第4話 初めの一歩。
「………。」
俺の聞き間違いでなければ、このアロハのおっさんは今、この金のゴブレットにアロハのおっさんの血を入れると言ったか?
控えめに言って気持ち悪い。
などと混乱している間にも、アロハのおっさんは金のゴブレットに指を近づける。
そして不思議なことに、指を切ったわけでもないのに指先から金色の液体がこぼれ落ちる。
「…………。」
目の前には…というか手の中には、金の液体が入った金のゴブレットが握られている。
「えーっと…飲むの?血を?」
『ほれ、さっさと飲まんかい。』
俺からの疑問や不満、その他諸々の苦情を全て無視し急かすし脅してくるアロハのおっさん。
『時間がないのじゃ、時間切れになって飲めずに地上へと戻ったら死ぬぞ』
まだ、あの死の恐怖が残っている手前、時間切れで地上に戻ってしまう可能性があると聞き焦ってしまった。
「…ええい」
そう、何を血迷ったかぐいっと飲んでしまったのだ。それはもう豪快な一気飲みをした。
それ程までにあのドラゴンは怖かった。まじで怖い。歯めっちゃあったし。口臭かったし。
「ぐぁぁぁぁ……。」
飲んだ瞬間、この世の物とは思えない程の激痛が全身を駆け巡った。
例えるなら全身のありとあらゆる血管を針で突き刺しグリグリとほじくり回されるような感じだ。
多分だが、雷に打たれたらこんな痛みなのだろう。それが持続的に続いている。
『頑張って生きるのじゃ、イコルの量は通常の半分にしておいたからのう』
激痛のせいでアロハのおっさんが何を言っているのか聞き取れないが、そんな事を気にする余裕もなく悶え苦しむ。
数秒のような数時間のような、頭がおかしくなるような激痛が続きだんだんと意識が遠のく。
「……。」
ゆっくりと瞼を開ける。
どうやら俺は、あの金のゲロマズ液を飲み干し、無事生き残ったようだ。
『ふぅ、よく生き残ったわい。今のお主がイコルを飲んで生き残る確率は…0.01%って言った所じゃったのに』
「う、うぅ…身体が痛…くない⁉︎」
何故だか知らないが、あの凄まじい激痛は跡形もなく消え去っていた。
そして、その代わりに身体の底から力が漲ってくるのを感じる。
その力は言葉で表現するのは難しいが、全身の血管を海の広大な力が通っている感じだ。
「ははっ、今ならなんでもできる気がする」
『よいか、地上に戻ったら、まずドラゴンの顎に水の塊をぶつけるのじゃ。その後は自分でなんとかするんじゃぞ』
『では、勝ってこい。我が息…』
突然得た凄い力の余韻に浸る暇も、アロハのおっさんと雑談する暇も、最後の発言を聞く暇も無く地上へと送り返された。
お尻に土の感触を感じた。
目の前には子供のドラゴン。
口を開けたドラゴン。
考える暇も無く現れた現実に対して、アロハのおっさんに言われた通り、ドラゴンの顎に水の塊をお見舞いする。
どうやればいいのか知らないはずなのに身体が勝手に動いた。
人差し指を上に向かって動かす。イメージしたのは湖の水を持ち上げる感じだ。
その動きは、ちょうどスポーツとかで相手を挑発するようなポーズだ。
ただそれだけの所作であった。
勢いよく上昇した水は巨大な水柱を作り、ドラゴンの顎にクリーンヒットした。
不意打ちを食らったドラゴンは、その巨体を大きくのけぞらせた。
「よっしゃ、いける。強くなってる」
完全に不意を突き、状況を理解していないドラゴン。
理解が追いつく前に水による攻撃をたたみかける。
「ここで俺に会ったのが運の尽きだったな」
水の単純な質量による攻撃に味をしめ、調子に乗りドラゴンのお腹へ向けて巨大な水柱をお見舞いする。
地上から20mもの高さへと持ち上げられたドラゴンは、重力に従い加速しながら落下し、頭を巨大な岩へとぶつけた。
「し、死んだよな?」
ぶつかった瞬間は、ピクピクと動いていた足なども次第に動かなくなっていく。
ツンツン。
恐る恐る、長めの枝でつついてみる。
反応は無い。
「いぃぃぃぃぃ…よぉっしゃーーーーー」
こうして、俺の異世界転移最初のバトルは勝利で終わったのであった。
※イコル: ギリシア神話に登場する神もしくは不老不死者の血(霊液)である。(Wikipediaより引用)
なお、主人公(カイト)はまだ金の血の名称がイコルだと知りません。後々知ります。
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