第八話

「もしもし、正吾?」

『おお、なんだよ急に。麺伸びるから話は短めにしてくれ』

「そっちでもラーメンかよ」

 高校総体予選前日の夜。スマホ越しの彼はまるで変わっていないようだった。都会は美味いラーメン屋が多いぜ、と嬉しそうな声が聞こえる。

『で、なんだよ』

「うん。明日から予選だからさ。言っとこうと思って」

 やるだけのことはやった。あとは力を尽くすだけ。

 ――だから。

 あの日言えなかった言葉を、決意を込めて告げる。

「総体で会おう」

『……その前に予選だろ、ばーか』

 乱暴な言葉の裏に楽しさが滲む。気付けば僕の口角も上がっていた。

『そんなこと言うために電話したのかよ』

「そうだよ。宣戦布告だ」

『まあいいけどさ。宣戦布告は受け取った』

「あと、最後にひとつ」

 僕は小さく咳払いをする。

「成田選手、速く走る秘訣はなんですか?」

『だからそんなのあったら苦労しねえだろ。てか宣戦布告したやつに訊くなよ』

「勝つためには手段を選ばない」

『なんなんだこいつ』

 呆れたような笑い声と『本気だな』と呟く声が聞こえた。

『そういえば、前に足跡の話したっけ?』

「ああ、したね」

『あれたぶん、最後まで伝えてない気がするんだよな』

「え、続きあるの?」

 そこで声が途切れた。僕はスマホをぎゅっと握り締める。見なくても分かった。

 彼は今きっと、ニヤリと笑っている。

『じゃあ教えてやるよ。強者の常識じゃない、王者の常識ってのをな』

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