第4話 レッドアラート
障害物は何の足止めにもならなかった。歩道橋をくぐり、ビルの隙間に入り込み、なるべくムカデの速度が緩まないかと期待したが、破壊される建造物が増えるだけで被害が増すだけだ。
半径一キロメートルを超えると避難していない人がいる可能性もあるから、その圏内から出るわけにもいかない。結果、ユウは必死にスーパーの周囲をぐるぐると回る事しか出来なくなっていた。
そして生身の少年である。体力は無尽蔵ではなく息は切れ、限界を迎えてしまう時が来てしまった。スーパーの駐車場に戻った時、ついにふらふらと膝をつく。
肩で必死に息をして、吐きそうになるのをこらえながら振り返ると、もうムカデはすぐそばに来ていた。
走り寄ってくる巨体と轟音に、諦めの気持ちが沸いて来る。
目を閉じ、ムカデの巨体にすりつぶされるか、太い足に轢かれるか。壮絶な最期を想像した。
「無理、まじ怖い」
覚悟を決めたかのようにムカデの進路に立ち尽くしていたユウだったが、その死に方は嫌だという思いから力を振り絞り、寸前で横に飛んだ。
勢いの良いムカデの風圧も手伝って、思いのほか大きく飛ぶ事が出来たのだ。そのまま段ボールの山に突っ込み、擦り傷一つ負わなかったのはユウの運が良いところ。
しかしこのまま逃げ続ける事は難しい。足はガクガクでもう走る事はできなさそうだ。
それでも何か回避する方法はないかと必死に頭を回転させるが、何も思いつかない。こういう主人公のピンチには助っ人が現れるのがヒーロー系の物語では常道であるけれど、生憎これは現実であって物語ではないのだ。
もう一度言おう、現実であって物語ではないのだ!
ポイラッテがいれば、もしかしたら何か助言をもらえたかもしれない。
今更ながら、彼を置いて来てしまった事を後悔する。
そんな風に考えながら息をひそめていたけれど、ムカデは容易にユウの所在に勘づいて、怒涛の勢いで引き返して来た。
――くそ、今度こそもうダメだ!
覚悟を決めて目を閉じて歯を食いしばった少年の耳をつんざくように、ムカデの走る轟音とは違う、甲高い得も言われぬ音が鳴り響いた。
ギュィイイイイイイイイイン
「な、なんだ今の音……」
恐る恐る段ボールの山から顔を出したユウの目に映ったのは、赤い髪を垂直に立ち上げた、ヒョウ柄のシャツにダメージジーンズ。黒のロングブーツに赤いギターを持つという、奇怪な出で立ちの男の後ろ姿。
そんな超派手な男の前でムカデが動きを止める。
まるで、音に体を縛られているかのように……!!
男はギターをまるで棍棒のように右手で持ち直すと、そのままムカデに向かって走っていく。
――まさか、ギターで殴るのか!?
そのまさか、だった。
ロックミュージシャンが、オーディエンスの興奮が最高潮になったときにうっかりやってしまいがちなアレだ!!
グワシャ
ギターは、ムカデの頭部を一撃で叩き潰す。
ユウが倒した時と同様、頭を潰されると息絶えるようで、しばし身もだえたのち動きを止める。
段ボールの山からそろりそろりと出て来たユウに気付いた派手な男は、振り返ると人好きする明るい笑顔を見せた。
「あ、あの、助けてくれてありがとう」
同年代に見える彼に、ユウはまず礼の言葉を述べると、まるで昭和のわんぱく少年のように派手な彼は鼻の下の右手の人差し指でこする。
「仲間のピンチに駆けつけないわけないだろう」
「えっ」
仲間!?
「あれ? 説明されてないのか。やっと君が見つかってメンバーがそろったおかげで、俺もこうやって妖バグと戦える時が来たのさ」
「マ、マジカルヒーロー?」
「マジカルヒーローズ、だな」
まさかの複数形だった。
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