第6話 戦え!僕らのマジカルヒーローズ


 ポイラッテがふよふよ飛んで膝から離れる。乗られると重いが、その重みと感触と温度が失われると何処か寂しい気がした。


「そういえば、さっきの妖バグは明らかに俺を狙っていたな」

「思いっきり追いかけてた。ユウの足が速くてそれにも驚いたけども。変身をしなくても相当に身体能力は高いんじゃないのか?」


 顎に手をやりながら、烈人れつとはあの光景を脳内で反芻しているようだった。それを聞いてポイラッテは顔をくしゃりと歪ませる。アルフォンスは小鳥なので表情は全くうかがえないが、深刻な表情を――しているような気がする? 首をかしげる小鳥、可愛い。


「妖バグ自体は知能的なものはないはず。破壊はそもそも栄養摂取と巣作りの一環だし。現状は本能で行動しているだけのはず。もしユウをあえて狙った行動をしたとしたら、結社が行動を指示しているとしか思えない。宇宙法千七百六十三条 契約なしでの現地生物への過度な干渉を禁ずる法律に違反している」

「契約をした、という可能性は……ないか……」

「消耗品のように扱っている様子だから、ないだろうな。奴らを叩く理由がまた一つ出来たな」


 目を閉じて台詞だけを聞いていると、知的でクールな美形と渋いニヒルなおじさまが会話しているように聞こえるが、目を開ければハムスターと赤いシマエナガが語り合っている。このギャップにはなかなか慣れない。


「あいつらが何を企んでいようと、とにかくぶちのめせばいいんだろ」


 ニカっと白い歯を見せて、親指を突き上げて烈人れつとは笑う。

 熱血漢の少年漫画の主人公のような性格をしているらしい。ポジティブな光を浴びたせいか、ユウの弱気な部分が顔を出す。


「でも今日だけで三匹だなんて、一日一回しか変身できない縛りがあるとどうしても指をくわえて見てるしかない場面が出て来るのではないか。なまじヒーローが現れたと皆に期待させておいて、何も出来ない状況が出来ると幻滅されるかもしれない」


 ユウの口から、マイナス思考の言葉がスラスラ出て来てしまう。

 ふうむ、と顎に手を持っていく考える素振りを見せる烈人れつとだったが、キリリと表情を改めると立ち上がり、椅子に座るユウの両肩に手を置いた。


「諦めんなよ! もっと熱くなれよ! おまえに足りないのはやる気や能力じゃない、熱さなんだよ!」


 ガクガクと激しく揺さぶられてユウは軽いめまいと共に、――ああ、こいつ熱血主人公タイプというより、テニスやってたあの人かもしれない――と思った。

 その熱い台詞と行動を、ポイラッテは目を細めて眩し気に見つめる。


「期待以上の熱さだ。さすがはアルフォンス、評議会実働部隊のエース。レッドになるべく必要な力を兼ね揃えているね彼は」

「フッ、地球に降り立った当日にはもう見つけていたからな。ポイラッテもポンコツながら、いい人材を見つけたものだ。二年かけたのはいただけないが」


 揺さぶられてふとユウはもう一つの疑問を思い出す。


「ブルーとイエローという人は何処にいるんだ」


 うやうやしくアルフォンスが両翼を広げ、詩のように朗々とそらんじる。


「レッドは勇気と勢いの熱血漢、ブラックは慎重で黒歴史を抱く者、ブルーは沈着冷静な天才、イエローは柔和で優しさと愛らしさを兼ね揃えた者だ」


 ユウはブラックの解説ににわかに頭を抱える。


「実際に妖バグと物理的に戦う力を持つのは、レッドとブラックだ。パワー系のレッドと、テクニカル系のブラックの前衛コンビはいかなる敵をも打ち倒すだろう。ブルーは軍師的な役割、イエローは回復と補助を担う。これからは一対一では戦えない妖バグも出て来るだろうから、チームで行動するというのが定石ではあるのだが」

「だが?」


 言いよどむポイラッテに、ユウは続きを促す。


「ブルーとペアになっているはずの評議会メンバーと連絡が取れない」

「裏切ったか、セルジオのやつ……」

「あいつは元々、今回の仕事に乗り気ではなかったからな。思想はどちらかというと結社寄りだったし。今回の選抜メンバーになったときに嫌な予感はしていたのだ」

「急に妖バグの動きが変わった事も、もしそうなら納得できるな」


 二匹だけにわかるような会話になったため、ユウと烈人れつとは困惑の表情でアニマルな評議会メンバーを見つめる。それに気付いたポイラッテが、腕を組んで二人に向き直る。


「ブルーの能力は、相手を操作する力だ。ユウがメンバーとして加わった事で今日からその能力が使えるはず。本能の行動しかできない妖バグが意思を持ったというなら、操る者が存在するのは間違いない。まずは手始めとして、変身を一度終えたユウを狙った可能性がある。この頭の良さもブルーっぽい」

「イエローは?」

「彼はメンバーの中で最年長の二十四歳、職業は料理人。すでに自分の店を持っていて、定休日の月曜と木曜にしか参加できないのだ! 宇宙法三百八十七条により、本業をおろそかにする外部労働を禁ずる、という法律があってだな、君達は本業をおろそかにせず、日常を普通に過ごしながら、マジカルヒーローであることを知られずに妖バグから地球を守らなければならない」

「本業をおろそかにすると、存在がバレやすくもなるからな」


 うんうんと頷きながらシマエナガが納得の仕草をする。


「つまり、ユウも烈人れつとも学校やバイトはサボれないからそのつもりで! サボると処罰対象だからねっ。僕らも巻き込まれるから、これは絶対」

「今日、学校をさぼっちゃったけど……」


 ユウが不安気に埃にまみれた制服を見る。

 あっ、という顔をポイラッテがする。慌ててアルフォンスの方を見る。


「宇宙法千七百六十五条 クーリングオフ期間内における宇宙法三百八十七条については、本人が善意かつ過失なき場合はこの限りでない」

「よし!」

「よし! じゃねえよ! ガバガバじゃねえかっ!」


 ツッコミと共に、ポイラッテのふこふこヘッドに手刀を叩き込んだ。


 ユウの前途は多難である。

 だが彼らの戦いは、今日始まったばかりである。


 戦え僕らのマジカルヒーロー! 地球の平和は彼らの双肩にかかっているのだ……!

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