22話 レイルの秘密

22-1 絶対戻ってくるから

 「魔素や魔力を見るというのは、どういうものなのですか?」


 晩飯の時にセシリアに訊かれたが、どうもうまい説明が思いつかない。


 「魔力は、こう、光が見えんだよ。

  目に力を入れるとな、魔力を帯びてるもんは光って見える。魔力の強さで光の強さが変わるんだ。もっとよく見ると、魔力の性質なんかもある程度わかる」


 「性質ですか?」


 「たとえば、風の魔力と火の魔力は、見え方が違う。ただ、どこがどんな風に違うかは、説明できねぇ。なんとなくわかるってだけでなぁ」


 「なんとなく、ですか。レイルさんも魔法を使えるんですよね。レイルさんも魔力が見えたりするのですか?」


 どういうわけか、セシリアが急に魔力に興味を持っちまったようだ。


 「僕は、魔力や魔素を感じることはできるけど、フォルスみたいに見えないよ。

  フォルスの目は、特別なんだ」


 「特別ですか…」


 「どうしたんだ、急に」


 「いえ、フォルスさん1人に負担が掛かるお話だと思いまして。

  ほかにも見える人がいれば、手分けすることもできるのに、と」


 「心配してくれんのは嬉しいが、魔力が見えるってのは俺の体質だからな。この力のお陰で格上の魔獣や魔法士と戦って勝ってきたんだ。

  俺と同じくらい魔素が見えたり操れたりする奴と戦ったら、まず負けるぞ」


 「そんな、だって、フォルスさんは…」


 「俺は魔法の威力自体は大したことない。

  俺にあるのは、どんな魔法も万遍なく使える器用さと、魔素を操って相手に魔法を使わせないって狡さだ。

  それを封じられたら、勝ち目はない。剣だってサンドラと互角がいいとこだ」


 「先日サンドラさんと手合わせした時は、軽くいなしていましたよね」


 そう見えるよう戦ってたからな。


 「こっちも6級だからな。軽くいなしてるように見せてただけで、実際にはいっぱいいっぱいだった。イリスとやったら、いなすのも無理だったさ」


 「そういうものなんですか?」


 「自分を強そうに見せんのも、腕のうちだからな。実際のとこ、俺の力なんざ大したもんじゃない」


 「レイルさん…?」


 セシリアがすがるような目でレイルを見る。自分の亭主が弱いって、信じたくないんだろうな。


 「フォルスの魔法の威力ってんなら、そのとおりだよ。

  フォルスのすごいとこはね、小さな魔法を連発する早さと、同時にいくつも魔法を使える器用さ、あとは魔素を使って色んな結界を張って自分に有利になるようできることなんだよ。

  殴り合いになれば勝てないような相手を一方的に殴れるんだ。

  僕はフォルス以外と組む気はない。

  だって、フォルスと組むのが一番生き残れそうだからね」


 レイルの奴、まるで俺がすごい奴みたいに言いやがって。

 卑怯なだけじゃねぇか。

 見ろ、セシリアがそれ聞いて、ホッとしたような目で見てやがるじゃねぇか。


 「まぁ、孫の顔見るまでは死なないつもりだから、心配すんな」


 「いつも言ってる台詞だけど、本当に子供が生まれるかもしれなくなったから、説得力あるね」


 レイルが混ぜっ返してきたが、セシリアは嬉しそうだ。

 まぁ、結婚したし、いずれ本当にガキが生まれんのかもしれねぇな。


 「ああ、そうそう。少なくとも、この件が片付くまでは子供作んないでよね」


 「は? なんだ、そりゃ」


 「セシリアが身重だと、守るのが面倒だからさ」


 「心配しなくても、当分ガキ作る気はねぇよ」


 「お、2人っきりを楽しむの? いやあ、フォルスの口からそんな言葉が聞ける日が来るとはねえ」


 「言ってねぇ!」


 レイルが混ぜっ返してくれたお陰で、重苦しい雰囲気は消えた。

 まぁ、どこにあるかもわからんような封印を1日中探すのは、やっぱ疲れるからなぁ。





 夜中に目を覚ますと、セシリアがいなかった。

 しばらくして戻ってきたセシリアは、俺が起きてるのに気付くと、


 「レイルさんに叱られました。あなたを信じられないのかって」


と言った。

 どうやら、晩飯の時のことらしいが。


 「こんな夜中に、レイルがどうしたって?」


 「部屋を出たら、廊下でばったり会ったんです。

  レイルさん、何か考え事をしていたようで。

  ごめんなさい、不安がっていないで、あなたを笑顔で送り出さなければいけないのに、私、あなたに何かあったらと思うと不安で…」


 涙を浮かべたセシリアを抱き寄せて、耳元で言ってやる。


 「冒険者なんて、いつ死んでもおかしくない商売だ。不安になるのもわかる。まして、今は、魔神なんてバケモノが相手だしな。

  でも、大丈夫だ。俺は絶対お前のところに戻ってくるから」


 そう言ってやると、セシリアは


 「約束ですよ。信じて待っていますから」


と抱きついてきた。

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