18-4 1年半前の記録
翌日、今度はまっすぐ与えられた部屋に行き、仕事を始める。今日も監視はいるようだ。
セシリアが集中できるよう、気配を消して立っていると、セシリアが顔を上げて俺を見た。今見ていた書類で何か見付けたらしい。時期的にいって俺達の時の資料かもしれない。
セシリアが新しい書類を見るのに合わせて、さっきまで見ていた書類を眺めると、やはり俺達の事件だった。
8級への昇級試験を受けたのが
いかにも臭いな。
書類をセシリアに向け、10人というところと試験官のところに指を置くと、セシリアも頷いた。
あん時一緒に昇級試験を受けた連中の名前は覚えちゃいない。というより、名乗りあってすらいない。レイルと自己紹介したのだって、刺客を片付けた後だ。
幸か不幸か、受けた人間の見た目なんかは残されていないから、どれが誰だったのかもわからない。
そもそも、9級なんてマネージャーもいないから、顔を覚えてる奴なんてほとんどいないんだよな。
イリスんとこが8級なのに支部長にまで覚えられてんのは、牙猪の件に絡んだのと、俺達に関わったからだ。
なるほど、襲ってきた連中も9級の冒険者って肩書き持ってたのか。
だとすると、これの前の昇級試験の時に、こいつらの名前があったか知りたいとこだな。こんな手駒を何人も用意してるとなると、かなり大物が絡んでるってことだからな。
書類仕事に
セシリアは、次の昇級試験の書類を見てるらしい。ちらっと覗いた限りでは、特に問題はないようだが。
その書類を見終わったセシリアは、俺に向かって、片付けてくれと書類を突き出した。
受け取ったついでに眺めてみると、試験を受けたのは5人、そのうち3人が合格になってる。
当然というか、試験場所は全然違っていて、草原だった。試験場所がいつも同じってこたぁまずないし、当たり前と言えば当たり前なんだが。
この時は、薬草の採取か。ああ、よく似た外見で同じような場所に生えてる薬草をちゃんと見分けて採取できるかって試験なのか。だから、場所も指定、と。それもまぁ、おかしかないな。
…そうだよな。
なんで、あの時は洞窟コウモリの討伐だった?
そりゃあ、ソロなら戦闘能力が求められるが、そもそも8級のソロじゃ、大した魔獣の討伐なんか受けられないじゃないか。
となると、目的はあの洞窟で騙し討ちすることか? 誰を?
ソロの剣士を集めておいて、“魔法士が錯乱して魔法ぶっ放して全員生き埋め”なんて、話が通らないじゃないか。
少なくとも試験の場所で待ち伏せしていたんだから、ギルドの情報が漏れてたのは間違いない。
俺もレイルもそれを疑ってジールダに移ったわけだしな。
だが、情報を流すだけなら、ギルド全部が関わる必要はないよな。魔法陣の洞窟の時みたいに、マネージャーが漏らした情報でも十分なんだから。
…いや、待てよ。
やっぱりギルド全体、少なくとも上層部の誰かが関わってなきゃおかしい。
ソロの剣士の昇級試験を魔法士が受けたって書類に残ってんだ。誰がどう見たっておかしいのに、報告書1枚ですんで、しかも試験官だった冒険者がいなくなってる。
これが、たとえば俺やレイルみたいに、魔法を使えることを隠して剣士として登録してたってんなら、“魔法士が錯乱して”じゃなく“原因不明”になるはずだ。せいぜい“受験者の中に魔法を使える者がいた可能性がある”って推測する程度しかできないはず。なにしろ見てた奴はいないんだから。
…そういや、さっきの書類で、試験受けた奴の中に魔法士がいたよな。
そいつの素性を調べた方がいいな。
その日の作業も終え、宿で飯を食って、また俺達の部屋に集まる。
また音を遮断する結界を張って、手短に話した。
「俺達の時のことは、10人で試験を受けたそのうちの1人が魔法士で、錯乱して魔法をぶっ放して洞窟が埋まって全滅ってことになってた。捜索も救助もなし、担当した試験官は剣士で、責任を感じて姿を消したそうだ」
「なにそれ。
そんな怪しいのに、誰も文句言わないの?」
「ギルドの対応としては、かなり杜撰ですね。
これで支部長が了承のサインをしているというのは…。
ここの支部長もうちの支部長と同様、若い頃は冒険者をやっていて、腕のいい魔法士だったそうです。
一般に、冒険者あがりの支部長は冒険者を大切にするそうなのですが、とてもそんな感じではありませんね。
昇級試験中に事故があったとなれば、直ちに救助の冒険者を派遣するのが普通です。
今回の洞窟なら日帰りできますし、翌日駆け付ければ、助かる人だっているはずです。
それをしないというのは…」
「支部長、絶対関わってるよね」
レイルがばっさり切り捨てた。
「だから、明日、最近の事故とやらをじっくり調べないとな」
「そうですね」
できれば、俺達の洞窟と、事故の現場の1つくらいは見ておきたいとこだが…」
「僕だけなら行ってこれるけど、中入って調べるにはフォルスの力が必要だね」
…帰りに寄ってみるか。
夜、セシリアを組み敷きながら、小声で話をした。
「帰りに、俺達の洞窟と、事故で魔法が絡んでそうな現場を1つ見ておこう。
どうせ結果報告はジールダに戻ってから、直接本部に出すんだろ?」
「はい、そうですね。
どのみち、こちらの支部長には結果の報告はしませんから」
「もし、帰りに襲われたとしても、全力で守ってやる。安心しろ。誰にもお前を傷つけさせない」
「はい、信じています」
次回予告
1年半前、フォルスとレイルが出会った洞窟。リアンの監査で怪しい処理がなされていることを知ったフォルス達は、その洞窟を久しぶりに訪れる。
次回「ごつひょろ」19話「ジールダへの帰還」
洞窟で待つものは…?
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