第7話 朝の教室で囁く
「青山、昨日のことなんだけど?」
「ん?」
朝、教室で席についている彼女が一人になったときを見計らって俺は青山恋陽に話しかけた。
「あのさ……ちょっと確認したいことがあって」
『本当に結婚しているの?』なんて聞けるわけがない。だけれど、なんていっていいか分からずにいると。
青山はそんな俺を無視して、
「あっ、四谷君。肩にゴミがついてるよ。とってあげる♡」
そういって、立ち上がった青山恋陽はちょっとだけ背伸びをするようにして俺の肩に手をかけた。
ゴミなんてついているのだろうか。昨夜も妹の有紗が「ついでだからね!」と言いながら自分の制服と一緒にブラッシングをして衣類用のミスとを吹きかけてくれていたのでそんなことはないと思うのだが……。
「
俺が不思議に思っていると、青山は俺の肩に手を置きながらそっと俺にだけ聞こえるように囁いた。
吐息が耳にかかりゾクゾクとした。
彼女の声が甘く直接、脳に入り込んで来るみたいな感じ。
青山は囁くだけ囁いたら、ぱっと俺の肩から手を離して、「じゃあね」というように小さく手を振った。
***
昼休み、俺は図書室に向かった。
本当は購買に昼食のパンを買いに行きたかったけれど、青山恋陽と約束した以上、そちらを優先すべてきだと思った。
昼休みの購買は戦争状態だから、青山と図書室で会った後じゃ何も残ってないし、購買に行ってからでは青山を待たせることになってしまう。
まあ、空腹では死なない。
男は黙って高楊枝ってやつだ。いや、男は黙ってサッポロビールだっけ?
なぜだか、頭の中では下級武士のおっさんが嬉しそうにビールをあおる姿が浮かんだ。
たぶん、なにか間違っている……。
そんなことよりも、男ならば誰かとの約束を守る方が大事だろう。
俺は購買のチョコレートメロンパンと唐揚げの争奪戦を尻目に、青山恋陽と約束した図書室に向かった。
司書の先生がみていないことを確認して、俺はそっと窓から外に抜け出す。
昨日よりも地面はすこしだけ桜の花びらの絨毯が濃く、そして桜はすこしだけ儚げになっていた。
青山恋陽はまだ来ていなかった。
こんなことなら、購買によってから来てもよかったかもしれない。
確かにお昼休みとしか言われてないけれど。
だけれど、普通に考えてお昼休みでとくに時間のしていをされなければ昼休みがはじまると同時にその場所に向かうだろう。
空腹のせいなのか、俺の心は狭い。
俺は苛立ちをおさえるように静かに目を閉じる。
ああ、それにしてもお腹すいた。
「ごめんっ、ちょっと自販機混んでて」
青山恋陽の声が頭上にふってくる。
だけれど、腹を立てた俺はすぐに目をあけない。
「ハァ、ごめんね、四谷君。私から誘ったのに……フゥ……」
少しだけ息があがっている。
走ってきたのだろうか。
本当は意地悪で寝たふりを続けようと思ったが可哀想になる。
目を開けようとした瞬間――
「あっ」
青山恋陽の小さな悲鳴が聞こえた。
目を開けたときに飛び込んできたのは、黒い生地が白のレースでささやかに彩られた青山のパンツだった。
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