19話 ジールダへの帰還
19-1 怪しい洞窟
この狭い部屋に籠もるのも3日目だ。できれば今日で終わりにしたいところだが。
「早いとこ終わってくれんの、期待してるぞ」
隠れてる奴らに聞かせるように言ってやると、
「もちろん最善は尽くしますが、お約束はできませんよ」
と木で鼻を括ったような返事がきた。
この辺は、セシリアの地のような気がする。
とはいえ、公私混同を嫌うセシリアが、昨夜はベッドの中で仕事の話をしたのにちゃんと受けたんだから、だいぶ柔らかくはなってるんだろう。そんな話、レイルにゃ言えないが。
セシリアが見終わった書類を棚に戻しがてら、中を軽く眺める。
時間が掛けられないから、本当にざっと眺めるだけなんだが、どれも8級9級のソロにやらせるにゃ重いネタじゃねぇかって気がする。
そもそも、ソロの冒険者じゃ、できることは限られる。
平たく言うと、討伐系の仕事をソロにやらせんなって話だ。死にに行かせるようなもんじゃないか。
特にこの、9級の弓士がソロでやってるって、何の冗談だよ。
適当な剣士と組ませりゃ、8級くらいすぐに上がれんだろに、何考えてんだ。
ギルド預金なんかほとんどなくて、誰も得してないじゃないか。まるで、死んでほしいみたいだ。
いや、そもそも、死んでんのか、これ?
出掛けたまんま10日経っても帰ってこないから死亡扱いってだけで、死体見付かってないのが何人もいるじゃないか。
…もしかして、死んだことにするのが目的とか?
普通に考えりゃ、冒険者ってのはギルドにとっても必要な存在だ。
それなりに育成する意味も必要もあるはずなのに、どうして安易に死なせる? こんな無茶な依頼を受けさせるなんて、積極的に殺そうと思ってるか、少なくとも死んでも構わないって思ってるってことだ。
何かあるはずだ。
たとえば、素行に問題のある冒険者が無茶な依頼を受けても止めないって消極的な理由でもいい。それか、死んだことにして逃がすとか。
そう思って見てみると、問題を起こしたことのある奴が2~3人はいるようだ。
それくらいなら、理解できなくもないな。
うまく誘導して勝手に死んでもらうってのは、やり口の良し悪しはともかく、ギルドにとって利益がある。これ以上問題を起こさなくなるからな。
もしそうなら、上の方から受付の人間に指示が出てるはずだな。
それは、さすがにセシリアが直接調べるわけにもいかないだろうし、戻ってから報告すんのか。
そうやって、何人かの死亡の報告を見てたら、少し毛色の違うのを見付けた。
8級のソロ魔法士が、洞窟の調査に出掛けたっきり帰ってない。
ソロで8級になれる魔法士なら、それなりの腕のはずだ。
たかが調査で帰らないって、いったい何に
もう少し読んでみた。
こいつは、ジャグラという男で、2年くらい前からこの街で冒険者をしていたらしい。
気難しいところはあるものの、素行には問題がなく、ちょっとした採取だとか調査なんかの、荒事じゃない仕事を好んでいたようだ。
その流れで、洞窟で見付かったという石板を調べに行って戻らなかった、と。…洞窟で石板、ねぇ?
その後、別のパーティーが調査に行ったが、何もなかった、か。
なんだよ、これ、メチャメチャ怪しいじゃねぇか。
石板って、例の魔法陣じゃねぇのか?
問題は、その後調査に行った連中が何も見付けてないってことだ。石板なんてなかったってなってる。
考えられることは4つ。
1つ、石板を置いた奴らが、何らかの理由──例えばジャグラに見られた──とかで、運び去った。
2つ、石板は、魔素溜まりを作る魔法陣だったが、失敗してなくなった。
3つ、石板は魔素溜まりになってたが、後で行った連中は、魔素溜まりのことを報告しなかった。一見バカらしいが、魔素溜まりが洞窟にできんのはよくあることだから報告しなかったって考えれば筋は通る。
4つ、後から行った連中は、何もなかったと
ジャグラの行方不明は1年近く前だから、今もあるかはわからねぇが、この洞窟は帰りに寄ってみるか。セシリアに合図して、場所を控えさせておこう。
一応全部見終わったとのことで、支部長室に行くと、支部長から“全部確認した”という書類にサインするよう言われた。
本部への報告はジールダに戻ってからだが、監査を受け終わったこと自体はリアンの方からもするんだそうだ。まったく面倒なこった。
ギルドでの用は終わったが、時間も時間なんで、もう一泊してから出発だ。
また俺達の部屋にレイルを呼んで、今後のことを話し合う。もちろん音は遮断してある。
「帰りに、俺達の洞窟と、あの洞窟の2か所を回っていこう」
「“あの洞窟”ってなにさ?」
「1年くらい前、ソロの8級魔法士が石板の調査に行って帰らなかった。その後、調査に行ったパーティーは、“何もなかった”と報告してる。
本当に何もなかったのか、魔素溜まりしかなかったから何もないって報告したのか、都合が悪いからなかったことにされたのか、知りたくねぇか?」
「なるほど、それは知りたいね」
「ってわけで、行ってみよう。
俺達の周り以外でも、そういうのが見付かるかもしれねぇぞ。
ほかの事故は、なんか札付きを処分しただけって気がした」
俺の予想に、セシリアが反論した。
「そういう考え方もできるのかもしれませんが、それはギルドがやっていいことではありません!」
「気持ちはわかるがな、そう考えると納得できんだよな」
「それは…そうですが…」
「ほかに何か思いつくんならいいさ。
あくまで可能性でしかないからな」
「はい…」
ギルドが積極的に不正しているとは、セシリアは思いたくないんだろう。
気持ちはわかるが、現実にありそうかなさそうかと言えば、十分あり得る。
とにかく、まずは洞窟の確認だ。
監視が街を出たとこで終わるのか、ジールダに着くまでついてくるのか、楽しみだな。
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