第3話 走って泳いで死んで
突然、景色が変わったことの驚きと、行き止まりだという恐怖で一瞬パニックになった。
どうしよう…。
オークはもうすぐそこまで来ている。考えている暇はない。
このまま、森を走り続けることは体力的にジリ貧で確実に死ぬ。
それならばオークが泳げないことを祈って、アロハのおっさんに泳ぎが上手くなりますように祈りながら湖へと飛び込んだ。
犬かきともクロールともとれる泳ぎ方で全力で泳ぐ。
なぜだか知らないが、湖へと入った途端に全身から力がみなぎってきた。心なしか体力も回復している気がする。
…が、そんな細かいことは無視して兎に角泳ぐ。泳いで泳いで泳いだ。
そんな感じで無我夢中で泳いでいると、間もなく対岸へと着いた。
幸運なことに、この湖は楕円形の形をしており、丁度幅が狭くなっている所を泳いだらしい。幅が狭いとはいえ、約2500mある為あのオークが小さく見える。
そして、泳がないで迂回するには途方もない距離なので逃げ切れたといえるだろう。
「ふぅ、あのオークが泳げないやつでよかった」
…と、岸に腰を下ろし一息ついた。
はぁー、と深いため息を漏らし呼吸を整えていると、ふと湖の湖面が泡立っているのを見つける。
亀とかを飼っている人はわかると思うが、水中で呼吸をするとあんな感じでブクブクと泡が出る。
ちなみに今回の泡の量や大きさは亀の15倍ぐらいだ。
「うん、やばいやつだな?」
「展開早すぎないですかねえ、神様?」
人間、全力で走って泳いだ後に一度休んでしまうと、たとえ命の危機があろうとも立ち上がるのは至難の業らしい。
そんなこんなで呆然と座っていると、泡の主が正体を現す。
座り込んでいる所から5mほど離れた湖面から、こちらを見ながら水を撒き散らし、脅すように顔を出した。
翼を広げ。空に向かって鼓膜が破れんばかりの咆哮を放つ。そう、その正体は巨大なドラゴンである。
「……………。」
うるさいし怖い。
人間はここまで絶望的になると返って冷静になるらしい。そのドラゴンについてしっかりと観察する。
観察結果はネッシー系じゃなくて、翼があって空飛ぶ系の想像通りのドラゴンだ。ちなみに色は赤だ。強そう。
鱗はゴツゴツしてて硬そう。たぶん陸も走れるから逃げても無駄。
そして、ドラゴンは俺を獲物として見ている。
結論、こいつには勝てない。
そして、ドラゴンが大きな口を開け俺を捕食しようとする。
こんなピンチの時、物語の主人公みたいに諦めず勝つ方法を模索し、諦めない心をみせたら奇跡が起きるみたいことを願った。
…が、しかし圧倒的で理不尽な力の前には万に一つも活路は無いのだという絶望を理解させられた。
走馬灯ってやつなのか、めちゃくちゃ色んなこと考えてしまった。おまけに世界がスローになり色も褪せていく。
そしてどんどん目の前が真っ白になっていった。
『お主は面白いのう』
「…………ほぇ?」
死を覚悟した直後に見知った声、しかも気の抜けた声が聞こえてきた。
あまりの驚きで今まで出したことのない気持ち悪い声が出る。
「アロハのおっざぁん」
そこには、相変わらず上裸でアロハなズボンを履いて三叉の槍を持ったアロハのおっさんが立っていた。
相変わらずの変態な格好に安堵し、赤ちゃん以来の大号泣をした。
数分間も大号泣をした。
その間、アロハのおっさんは何も言わず優しく背中を撫でてくれていた。
ここだけの話、惚れそうになった。
これが包容力かと学んだ。
『本来、お主をここに呼ぶのは微妙なラインなのじゃ』
アロハのおっさん曰く、神様は地上の世界への干渉はあまりしてはいけないらしい。
その理由はイマイチわからなかったが人間の成長を妨げるとからしい。
干渉しすぎると神様にもペナルティーが発生する。なので今回は手短に済ませ、少しでも早く地上に返すということだった。
『よいか、本来は自分で気づき、学び、使いこなす力なのじゃが特例にお主の力について教えよう』
アロハのおっさんによると、俺の体にはアロハのおっさんの力が流れているらしく、主に水を操ることができるらしい。
この力を無意識に使ったのがオークから逃げる際に泳ぎがめっちゃ速かったこと、水に浸かったことで体力が回復したことが挙げられる。
『まぁ、能力を知った所で、あのドラゴンの子供には勝てんじゃろうな』
「え⁉︎あれ子供なの?大人じゃなくて?」
『そりゃ、そうじゃろ、たかが全長15mのドラゴンなぞ産まれたてホヤホヤじゃ』
頭がデカすぎて全身が見えていなかったがあのドラゴンは15mもあるらしい。大きいだろ。
『話がそれたが、お主に力を与えよう。どうせこのままいったら死ぬ運命じゃ、一か八かに賭けてみよう』
などと、物騒なことをいいだし俺に金のゴブレットを渡す。大きさは県大会優秀ぐらいのトロフィーだ。コップより大きいかなって所。
『ここにわしの血を入れてお主が飲むのじゃ』
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