19-2 追跡者
リアンの街を出て少し経った。
門を出る時に張った探索の結界には、かなり後方をついてくる3人の反応がある。
まっすぐジールダに帰るように見せかけるため、最初は街道を歩いてたが、途中で例の8級魔法士の洞窟に向かって街道を外れたのに、まだついてくる。
つまり、こいつらは旅人の類じゃなくて、俺達をつけてきてるってわけだ。
調べるのが目的か、刺客なのかはわからねぇが、少なくとも護衛のつもりってこたないだろう。
まぁ、手を出してこない限りはこっちも何もしないつもりだが、洞窟ん中とかで襲われると、セシリアを守りきれるかって問題がある。
セシリアの報告を止めたいと思ってんなら、俺達の隙を突いてセシリアを攫うか殺すかすれば足りるからな。
「後ろ、まだついてくる。3人だ」
「どうする? こっちから先制しても誰も文句は言わないと思うけど。
全滅させちゃえば、後腐れないよ」
レイルが物騒なことを言い出した。
「このままずっとついてこられるとヤバいからな、それもアリっちゃアリなんだが…」
「どうして何もされないうちから皆殺しって発想が出てくるんですか」
セシリアとしては、証拠もないのに先制攻撃って考えにはやっぱり賛成できないらしい。ま、ギルドの職員としちゃ、当然なのかもしれないな。
「セシリア、レイルの言ってることは確かに少々物騒だが、そのくらいのつもりでないとこっちが危ないのも確かなんだ。
俺達は、これから洞窟に入ろうとしてる。もし、入った後で入口塞がれて、しかも壁がとてつもなく厚かったりしたら、出られなくなるかもしれないんだ。
入る前に危険を排除することは、生き残るために必要なことだ」
「でも…」
「そうしろってわけじゃない。そういうことも考えた上で、一番有効な安全策を採ろうってことなんだ」
少し柔らかめに言った言葉に、セシリアは一応納得できたらしい。
多少の荒事は覚悟してても、襲われる前に襲うって考え方は、セシリアには受け入れにくいだろう。
実際のところ、どうするにしろ、セシリアが気に病まないように話を進めた方がいい。
こいつは生真面目だからなぁ。
レイルを見ると、ニヤニヤしながら俺を見てやがった。ちっ!
さてと、真面目な話、もうそろそろ目的の洞窟に着くし、どうするか決めないとな。
奴らの正体や目的も、訊けるようなら聞き出したいし、こっちから先に手ぇ出すわけにはいかねぇだろう。
「洞窟の入口に入るふりして脇に避ける。
洞窟には幻影を入らせて、俺達は姿隠しの結界に隠れてやり過ごして、奴らが中に入るようなら追い掛けるってとこでどうだ?
うまくすりゃ奴らの目的も訊けるだろうし、うっかり閉じ込められる心配もない」
穏便で有効そうな案を出す。
「まあ、そんなとこかな」
「はい、それなら」
予想どおり、2人とも乗ってきた。
「よし、そんじゃ幻影と入れ替わって入口脇に隠れるぞ。音なんか出さないよう、セシリアは俺にひっついとけ」
目の前すぐに俺達の幻影を作って歩かせ、俺達を姿隠しの結界で包む。
切り換える一瞬、俺達が2~3歩前に進んだように見えるだろうが、この距離だし、隠れながらついてくるあいつらからは、わからないだろう。ゆっくりとセシリアを引っ張りながら入口脇の壁の前に立つ。もちろんレイルは何も言わなくても、結界の中で動いてる。
幻影が洞窟に入ってしばらくすると、ついてきてた連中が姿を見せた。
少なくともギルドの建物で見たことはない奴らだ。
連中は、口も利かずに顔を見合わせて頷き合うと、剣を抜いて洞窟に入っていった。
幻影は、洞窟に入って少し進んだところで消してあるから、奴らはどこまでも探しながら進むだろう。
「事前に剣を抜いたってことは、襲う気ありってことだ。こっちも手加減しないぞ」
セシリアに聞こえる程度の小声で言うと、セシリアは黙って頷いた。
姿隠しの結界に重ねて遮音の結界も張り、ゆっくりと後をつける。
連中の姿が見える程度の距離を取って進む。
連中も見付からないようにしてるつもりなのか、ゆっくり進んでるな。
こうして後を追い掛けてると、魔法陣の洞窟でのことを思い出すな。
…連中が止まった。戸惑ってるみたいだから、そこが奥なのか? 何かがいるって感じじゃないな。
…いや、魔素がゆっくり吸われてる? 例の魔素溜まりか!
