第三話
陸上部は自分の本気を底上げしてくれる。彼の言葉は本当かもしれない。
ただ、その代償はあまりにも大きかった。
「はっ…は、ぁ……げほっ」
短距離ダッシュ、テンポ走、バウンディング、坂道ダッシュ、筋トレ。
自分を苛め抜くためのトレーニングをただひたすら繰り返す。
「自分の限界を超えるには、自分を一度限界まで追い込んで、さらに一歩その先に行くしかない」
監督の理屈は分かる。理解はできる。
だが、そこに至るまでの苦痛がここまでとは想像できなかった。
全身の筋肉と骨にはもう力が入らない。肺は酸素が足りず痛み、まともに呼吸すらできていない。喉も乾ききり、血管は焼き切れそうだ。
もういっそ倒れてしまえればどれほど楽か。
「幸一、生きてるか」
酸欠と水分不足でほとんど聞こえない耳に、正吾の声がかろうじて届いた。
僕は答える。
「…………ぜぇ、ぜぇ」
「絶え絶えの返事ありがとう」
「こん、なに……きつい、のか」
「あの日、俺は言ったはずだぞ」
正吾は乱した呼吸を整えて、額から流れる汗を拭う。
「お前は絶対もっと速くなる。……この地獄のような練習を乗り越えればきっと!」
言ってねえよ!!
正吾への怒りを言葉にする体力が戻る前に、次のトレーニングが始まった。
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