17話 東奔西走

17-1 北の森の魔素溜まり

 ようやく街に戻ってギルドに顔を出すと、早速支部長のところに案内された。


 「ご苦労だった。で、どうだった?」


 一ツ目の首と魔石の入った袋を出して


 「一ツ目で、腕が4本ある巨人でした。

  俺は知りませんが、支部長はご存じですか?」

と言ってやると、支部長は顎に手を当てて考え込む。


 「ギガントといったかな、たしか、ずっと南に生息している奴だったと思う。やはり妙なのがいたか。

  で、魔素溜まりは?」


 「ありましたよ。

  支部長の予想どおり、洞窟の中に。やっぱり魔素を吸うやつでした」


 「そうか、やはりな。

  では、帰ってきたところ早速ですまんが、北の森の魔素溜まりも確認してきてもらいたい」


 なんてこった。レイルの読みどおりか。ちらっと見ると、レイルが薄く笑ってやがった。

 と、支部長が森の地図を出してきて、一点を指さした。


 「ここに魔素溜まりがあることが確認されている。

  そいつが普通の魔素溜まりか、ここんとこ見付かっている魔素を吸うってやつなのかを確かめてもらいたい」


 ん? 魔素溜まりがあるってわかってんのか?


 「魔素溜まりはもう見付けてあるんですか?」


 「そうだ」


 「どうやって?」


 「無論、人をやってだ。この前の、イリスだったか、彼らに探させた。

  なに、魔素溜まり自体は誰にでも見えるんだ、探すことは可能だ。

  ただ、魔素を吸っているか吐いているかはわからなくてな。その確認を頼みたい。

  すまんが、早めに確かめてもらえると助かる」


 つまり、すぐ行けってことか。


 「明日でいいですか?」


 「もちろんだ。

  今日はゆっくり休んでくれ」




 浴場にレイルと行って、森の話をした。


 「探せとは言われないですんだな」


 「なんか焦ってる感じだったね」


 「焦ってたか? そりゃ、急かすとは思ったが」


 「おまけに、見付けたのも早過ぎる。

  僕らは“中腹の洞窟”って言われたけど、森の地図見たろ? 周りに目印なんかありゃしない。

  魔狼がいたところとも違う」


 よく見てるじゃないか。


 「つまり、目星は付いていた、と」


 「イリス達に探させたってことは、僕らの出発とそう差がない。森を端から端まで探したら、何日掛かるかわかったもんじゃない。

  “この辺を探せ”って指定したはずだよ」


 「イリス達に訊いてみるか?」


 「口止めされてるよ、きっと。

  多分、支部長は、何か裏があるのを知ってるんだ」


 裏ねぇ。


 「裏ってなんだよ?」


 「バッカじゃないの?

  僕にわかるわけないだろ。

  普通じゃない、多分人の手で造られた魔素溜まりだってことと関係あるとは思うけど」


 「人が造った魔素溜まり、か。

  その前提でいくと、誰かが何か企んでるってことになんのか」


 「そういうことになるね。

  支部長がどこまで知ってるのかはわからないけど」


 「いつの間にか、人が魔素溜まりを造れるって話になっちまってるのが、なんつうかなぁ」


 「魔法陣のあった洞窟に魔素溜まりができてたってのが大きいんじゃない? あそこに自然に魔素溜まりができるとは思えないんだから」


 ん~、まぁ、たしかにあれだけ人の手が入りまくった洞窟に、自然に魔素溜まりができるとは思えねぇよなぁ。


 「なんで魔素溜まりなんか作るんだろうな」


 そもそも、普通の魔素溜まりだって、どうしてできるのか、あるとどうなるのか、わからないってのに。


 「なんで造るんだろうね。

  仮に、魔素溜まりから魔獣が出てくることを期待してるんだとしたら、牙猪なんて随分とショボいよね」


 たしかに。魔狼に岩の巨人、一ツ目の巨人なんかはともかく、牙猪の一家なんて、全然脅威じゃない。まだオーガの方が…

 「ん? そういや、オーガのいた洞窟には、魔素溜まりなかったよな」


 「あのオーガは、誰かが連れてきたもんだろうからね。餌もあったし、毛色が違うんじゃない」


 つまりは、貴族のお坊ちゃん達が狙いだったってことか。まぁ、筋は通るな。


 「んで? 例の洞窟の魔法陣がどうなってんのかだが」


 「近くで戦ったし、あいつらがいたわけだし、なんかの加減で線が消されてたとか?」


 俺達が見るよりも前にってことか。

 たしかに、それなら俺が書き写した紋様では動かなかったってのもわかるが。


 「たらればばかりで、どうにもならねぇな。

  だとしたら、今回魔素溜まりができた理由も、説明のしようがないってことか」


 「証拠はないけど、説明のしようはあるんじゃない?

  中途半端だったから一拍遅れて魔素溜まりができたとか、もう一度魔法陣置き直したとか」


 可能性だけなら、どうにでもなるか。


 「考えてみても始まらないな。

  んじゃ、とっとと確かめて帰ろうぜ」


 「セシリアのところに?」


 「だから、そういうのやめろって」




 結局、北の森の魔素溜まりも、魔素を吸い込むものだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る