22-2 独占欲、結構強いと思うよ

 魔神の封印されてる場所を探すなら、五角形の魔法陣が影響する場所を当たればいい。

 ということで、街から近い内側の五角形に沿って調べてみることにした。

 例の5か所の魔素溜まりから出た魔力が作る、上下逆になった五角形だ。

 魔法陣が発した魔力で描かれるからには、魔法陣として何かの意味を持ってるはずだ。

 たとえば、この内側の五角形の角からどこかに魔力が通っているとか、あるかもしれない。

 うまくすれば、そこから魔神の封印場所を探せるかも。

 それを見ようと思ったら、できるのは俺だけだ。


 そんなわけで、俺達は今、北西側の角にいる。北の森から出た魔力が南西の森に行き、東の洞窟から西の洞窟に行く、2本の魔力の線が最初に交差する場所だ。

 交差した魔力の線がどうなるのかを調べようってわけだ。

 しばらく待っていると、目の前を北からの魔力が通っていった。もうしばらくすると、東からの魔力が。五角形の1つの頂点がボゥッと光ったが、それだけだ。どこかに魔力が飛んでいったりはしない。


 「なんにもないね」


 「次、行ってみっか」





 今度は、逆に、最後に交差する頂点、東から西、南東から北に走る魔力の線が交差する場所だ。

 だが、ここでも何も起こらなかった。


 「ったく、何の魔法陣なんだかなぁ。

  こうやって魔力が通ってるからにゃ、魔法陣なのは間違いないんだが…。突起が5つの魔法陣なんて、支部長だって見たことないっつってんじゃねぇか」


 「例の結界術ってやつ専用の魔法陣なのかもしれないね」


 「結界術ねぇ…。

  ありゃ便利だよな。相手は勝手に弱くなるし、自分達は強くなるし、俺達も欲しいくらいだ」


 「ちょっとフォルス、それ、本気で言ってんの?」


 レイルに呆れた顔で言われてしまった。


 「お前は欲しくないのか?」


 「バッカじゃないの⁉︎

  そりゃ、欲しいか欲しくないかって言えば、欲しいけどさ」


 なんだ、お前だって欲しいんじゃないか。


 「だろ? 前に魔法陣で吸った魔素で剣が強化できたらいいって話したけどよ、それができんだろ?」


 「ああ、そこか。なら、わからなくもないけど。

  あのさ、結界術でやってることって、僕らがここんとこ使ってる戦い方と同じだよ?

  君が相手の周りから魔素なくして、僕が強化で戦う。僕の周りに魔素集めたら、まんま同じじゃないか」


 なに!? あぁ、言われてみれば。

 「そうか、そりゃ強ぇよな。

  俺達が自分の力でなんとかしてるとこを、魔法陣使うと誰でもできんのか。

  そりゃひでぇ。そんなん食らったら、魔法士は死ぬしかねぇな」


 「僕らもいつやられるかわかんないし、魔石をもう少し多く持ってた方がよさそうだね」


 「最近、討伐の仕事してねぇからなぁ。

  タダで手に入るもんを買うのは、なんか悔しいよな」


 「ケチだね、まったく。そんなん、仕事に必要だからって、ギルドで用意させりゃいいじゃんか」


 「タカんのかよ。お前もケチじゃねぇか」


 「終わったら返すって言っとけばいいよ。

  この件終わったら、また普通に討伐とかするだろうし、それまでの間だよ」


 まぁ、言うだけ言ってみるか。






 「ところで、なぁ、レイル」


 「なにさ」


 「ルードって奴、なんで追い出されたと思う?

  そりゃ、魔法陣の書き方だけわかればいらねぇかもしれねぇけどよ、1人よか2人の方が、魔法陣書くにしても、置くにしても、早ぇだろう」


 「ルードって女だって言ってたよね」


 「ああ」


 「男作った、はなさそうだから、ジークがほかに女作ったんじゃないの?」


 「ジークとルードは恋仲だったってことか?」


 「知らないけど。

  たとえば、僕が女だったとして、フォルスがセシリアと結婚したじゃない?」


 レイルが女だったらって、またとんでもないたとえ話だな。

 ん~、その場合は…


 「セシリアは、俺が女と組んでることを許せるかってことか?」


 「そうそう。もし、セシリアが“女の人と組むのはやめて”って言ったら、どうする?」


 「どうするったって…。そもそも、お前、男だし、想像しづれぇなぁ。

  セシリアは、お前が同居するの、賛成したしなぁ…」


 「そりゃ、僕が男だからだろ。女だったら、同居させると思う?」


 「ん~?」


 「セシリアはさ、君に娼館に行かないって約束させたじゃない。独占欲は、結構強いと思うよ」


 そんなもんかねぇ?


 「たとえばさ、君がサンドラ連れて2~3日仕事に行くって言ったら、嫌がるんじゃない?」


 「ん~、そうかもなぁ」


 「そしたら、君、サンドラ連れてく?」


 「連れてかねぇんじゃねぇか」


 「そういう感じで、ルードは捨てられたんじゃないかな」


 「そりゃまた酷い話だな。

  ルードが魔法士なら、そんなことにゃならないだろうになぁ」


 「ルードって、ジークと離れた後、魔法陣とかどうしたんだろう?」


 「捨てちまったんじゃねぇか?

  1人で戦えるような技じゃねぇからなぁ」


 「ジークってひどい奴だよね。仕事の相棒と浮気相手の区別も付かないような女とは、別れるべきだよ」


 「まぁなぁ。イリスんとこも、結局はミュージィとサンドラが上手くいかなけりゃ解散しかねないもんなぁ」





 そうして、その日はくだらない話をしながら、何の収穫もなく街に帰った。

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