#04 砂漠へ行きたい!
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皇太子へのインタビューを無事に終えてほっとするリリアナ。砂漠に行けると聞いて喜びに心を躍らせるが、キファーフには都会育ちの女を連れていくわけにはいかないと断られる。しかし兄の皇太子がとりなしてくれた。
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「はい、OK!」
ステイシーがふだんどおり英語で叫ぶと、スタジオにみなぎっていた緊張が急に解けて空気がやわらかくなった。リリアナも大きく息をつく。すると体中から力が抜けた。気づかないうちに力んでいたらしい。
「リリアナ、お疲れさん」
「ああ、ステイシー。どうだった? 問題はなかったかしら」
ステイシーは笑顔を浮かべて、親指を突き出して見せた。
「よかったよ。観光スポットの話ばかりじゃなくて、経済や産業、政策の堅い話を多くしたのもよかった。こういう指導者がいる国なら安心だ、行ってみたいという気持ちになるんじゃないかな」
「本当?」
「ああ。リリアアナはインタビュー慣れしていないからちょっと心配していたんだが、シャーキル殿下は人前でどう話せばいいのかよくわかっている」
ステイシーの言葉にリリアナは心の中で苦笑いした。これほどのロングインタビューは初めてだ。行き届かないところがあるのはしかたない。
そんな未熟な自分のインタビューでも、シャーキル殿下はうまく受け答えしてくれた。その物腰は完璧だった。ラフィーブ国がどのような国なのか、その歴史や制度をわかりやすく語る。純白のカンドゥーラ姿のシャーキルはまさに王の風格を漂わせ、この国の将来の元首にふさわしいと誰もが思ったはずだ。きのうはアレックスがいたせいか、気さくで親しみやすいムードだったが、カメラの前ではまったく違った。
「いやあ、あれが生まれ持った品格というのかね。カメラを通しても伝わってくる威厳がある」
インタビューが終わってすぐ、カメラマンのステイシーが興奮して言ったくらいだ。
ふとセットの横を見ると、キファーフ殿下が立っていた。皇太子であるシャーキルという太陽を常に見守る月のようだとリリアナは思う。彼はいつも鋭く冷たい目で周囲を警戒している。自分と周囲の間に壁をつくり、何者も寄せ付けない雰囲気を漂わせていた。
同じ服を着ていても、どこか都会的な皇太子と違い、キファーフは荒涼とした砂漠を思わせる。夜の砂漠で月明かりに照らされた彼は、どんなに美しいだろう。
リリアナは自分の想像にはっとする。
私はいったい何を考えているの? 彼は私が観光気分で来ているお嬢さんだと思っている。それに、いきなり女性の腕をつかんで引っ張るような人じゃないの。洗練された紳士のシャーキル殿下とは大違いよ。
そう思っても、孤高という言葉が似合う彼のたたずまいを見ていると、なぜか胸がうずくような感覚がわいてくる。
「リリアナ!」
急に名前を呼ばれてびくりとする。まるで想像をのぞかれたような気分だ。驚いて振り返ると、アレックスにシャーキル、そしてもう一人、見たことのない女性が立っていた。
「リリアナ、よかったよ。見ごたえのあるインタビューだった」
アレックスも興奮気味に言う。兄にほめられて、リリアナも明るい気分になった。横に立っていたシャーキルもこう言ってくれた。
「私もやりやすかった。インタビューの企画の検討、それに対する回答は広報担当者を通しておこなっていたが、あなたの熱意を感じるとその担当者も言っていた。これならスターTVを信用して大丈夫だろうと」
「そんな風に言っていただけるなんて……。光栄です」
「中東の国というと紛争が多いというイメージがあって、質問が政治的なことに集中したり、逆に王族がどれだけぜいたくな暮らしをしているかといった興味本位な取材が多い。しかし今回のインタビューでは、私が伝えたいと思っていたことを話すことができた」
「殿下……ありがとうございます」
目に涙があふれそうになっているリリアナから、キファーフは目が離せなかった。青い瞳が濡れて、まるでオアシスのようだ。本当に真剣にこのインタビューにのぞみ、それが無事に終わって、緊張が少し緩んだのだろう。
「キファーフ、おまえもいいインタビューだったと思うだろう?」
兄に話しかけられて、キファーフははっと我に返る。
「あ……ああ。思っていたほど軽薄なものにはなっていなかった」
若い女性でインタビュー経験も少ないという話だったので、当たり障りのない形式的なものになるだろうと見くびっていたのだが、それをよいほうに裏切るインタビューだったと思う。しかしふだんあまり女性をほめたことがないので、皮肉っぽい言い方になってしまった。
「ミス・マッキンリー、キファーフが人をほめることはめったにない。いまのは賛辞と受け取ってほしい」
弟の不愛想を補うようにシャーキルが言った。そしてキファーフに声をかける。
「キファーフ、おまえは明日から砂漠の民の視察だろう? アレックスたちにも同行してもらおう。砂漠はぜひとも見てもらいたい場所だ」
アレックスがその言葉に飛びつくように言う。
「シャーキル! それはすばらしい。こちらからもぜひお願いしたい」
リリアナもキファーフに向かって勢いこんで言った。
「ぜひお願いします。ここに来る前から、砂漠に行くのを夢みていました!」
砂漠? 彼女がこの細い体で?
「女には無理だ」
キファーフの口から思わず言葉がこぼれ出た。
「え?」
きらきらと光っていたリリアナの目に戸惑いが浮かんだ。
「砂漠は暑さと渇きに慣れていない人間が、簡単に行けるところではない。それに泊まるのはテントだ。都会育ちの者には耐えられないだろう」
リリアナは悔しそうに唇をかみながら少しの間考えこんでいたが、思い切ったように顔を上げて言った。
「きのういただいたアバヤがあります。あれは砂漠を移動するときに適した服なのでしょう? それに私は子供のころガールスカウトにいたので、山や海でのキャンプには慣れています。もちろんテントにも」
キファーフが言葉を返そうとしたとき、すかさずシャーキルが口を挟んだ。
「キファーフ、途中の町までは車で行ける。そこからは、らくだか馬で一時間だ。午前中なら無理ということはないだろう」
「しかし……」
「キファーフ、これは外務大臣としての私の希望だ。頼む」
しかし兄がこんな言い方をするのは珍しい。地位を利用して人を命令に従わせるようなことは、あまりしないのだが……。外務大臣として、と言われては断るわけにはいかない。
「わかった」
キファーフは渋々といった調子で答えた。
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