#21 エピローグ

 十カ月後、ラフィーブ王国のガルフ・インターナショナル・ホテルで、キファーフとリリアナの結婚披露宴が盛大に行なわれた。結婚式は宗教的な縛りがあるため、王族とリリアナの親族だけで厳かにとりおこなわれたが、パーティはラフィーブと西欧の文化を折衷して、ホテルのバンケットルームでおこなわれ、男女が同じ部屋に集まった。

 国王、王妃、そして皇太子夫妻。王族の身分を離れてバクルと結婚したダナの姿もある。

 アメリカの職場からも、家族以外にリリアナの親しい友人が祝福にかけつけてくれた。

「西欧流にしてくれてよかったわ。もし男女別のパーティなんて言われたら、私はどっちに行けばいいのかわからなくなっちゃう」

 シルバーのタキシードの胸ポケットに赤いポケットチーフをのぞかせたマイケルが真剣な顔で言う。色鮮やかなドレスをまとったアラブ女性たちの間にいても、華やかさで見劣りしない男性は彼くらいだ。

「何言ってやがる。おまえはれっきとした男だろ。男のほうに決まってるじゃないか」

 ステイシーが笑いながら言った。

「男ばっかりのパーティなんて……それはそれで楽しいかもしれないけど、リリアナのウェディングドレス姿を見られないなんてつまらないわ」

「ああ。そりゃまったくだ」

「本当にきれいだわ。花婿もすてきだし」

 花婿はラフィーブ伝統の白い外套風の上着、そして腰には王族の身分を示す緋色のサッシュを締めている。

 そしてリリアナはやはりラフィーブの伝統的な花嫁衣裳、ロイヤルブルーのドレスだ。ベールは金色の糸でふちどりがされ、身頃には小さな真珠が何百と縫い付けられている。十カ月間、切らずに伸ばした金色の髪はこれまでになく美しく輝いていた。

 リリアナはこの衣装を着てキファーフと並んでいることが夢のようだった。一度帰国してからの十カ月はまたたくまに過ぎていった。

ときどきラフィーブから使いの者が来て、花嫁となる彼女の家族のために、ラフィーブ特産の宝石や生地やあらゆる装飾品が届けられた。それらは裕福なスターTVオーナーの両親でも、目をみはるほどの豪華さだった。そしてそれもスターTVのラフィーブ特集番組で披露され、アメリカ中の女性たちの羨望を誘った。

 キファーフはあらためて内務大臣に任命され、正式に砂漠の民と中央政府をつなぐ重大な役割を担うことになった。その彼と運命をともにすることに、リリアナに迷いはない。

 私は砂漠の王子と生きる。彼を愛しているのだから。

「キファーフ、こんなにたくさんの人に祝福されて、私は幸せだわ」

 リリアナは小声でキファーフにささやく。彼は穏やかな目をリリアナに向けた。初めて会ったときのような冷たい光はもうない。

「ああ。でも私は早くこのパーティから抜け出したい」

「……なぜ?」

 リリアナがいぶかしげに尋ねる。

「きみと早く二人だけになりたいんだ、リリー。きみを抱きしめるのが待ち遠しくてたまらない」

 キファーフの低く甘い声でささやかれ、リリアナの顔はぱっとばら色にそまった。


― 完 ―

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【漫画原作】砂漠のシークとばらの伝説 ― The Sheik and the Legend of Desert Rose ― スイートミモザブックス @Sweetmimosabooks_1

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