17-2 洞窟の魔素溜まり
戻って報告をすませると、予想どおり次の仕事を告げられた。
これも予想どおり、魔法陣のあった洞窟の確認だ。
「行ったら、また見たこともない魔獣がいたりしないでしょうね」
嫌みったらしく言ってやったら、支部長はニヤリと笑った。
「なるほど、それは気が付かなかった。
先日人をやった時にはいなかったが、今はどうかわからんな。
よし、もし妙なのがいたら、討伐も頼む。出来高払いにするからな」
まったく、いいようにあしらわれてんなぁ。
本来だと、一仕事終わったら休みを入れるんだが、今回は魔法を使うようなこともなかったので、休みを入れずに翌朝出発することにした。
浴場には行ったが、レイルは夜遊びせずに家に戻ってる。
「いいのか? 出掛けなくて」
なんの気なしに訊いたら、
「なに追い出そうとしてんのさ。
心配しなくても、覗かないって」
とからかわれた。
べつに、覗かれる心配なんざしてない。
ただ、最近レイルの夜遊びが減ってきたような気がしたから訊いてみただけなんだが。
セシリアの方は、ここんとこ俺が頻繁に帰ってきて時間が取れるのが嬉しいらしい。
ギルドにいる時と全然雰囲気が違う。
おまけに、最近はレイルが近くにいても俺に甘えてくることがある。
レイルが同居してることを気にしないでくれるのはありがたいが、ほかの男の目があるってことはもう少し気にした方がいいんじゃないか?
翌日、セシリアに熱烈に見送られ、上機嫌のレイルにからかわれながら、洞窟へと急ぐ。
「“お帰りをお待ちしています”だってさ、くくっ。
いやあ、愛されてるねえ」
「なんか文句あんのか」
憮然として答えると、ますますニヤニヤしてやがる。
「べっつに。
ただ、素直に甘えるようになったな~ってね。
いい感じじゃない。あの堅物があんなに可愛い女になってさ。
君の帰る場所って感じじゃない」
こいつ、ホントにセシリアを嫌わなくなったなぁ。
最初は、一緒に住んで大丈夫かと思ったんだが。
こんなにからかってこなけりゃ、もっといいんだがなぁ。
“ある”とわかってりゃ、みゃあを先行させる必要もない。
念のため、妙な魔獣がいないか警戒しながら奥へと進んだが。反応はない。
奥には、やはり魔素を吸い込む魔素溜まりがあった。
位置は、魔法陣があった場所と同じ。置き直したのか、魔法陣があった場所にできただけなのかもわからない。せめて別の場所なら、置き直したんじゃないかと思えるんだが。
「ここもか」
「ま、予想どおりだね」
「魔獣はいなかったな」
「なに? いてほしかった?」
「いや、いたら、置き直した可能性が高くなるかと思ったんだが…」
話しながら出口に向かい、もうじき外という辺りで、レイルの腕の中のみゃあが飛び降り、毛を逆立てて唸った。…背後に向かって。
探索してみると、魔素溜まりの方から何かがやってくる。
「何か来る」
レイルに一言告げると、剣を抜きながら嬉しそうに笑った。
「よかったじゃない。
魔素溜まりから出てきたみたいだよ」
「大きさは人間くらい、多分、立って歩いてる。
ん? 魔素をかなり吸い出した? まさか、魔法か!?」
言い終わるか終わらないうちに、風の刃が飛んできた。
またあの魔法士のなれの果てなのか?
体は回収したのに。
姿を見せた魔獣は、立って歩く死体だった。
鎧どころか服も着てないみたいだ。
「よし、魔素をなくしてみるぞ!」
この前試したのをまたやってみよう。魔法士みたいなもんだから、少なくとも魔法は使えなくなるはずだ。
周囲の魔素がなくなった途端、死体は前のめりに倒れた。
あれか、岩の巨人と同じで、魔素がないと動けないのかもしれないな。
「レイル、魔素を戻してみる。
立ち上がるようなら斬ってくれ」
「わかった」
魔素を戻してみると、死体はノロノロと立ち上がった。
また魔素を吸い始めた、と思った瞬間、レイルが駆け込んで首を斬り飛ばす。
今回は、相手が死体のせいか、みゃあが近付こうともしない。
岩でも平気で行くくせに、死体なのはわかるらしい。
首に状態保存の魔法を掛けた後、魔石を掘り出すと、パッとみゃあがひったくっていった。なんだ、チャンスうかがってやがったのか。
半分腐ったみたいな首は、どんな顔だったのかもわからないくらい傷んでいる。
それはそれでしょうがないが…。
「あの魔法士のなれの果てだったのか、別なもんだったのか、わかんねぇなぁ」
「何が出てくるとか、どうやって決まるんだろうね」
今回、何もいなかったはずの洞窟の奥から死体が出てきた。
魔素溜まりから出てきたのか、どこかに隠されていたのかわからないし、そもそもなぜ死体がいるのかもわからない。
結局、魔素溜まりがどうやってできたのかさえわからないままだった。
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