18話 リアンの監査
18-1 言っておくことがある
「すみません、お2人に無理に引き受けさせてしまって…」
家に帰ると、セシリアが謝ってきたが、セシリアのせいじゃないってわかってるから文句を言うわけにもいかない。
「まあ、リアンに遊びに行くと思えばいいんじゃない? こんなことでもないと行くことはなかったろうし」
レイルがお気楽な口調で言ってくる。
リアンにいたことは秘密ってわけか。まぁ、そりゃそうだよな。
「セシリアの方でわかってること、なんかないのか?」
支部長の様子からすると、最低限の情報だけよこして、できれば秘密にしておこうってネタがかなりあるはずだ。
話が進むにつれて言ってることが増えてきたから、間違いない。
「支部長は、私にも何も教えてくれないんです。
先入観なしで調べてほしいとのことで…」
ちっ! あのおっさん、本当に秘密主義だな! 生真面目なセシリアにそんなこと言やぁ、それ以上訊くわけがねぇ。
こうも何もかも秘密にされちまうと、本当に隠しておきたいのがどこなのか、まるでわからねぇ。
まぁ、少なくとも俺達をハメようってわけじゃなさそうだな。
リアンの支部が怪しいってのは、俺達も思ってたことだし。
明日は、出発の準備に充てることにして、明後日出発することにした。さすがに一刻を争うなんてこともないだろう。
セシリアが寝た後、レイルと2人で話し合った。
「セシリアが何も知らないってのは、本当だと思うよ。あいつが君に嘘吐くはずないもの」
「お前にそんなこと保証されてもなぁ」
「支部長が何考えてんのかはわかんないけど、
多分、セシリアがちゃんと不正の跡を見付ければってだけじゃなくて、できれば黒幕が出てきて僕らが返り討ちにするってのを狙ってるんだと思うけど」
「まぁ、そんなとこだとは思うが、俺がついてって大丈夫かって心配があんだよなぁ」
レイルはリアンにいた頃は髪が赤かったし、魔法士らしくローブのフードをかぶることもできるが、俺はなぁ…。
剣士には俺くらいの体格の奴はゴロゴロいるから、体格のことはまぁいいんだが、右目だけ金色ってのは、目立つんだよなぁ。まして、俺はあっちじゃ剣士として登録してたからな。もし、その頃を知ってるやつがいたら…。
「セシリアに、君の過去の悪行がバレるかもしれないもんね」
「そうそ…おい! 悪行ってなんだ、悪行って!
単にリアンで登録してたことがあるってだけだろうが!」
「そのリアンで、フォルスって剣士が昇級試験を受けてる最中に事故死したってことは? 一度登録してた奴が別の街で再登録していいんだったっけ?」
「悪いとは、どこにも書いてなかったはずだ。
10級からやり直しになる以外、何の問題もない」
「そうだね。だから、フォルス、腹をくくろう。
セシリアには、僕らのリアンでのことを話しておくべきだ」
「リアンで殺され掛けたことをか?」
「そう。出発前にね」
俺とレイルが出会い、組むきっかけとなった出来事。
どうして狙われたのかもわからないまま、念のため
冒険者の事故死を調べるとなれば、1年半前の事件に行き着くかもしれない。
「セシリアが調べて行き着く前に、か」
「君に隠し事されたって知ったら、きっと悲しむよ」
「たしかに、どうせ後でわかるなら、先に教えといた方がいいかもしれねぇな」
「逆にそれをとっかかりにできるかもしれないしね。あ、僕の
魔素を使い切ったあの時、レイルは変化に使っている分の魔力を身体強化に回すことで生き残った。
銀色の髪と金色の目、尖った耳。一度だけ見たレイルの素顔。それは、セシリアには秘密のままか。
「まぁ、いいか」
「僕は
言い方にはちょっとカチンときたが、レイルにとって、出生の秘密は考えたくもないものだろうし、仕方ないだろう。
「セシリア、今のうちに言っておくことがある」
朝になり、準備に忙しいセシリアを呼び止めると、怪訝な顔をした。
「なんでしょう」
「リアンの街で死んだソロの冒険者ってやつの中に、俺とレイルも入ってるはずだ」
「はい?」
何を言われてるのかわからないって顔だな。
「静かに聞いてくれ。支部長にはまだ秘密だ。
俺とレイルは、この街に来る前、リアンで冒険者をしていた。それぞれソロでな。
ある時、8級への昇級試験ということで何人か集められたときに顔を合わせたんだ。
そして、試験として洞窟に入った時、何者かに閉じ込められて襲われ、俺とレイル以外全員やられた。
俺とレイルは協力して、襲ってきた奴らを返り討ちにしたが、洞窟の天井に穴を開けて外に出たとき、外で待ってたはずの試験官はいなくなってた。
それで、俺達は襲撃にギルドが絡んでいる可能性もあると考えて、リアンを捨ててここで10級からやり直すことにしたんだ。コンビを組んだのはそこからだ。
昨日の支部長の話からすると、その後も何かあったようだが、俺達の前にも同じようなことがあったかもしれねぇ。
そのつもりで調べてくれ」
言われたとおり黙って聞いていたセシリアは、俺の目をじっと見詰めた後、
「わかりました」
とだけ答えた。
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