雷撃鉄騎サンダー・スタンダーダー
水原麻以
雷撃鉄騎サンダー・スタンダーダー
君は夢があるか。大きな野望はあるか。未来はあるか。護りたい人はいるか。それとも今はどん底にいようとも夜明けを信じているか。
この書を取ってくれた君はもちろんイエスだろう。
よろしい。君は勇者だ。
そしてようこそ、戦乱に明け暮れるネスト世界へ。ここは閉ざされた日常、希望のない明日。そして情け容赦ない修羅場だ。
俺は雷撃鉄騎「サンダー・スタンダーダー」のキャプテン。ハリスだ。
乗ってくれ。君をクルーに任命する。射手のシートはそこだ。照準スコープはこれだ。
オリエンテーション、そんなものはない。見て殺せ。学びながら撃て。生き残る術は敵の死にざまか、あるいは仲間の散華を見習うしかない。出発だ。ヘルメットとシートベルトを着けろ。
少々荒っぽいが、平常運転だ。しっかり捕まってろよ。──行くぞ!」
加速感は一瞬。視界は瞬時に光に包まれる。眩い白の中、耳元の声を聞き取る。
『アンサングの起動を確認しました。これより本任務の目標ポイントへ向かいます』
「ありがとう、ナビちゃん」
私は答える。「それは、ネストを破壊する装置です」
はあ、とその女性は気のない返事をする。私は言葉を重ねる。「それを起動するためには、ある場所に行く必要があるんです」「へえ、どこですか?」
彼女は私に興味を失ったかのように背を向けると立ち去って行く。それを追いかけるようにして、キャプテン・ハリスが言った。「それが問題なんだ。その場所というのがだな──」
『アンサングの作動を確認。目的地へ向かいます』
機械の声がそう言うと、視界いっぱいに光が満ちていく──
枝葉世界の中でも最初期からゲートが存在し、メビウス構造体と数千年に渡って生存闘争をしている世界。21個の世界がこれに属する。整理番号ではa-??と言う形で示される。
テスター世界同士は「原初21州同盟」を結んで、ネストの破壊を行い続けている。そしてサンダー・スタンダーダーはメビウス構造体を破壊できる強化装甲と呼ばれる武装を有した人類同盟最初の陸戦兵器だ。新松島・飛田重工MBVG21SS次期主力強化装甲戦闘指揮車両メルクリウス。その少量先行試作先頭車両ロットナンバー13がサンダー・スタンダーダーと仮称されている。
サンダー・スタンダーダー。雷撃を標準とする者。すなわち、とどろくような砲撃で戦場を主導せよと願って命名された。
キャプテン・ハリスはご機嫌なハンドルさばきで機体の来歴を解説した。私には分かっていた。そんな御託なんてどうでもいい。本当は怖いのだ。彼もクルーも、そして私も。
ロットナンバー13の4号「ナバロン」がこの機体の正式名だ。友軍との通信には13の4号あるいはナバロンと自称している。
「先遣隊本部へ、こちらナバロン。合流地点に向かう。予定外の砂嵐が発生したようだ。到着は5分ばかり遅れる」
ハリスは話のネタが尽きたのか友軍と交信を始めた。
『こちら先行偵察部隊本部。了解した』友軍からはすぐに応答があった。おそらく先行偵察部隊の司令官だろう。声質から若い男だろうと推測する。そのあとも何個かやり取りをしたのちに無線が切られた。
ナバロンは砂漠を進む。機体が動くたびに砂煙が上がりコクピット内の空調システムが作動するが、すぐに空気は淀んでいく。
私はヘルメットの中で顔を歪めた。ナバロンを包むように砂塵が巻き上げられ視界が悪くなっているのだ。その中をナバロンは進んでいく。すでに先行偵察部隊が敵勢力と接触しているかもしれないのに。
だが、それはこの砂嵐の中であれば、のことだ。もしも彼らが敵に捕捉されていたとしても、今の私たちの戦力なら、まだ挽回のチャンスはあるはずだ……。
そんなことを考えながら操縦を続けていたときだった。突然通信が入ったのは 私は外部スピーカーのスイッチを入れ返事をする。すると -45.1v世界が行ったセイヴァー・シー作戦によって、神聖同盟が支配している枝葉世界のゲートが存在する領域のセイヴァー濃度が低下。そのため、その地域だけまるで海があるかのようになっている。
その領域をセイヴァー海と呼び、その境界は滝のようになっていることから大瀑布と呼ばれる。----
