尊敬してるキャラクターだっています、恥ずかしくないと思います」
「うん、ありがと」
陽菜さんは笑顔を作って、それから何かを思い出すようなそんな表情をしていた。
「お待たせしましたーこちらコラボメニューの——」
しばらくしてメニューが運ばれて来た、テーブルに並べられたコラボメニュー。
「美味しそうだね、早速食べよっか」
「そうですね」
ナイフで切りながら一口ずつ頬張った。肉汁が弾けて旨味が一気に広がる。
「美味しいですね」
「うん、今日は君へのお礼だから、遠慮せずにね」
「え、で、でも……」
「私がそうしたかったから。それにお礼っていいながら私が来たかったところに来ちゃったわけだし」
正直来れて満足しているし、流石に奢ってもらうわけにはいかないよな、でも陽菜さんが納得してもらえそうな理由が……そうだ!
「あの陽菜さん!食事は俺が出します。だからその……嫌でなければ一緒にイベントを回って下さい。お礼はそれがいいです」
理想のお姉さん系美少女の陽菜さんとイベントを回れるならこれ以上のことはない。だから頼んでみたんだけど。
「うーん、須郷君がそれでいいならもちろんいいよ、でもコラボメニューは私も出すから割り勘だね」
それで決着した。
「陽菜さん……かあ」
「あ、すいません!馴れ馴れしく……」
「ううん、むしろ嬉しかったよ、名前で呼んでもらえて」
優しく微笑む陽菜さんのかわいさに思わず心臓が跳ね上がってしまうのをなんとか堪えて、コラボメニューを楽しんだ。
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