18-2 リアンへの道

 リアンの街まで6日、特に問題もなく到着できた。

 まぁ、考えてみりゃ、いつ来るかもわからねぇ監査官を襲撃とか、できるわきゃないよな。

 念のため程度には警戒してたが、こういうのは何も起きなくて当たり前だ。

 道中、レイルはみゃあと遊んでる感じでお気楽なもんだった。“警戒すんのは君の仕事だからね、任せるよ”と、はっきり言ってきたのは、一緒に動いてるセシリアに聞かせるためだろう。俺達2人の役割分担は、あまり一般的なものじゃないからな。

 普通だと、2人組の場合、道中の警戒は2人でやるし、不寝番だって交代でやるから、あまり遠出はしたがらない。

 俺達の場合、俺に探索の結界があるお陰で、昼は特に苦労することもなく警戒できるし、夜も結界に侵入者が入らない限り、俺もわりとぐっすり寝ている。

 初めてセシリアを連れて歩いたのは一角馬の時だが、あん時はまだ単にマネージャーとしか思ってなかったから、手の内を見せるつもりもなかったし、細かいことは言わずに“警戒はしてるから、気にせず寝ろ”とだけ言ってきたからなぁ。

 岩の巨人の時も、“大丈夫だから任せとけ”しか言わなかったが、あん時ゃもうセシリアは俺に全幅の信頼を置いてたし。

 この前、俺が魔素を動かせることを支部長に教えたから、今回セシリアにはもう少し詳しい話をすることにした。


 「実は、俺は魔素の動きを見る力も感じる力も、並外れてる。

  この力を利用して、魔力を使わずにいくつかの結界を張ることができるんだ。

  簡単に言うと、周囲の魔素の動きを把握しとくことで、近くに何かいれば見付けられる。

  夜は、周囲の魔素を固定しといて、何かが入ってきたらわかるようにしてる。

  それに、姿が見えなくなる結界を張って隠れることもできる。

  こういうことができるから、俺達は不意討ちを食らう心配がまずないし、魔獣を見付けて先制攻撃を掛けられる。

  でなきゃ、魔狼やあの潰れたパーティーの奴らには勝てなかったろう」


 「そんなことができるものなのですか?

  あ、いえ、魔法陣が魔素を吸うなんてことに気が付くくらいですから、できるんですよね。

  魔素溜まりを見付けられるのも、その力ですか?」


 すぐに魔法陣や、魔素溜まりに目が行く辺り、やっぱ優秀なんだな。


 「魔法陣はそうだ。魔素溜まりの方は違うけどな。

  元々、魔素ってのは風が吹いたって動くもんなんだ。

  魔素溜まりが吐いたり吸ったりしてる魔素の量なんて、風が吹くのとほとんど変わらねぇから、よっぽど近くまで行かないと気付けねぇ。

  だから、魔素溜まりを探す仕事は嫌がるだろ」


 「てっきり、便利に使われるのが嫌で断っているのかと…」


 「なんだ、わかってるんじゃん」


 レイルが脇から口を挟んできた。


 「では、やはり…」


 「いや、それは違う。

  俺達は、元々名を売ろうとは思ってないから、変に高く評価されて面倒ごとを背負い込むのが嫌なだけだ。

  魔素溜まりを探すのは、本当に手間が掛かるから嫌いなんだ」


 「名を売る気がない、というのは、リアンでのことがあるからですか?」


 やっぱ鋭いな、こいつ。


 「そうだ。俺達はあっちで死んだことになってるからな。

  特に俺は、この右目のせいで目立つ。あっちじゃ剣士で登録してたから、そうそうバレないとは思うが、あまり目立つのはな」


 「剣士で登録というのは、ソロだからですか?」


 「ああ。魔法士のソロなんて、滅多にいないし、このガタイで魔法士なんて信じてもらえないしな」


 「なるほど。

  そうすると、今回、剣士という触れ込みでリアンに行くことになるのは、まずかったのでは?」


 おうおう、鋭いな、ホントに。


 「まぁな。もっとも、フォルスなんて名前はありふれてるし、剣士ならこのくらいのガタイは珍しくもないから、いいっちゃいいんだ。

  どっちかってぇと、気になんのは目だしな」


 言うと、セシリアは俺の右頬を撫でた。


 「この目、私は好きですけど、そうですね、特徴的ですものね」


 「あのさ、昼間っからそうやって雰囲気作るのやめてくんない? こんなとこでおっぱじめられると、さすがに困るんだけど。

  他人の情事なんて覗く趣味ないって言ったよね。そういうのは、せめて夜になってからにしてよ」


 脇からレイルがブッスリと刺してきた。

 いや、俺だってこんなとこで真っ昼間からことに及ぶ気はねぇって。


 「今の流れでそこまでいくわけねぇだろが」


 とりあえず言い返すと、レイルはしれっと

 「そうかなぁ? セシリアはかなりやる気に

なってるみたいだけど?」


なんて言いやがった。セシリアを見ると、顔を真っ赤にしてやがる。


 「おい、お前もそんな図星刺されたみたいな顔してんじゃねぇよ。

  レイルの格好の餌食だろうが」


 「あ…すみません、私は、別に、その…」


 気まずくなったせいで、しばらくは3人とも無言だった。

 一応言っとくが、リアンに着くまで俺達は何もしてねぇ。

 隣で寝てただけだ。

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