第5話 カラーバリエーション
「ユウ!」
スーパーマーケットの駐車場で立ち話を始めた二人の少年に向かって、ユウの母が泣きながら走り寄る。
「ああ、ユウも無事だったのね。あなたに何かあったらお母さん泣いちゃうし、単身赴任中のお父さんに何て言えばいいの、怪我はないの? 本当に無茶をして!」
「大丈夫、なんともないよ。えっと、この人が助けてくれたんだ」
名も知らぬ派手なファッションの彼を慌てて紹介する。
「まあ、ありがとうございます、うちの子が本当にお世話になって」
「あわわ、えっと、当然の事なんで」
「こんなところで立ち話もあれよね。よかったらうちに来てぜひお茶を飲んで行ってくださいな」
「俺からも頼むよ、聞きたい事もあるし」
赤い髪の少年は鼻の下を再びこすりながら、ちょっと照れたような顔をしたが、「ああ」と軽い返事と共に頷いた。
そのやり取りを、ビルの屋上からひとつの影がお約束のごとく再び見下ろしていた。
そして更に、その男を見つめるよう、更に高い鉄塔の頂点に更に一人の男が立っていたりしたのである(二回目)。
* * *
ユウの部屋に彼が入った瞬間、立ち上がった赤い髪がぱさりと肩に降りた。
「あ、変身が解けた」
そう言う彼の姿は、髪型を除いて先ほどと一切変化が見られない。
怪訝な顔をしてしまったユウに、赤い髪の少年は右手を差し出して来た。ユウも反射的に手を差し出し、握手を交わす。
「オレの名前は
「俺は、多田ユウ。呼び捨ててくれてもいいよ」
ユウは勉強机の前の椅子に、
「ユウはマジカルヒーロー ブラックなんだ。他にブルーとイエローがいるよ」
二人の間に割り込むように、ポイラッテがふよふよと浮かびながら衝撃の事実を言った。契約の際、まるで妖バグを倒せる唯一無二の存在かのように言ってはいなかっただろうか。そう思った事が顔に出たのか、ポイラッテが若干ばつの悪そうな顔をした。
「ユウは世界でただ一人の存在っていうの好きそうだったから?」
「いや好きだけど! 他にも妖バグを倒せる人がいるなら、俺が別にいなくてもいいじゃないか」
「そう言いだすかなー? と思ったから、あえて言わなかったのだ!」
エヘ☆ と可愛くウインクしながら舌をペロっと出したポイラッテに、ユウは問答無用に手刀を叩き込んだ。
「仲がいいなー、うらやましっ」
「えっと、
「オレのはコレ。名前はアルフォンス」
「コレとか言うなクソ野郎」
見た目は色を赤くした雪の妖精シマエナガと言った感じで、きゅりっとした可愛い姿なのだが、ダンディでニヒルな影のあるベテラン暗殺者をやっていそうな落ち着いた男の声。語りはゆっくりとしていながらも滅茶苦茶に口汚い。
「ポンコツげっ歯類のせいで、この私が二年も無駄にクソ野郎のペット役をやる事になって大変迷惑をした」
可愛い小鳥のつぶらな瞳で睨まれたが、微塵も迫力がない。しかし声はドスが効いててちょっと怖い。
「だいたい地球人が貧弱なのだ。四人揃わなければ変身すら出来ぬとは。このような下等生物に地球を支配させておきたくないという結社の考えもわからなくはない」
「アルフォンス、いけない。それを口にしては」
ポイラッテが小鳥を諫める。
――おまえも同じように思ってるって言ってるのと変わらねえ!
と、脳内で思わず突っ込んでしまったユウだが疑問は色々とある。
考え込むユウの姿に、ユウを除く一人と二匹は顔を見合わせた。
「そうだよなあ。オレは二年間、毎晩何時間も妖バグの事や結社の事、マジカルヒーローの詳細や心得を叩きこまれ続けて高校受験も失敗したけど、ユウは今日初めて聞いたんだよな」
「こいつ、こんな事を言って受験失敗を責任転嫁しているが、学校にも碌に行かずにギターばっかり弾いていたのだ。私のせいではない!」
呆れたように怒りを滲ませて小鳥は呟く。
ポイラッテはコホンと咳払いをし、ふよふよと椅子に座るユウの膝の上に乗った。ずしりと重くて思わず顔をしかめたが、ふよふよした感触はくせになりそうな気持ちよさだ。
「マジカルヒーローは、レッド、ブラック、イエロー、ブルーという四人で構成される。大きな夢と希望を心に秘めている事が条件だが、それぞれの長所を伸ばし欠点を埋めるため、精神属性が異なっている。この四種類の精神属性が揃ってはじめて、ヒーローとしての変身能力を手に入れるのだ」
ポイラッテはスラスラと解説を始める。
「魔法少女系かと思ったら戦隊ものかよ......! あっピンクはいないの? 可愛い女の子の」
ユウ以外の一人と二匹の視線が、一気に集まる。口を開いたのは
「女の子をメンバーにしようだなんて、わかってないなユウ。せっかくのグループを音楽性の違いで解散させるつもりか?」
「えっ、音楽性の違いってバンド解散原因の恋愛トラブルなの!?」
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