緩やかな考察 Part.2 ~ミステリークイズ~

とある一軒家で殺人事件が発生。

被害者はこの家に住む60代の男性でした。

近所の人が、この男性と自宅で会う約束をしていたのですが、姿を見せず連絡もつかなかったため、心配になり警察に通報して発覚しました。

被害者には刃物で切られたような痕跡があり、財布などの現金も無くなっていたことから、警察は強盗殺人事件として捜査を開始。


遺体発見当時の状況ですが、家の玄関にも窓にも全て内側から鍵が掛けられていた密室だったようです。

玄関のディスクシリンダー錠の鍵穴にも、こじ開けたり、無理矢理閉めたような痕跡はありませんでした。

人が出入り出来そうな窓にも、そのような痕跡はありませんでした。

家の鍵は被害者が倒れていた寝室のベッド脇にあったそうです。

唯一合鍵を持っていた被害者の息子には、完璧なアリバイがあり、犯行は不可能でした。


警察が捜査を進める内に、被害者が発見される約40分前に宅配業者がこの事件現場の家を訪問していたことも分かりました。

宅配業者の証言によると、被害者はこの時まだ生きていて、荷物を受け取ったとのことです。不審な人物も目撃しなかったと証言しています。


この40分の間に何が起こったのか?

この事件の犯人の正体は一体?

そして犯人が密室を作り上げた方法とは?

頭を柔らかくしてお考えください。


─────────────────


大川猶哉おおかわなおやは、仕事の休憩時間にネットで見つけたミステリークイズに没頭していた。

一人でぶつぶつ言いながらあれこれ考えていたが、何も思い浮かばなかった。

「これだけの情報だと推理なんか出来っこないな」

大川が呟くと、同僚の清水結実しみずゆうみがパソコンの画面を覗き込んできました。

「何を見てるの?」

「いや、このミステリークイズを解こうと思ってな」

「私にも見せて!」

ミステリー好きな清水は、目を輝かせて問題を読んでいます。

読み終わると清水は、大川に聞いてきました。

「ねえ、あなたは誰が犯人で、どうやって密室を作ったと思う?」

「さっぱり分からないよ。この問題文だと情報が少なすぎやしないか?」

「確かにね。だけどなんとなくの推理なら出来そうよ」

「本当?」

「まず密室にした方法だけど、私は合鍵を使ったんじゃないかと思うの」

「そうなると息子が犯人ってことか?でも息子には完璧なアリバイがあるって書かれているじゃないか」

「いいえ。私は犯人が合鍵を使って密室にしたと言ってるだけよ」

「でも合鍵を持ってるのは息子だけだろ?」

「違うわ。犯人は合鍵を作ったのよ」

「えっ?」

「密室を解くヒントはディスクシリンダー錠よ。ディスクシリンダー錠って、鍵屋さんとかに持っていけば、たった数分で合鍵が作れるの。だから犯行可能時間が約40分あったとしたら、一度マスターキーを持ち出して、合鍵を作ってくることも可能なのよ」

「なるほど。そんな簡単な話だったのか。それは盲点だった」

「推理ドラマとか小説だと、難解な密室を解き明かしてるけど、実際にはこんな簡単な方法でも密室が作れたりするわ」

「じゃあ、この事件の犯人は?」

「こればっかりはあなたが言うように情報が少ないわね。だけど、登場人物の中に犯人がいると仮定するなら、問題文を読む限り、可能性の高い犯人は一人しか思い浮かばないわ」

「それは誰だい?」

「唯一、合鍵を持っていた息子にはアリバイがある。第一発見者である近所の人も、自ら警察へ通報してるし、密室を作り上げる意味はなさそうね」

「じゃあ、まさか犯人は?!」

「ええ。宅配業者よ。犯人である宅配業者は、被害者宅に荷物を届けたと証言した時に殺人を犯し、マスターキーを持ち出して合鍵を作りに行った。そしてまたこっそり被害者宅に戻り、マスターキーを寝室に置いて、合鍵を使って施錠し、密室にして立ち去ったと私は考えるわ」

「なるほど。確かに君の推理が正しそうだ」

「ねえ、このクイズに正解した人の中から抽選で、ギフト券貰えるみたいよ。もし当たったら食事でも奢ってよね」

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緩やかな考察 岸亜里沙 @kishiarisa

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