「セシリア、この壁際に姿隠しの結界だけ残すから、音を立てずおとなしくしてろよ」
そう言い聞かせて、レイルと2人で結界を出て連中のところに向かう。
遮音の結界を解いたのは、これから戦うのに集中するためだ。
「よぉ、何探してんだ?
よければ手伝うぜ」
3人組に声を掛けると、ぎょっとして振り向いた。あぁ、やっぱ魔素溜まりがあるな。
「てめえら、なんでそこにいる!?」
真ん中の奴が叫んだ。
「あんたらこそ、こんな洞窟で何やってんだ? お宝でもあんのか?」
「ここに何を調べに来た?」
こっちの質問には答えないで、左の奴が訊いてきた。そりゃ、調べられちゃ困るもんがあるって言ってるようなもんだろ。
「何かあるだろうとは思ってたが、大当たりだったかもしれないなぁ。
あんたら、街からずっとつけてきてたろ。誰に頼まれた?」
素直にぺらぺらしゃべってくれる奴だと嬉しいんだがなぁ。
「何を知ってる?」
左の奴が訊いてきた。そりゃ気になるだろうが、先に俺の質問に答えてくれないかね。
「なに、
ちょっと挑発してみると、右の奴が「なんで知ってんだよ、こいつ」とか呟いてんのが聞こえた。
こいつぁ、収穫だな。
「あんたら、ギルドの人だろ?
どんな依頼受けて来たんだい?」
カマを掛けてみたが、こいつらは答えてくれなかった。ちっ! うまくいかねぇな。
左の奴が合図して、3人が襲い掛かってきた。
右の奴がレイル、あとの2人が俺に。
もっとも、左の奴以外は段差に躓いて体勢を崩したんで、あっさり返り討ちにしたが。2人とも右肩から先がなくなってる。
「足下悪いから、気ぃ付けた方がいいぞ」
まぁ、段差作ったのは俺の魔法だが。
「魔法か、このチビ!」
段差をうまく飛び越えた左の奴に、強烈な風を面で叩き付けて、壁に打ち付けてやると、剣を落とした。
「もう一度訊こうか。誰に頼まれた?」
剣を突きつけて訊くと、左手の短剣で突いてきたので、手首の辺りを蹴り飛ばす。
「あのな、警戒してる相手にそんなん通じるわけないだろ?
誰に頼まれたか言いたくないなら、誰が
突きつけた剣を右肩に刺し込みながら言うと
「知るかよ!」
と叫んで蹴り上げてきたんで、剣から手を放して、蹴ってきた足を風の刃で斬り飛ばした。
「魔法士はチビの方じゃなかったのかよ!」
悪態つくんで、もう一度剣を掴んでぐりぐりやりながら
「それ、誰に聞いたのかな?」
とにこやかに言ってやった。
背後では、レイルが右手なくした2人に話聞いてるが、あまり会話になってないようだ。
さっきからの様子見てると、こいつが一番色々知ってそうなんだがなぁ。
「支部長か?」
もう一度カマを掛けてみると、一瞬目を見開いたが「知るかよ!」と黙ってしまった。
もうこれ以上は何も言ってくれそうもないな。血もかなり流れたし、助からないだろう。
麻痺の魔法を掛けて剣を抜き、懐を漁る。褒められた行為じゃないが、何か情報が欲しい。
懐から出てきたのは、少しばかりの金と投げナイフ2本だけだった。
ナイフには特に特徴もなかったので、放り捨てた。
レイルの方の2人は、もう事切れてたので、こっちも懐を探ってみたが、やはり僅かな金しか持ってなかった。
洞窟内をもう一度探索しても何もいないので、姿隠しの結界を解いてセシリアを連れてきて、魔素溜まりを確認した。やっぱ魔素を吸ってんな。
「こいつら、レイルを魔法士、俺を剣士と信じてた。
つうことは、やっぱギルドから情報流れてんな。
支部長って言ったら動揺してたし、そのセンもありか」
「どこまで本当かわからなかったもんね」
「どっちにしても、ここに魔素溜まりがあったってのは大きいな。
俺な、魔法士は偶然魔法陣とか見付けて
「どうしてですか?」
「行方不明の冒険者の中で魔法士は、ここに来た奴だけだからだ。何か都合の悪いもんでも見たせいじゃないかってな。
だから、ここを見ておきたかったんだ」
「少なくとも、魔素を吸う魔素溜まりがよその街にもある、ということだけは確実ですね。
その存在を隠そうとしている人がいることも」
「とにかく、ついてきてた奴らはいなくなった。
俺達の洞窟を見に行けるな」
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