という声が流れてきた。
そう、この座標には神聖同盟と同盟を組んでいないb-45.1v世界が作り上げたメビウス構造の残骸が存在するはずなのだ。つまりこの放送を行っているのはこのb-45.1v世界ということになる 私たちは慌ててマップを確認してみたが、該当地域には確かに反応があった……いや、それだけではなく、その周囲にいくつもの赤いマーカーが出現していた どう考えてもこの反応は不味すぎるだろう!私はその座標へ向かおうとした瞬間だった。
突如として私の乗っている機龍の身体が激しく揺れ動く!何事だ!? 《マスター!!大変です!!!メビウス構造がこちらに迫っています!!》…………なんてことだ、よりによってこんなときにメビウス構造物が現れるだと。
まずは、私たちが生き延びることが最優先か。
だが、一体どうやってこの危機的状況を乗り越えるか、何かいい手立てはないだろうか 。
そう思案している間にもそのメビウス構造体がどんどんと近付いてくる そうして気が付いた。あの巨大さであれば、もしかすると撃破が可能なのではないのか。そうだ、試しにやって見よう。
《相棒!聞こえるか、俺だ!相棒の身体と機龍を合体させ、巨大な一撃を撃ち込むのだ!!そうするほかない!!》 確かにそれが一番の策かもしれない、私は機体の操作権の主導権を渡そうとするが…….その瞬間 機竜は、突如現れた白い球体状のものに飲み込まれてしまった。
なっ!?まさかあれがメビウス構造体なのか、そんなことを考えている間にもその白くて丸い物体は私を飲み込んだままどこかへ移動し始める まずいこのままでは、どうすれば良いか、思考加速を使い必死に考える その時、一つの言葉を思い出す。
長い物には巻かれよ。
おかしな文章だ。主語を欠いている。いったい、巻かれてるべき主体は何なのだ。誰に対して発せられた命令なのか、教訓なのか。わからない。見聞きした覚えはないが、ふとした拍子に目にとまったフレーズを記憶していたのかもしれない。
ともかく、そうしようと判断した矢先、キャプテン・ハリスに殴られた。「馬鹿野郎。敵の策に嵌る立つがあるか。死ぬぞ!お前もみんなも」キャプテンが怒ると本当に怖いのだ。彼は腕組みして言った。
だが俺はこう言い返さずにはいられなかった。この世の中には俺より賢明で冷静な人間がいるだろうか。少なくとも俺は違うと思う。するとキャプテンはさらに激高した。「俺は最初になんと教えた?」「見て殺せ。学びながら撃て。生き残る術は敵の死にざまか、あるいは仲間の散華を見習うしかない」「それで何か閃いたか。閃きがないな、そのザマじゃ。だったら俺にハンドルを貸せ」
ハリスは強引に操縦を奪った。俺にはどうすることもできなかった。そして彼はこういった。
「敵は俺たちを鹵獲する気満々だ。殺しはしないだろう。貴重な試作兵器だもんな。そこで俺たちは特別大サービスと行く」
鮮やか手つきで火器管制コンソールを叩くと兵装ディスプレイが満艦飾になった。ミサイル、爆弾、砲弾、デコイ、チャフ、フレア、なんでもあり、動く火薬庫だ。キャプテンはウェポンラックを全開するようコマンドを入力した。
ゴウンゴウンと機体が揺れる。そして、小気味よい衝撃が断続した。素人でもわかる。サンダー・スタンダーダーは今、ありったけの武器を斉射しているのだ。そして、それは正解だった。なぜなら彼らは自分たちの武器について理解しているからだ。
爆煙に包まれた二機の敵影は回避行動を取ろうにも、圧倒的な火力差があるためできなかった。キャノピーを透過して敵の悲痛がコックピット内に響いた。だが、それもすぐに途切れた。そして、それっきり彼らの声は二度と聞こえなかった。
やがて煙が晴れてそこに見えたのは粉々になって飛び散っている残骸だけだった。その光景を見ていた者たちは誰もが息を飲む。自分たちと同じ人間がやったとは思えないほどの一方的な戦い方に恐怖していた。そして、彼らもいつああなってもおかしくないということも……。
雷撃鉄騎サンダー・スタンダーダー 水原麻以 @maimizuhara
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