15-R 巨人の襲撃(サンドラ視点)

 魔物の死体の回収の護衛の指名依頼を受けることになった。

 あたし達は、まだマネージャーがつくような上級者じゃないけど、時折こうして指名の依頼が入ってくる。

 なんでも、レイルさん達が倒した魔物がかなり特殊なやつだったから、回収して調べるんだそうだ。

 死体っていうか、残骸らしいんだけど、石の塊が動いてたって、そんなもん動くのか?


 「ギルドの資料には、それらしいのはないな」


 いつものとおり、イリスとミュージィはギルドの資料室で岩の魔物ってやつを調べたけど、それらしいものはないそうだ。

 そりゃ、ギルドがわざわざ残骸を回収しようなんて思うくらいなら、資料になんて載ってないだろうさ。

 セシリアさんを頭に、5人の石工と4台の荷車で出発する。

 往復込みで7~8日はかかるだろうってことで、保存に向いた食糧と薪をたっぷりと荷車に積んである。

 目指す岩山の方には、ほとんど魔物は出ないから、ある意味おいしい仕事だ。




 現場に着くと、開けた場所に、膝から上がない足が2本と、大きな四角い岩の塊が1つ、あと、拳みたいなのが先っちょについた石の棒みたいなのが2本、落ちてた。こんなに大きいって、元はどんな大きさだよ!

 どれもこれも綺麗な断面で、「どんなもので切ったらこんなに綺麗な断面が…」なんて石工が驚いてる。


 石工は、ノミを岩に突き立ててハンマーで叩いて少しずつヒビを入れて割るみたいだ。

 半日かけて足1本が半分に割れたけど、たしかに断面はかなり荒い。

 それに比べて元の断面は、割った後で磨いたんじゃないかってくらい綺麗だ。

 よっぽどの大斧で割ったのかねえ?

 待てよ、こんなんが出てきたら、あたし達じゃ戦えないじゃないか。

 剣も弓も通じないだろよ。

 剣と同じくらいの重さの鉄の棒は渡されたけどさ、こんなんで叩いたって岩を砕けるわけないじゃないか。




 到着した翌日、山の左上側を見張ってたミュージィが大声を上げた。


 「でっかいのが来る!」


 脇で岩をガンガン叩いてるせいで音なんかロクに聞こえないから、目が頼りだ。

 あたしとミュージィで山の上の左右をそれぞれ見張って、イリスは麓を見張ってた。

 ミュージィの言葉に、石工は作業をやめて、セシリアさんの方に下がっていった。

 あたしとイリスは、剣を鞘に戻し、鉄の棒に持ち替えてミュージィのところに行き、ミュージィはイリスの後ろに移動する。

 ミュージィが見付けたものを見ると、本当に岩でできた巨人がこっちに向かって歩いていた。

 一歩一歩踏みしめるように、ゆっくり歩いてくる。

 あれ、あたし達に気付いてないんじゃないか? ていうか、あいつに耳とかあんのかね。


 「こっちを目指してるってわけじゃなさそうだな」


 「静かにしてたら、通り過ぎてくれるかも」


 イリスとミュージィが話し合って、セシリアさん達にはもう少し離れて隠れてもらい、あたし達も残骸の近くにしゃがんで動かないことにする。

 なんていうか、巨人はまっすぐ歩いてるだけに見えるから、もしかしたらあたし達には気が付かないで通り過ぎるかもしれない。


 だけど、やっぱり甘かった。

 突然、巨人が歩くのを早めた。ズン、ズン、という感じだったのが、ズンズンズン…という感じに速くなってる。

 近付いてくると、大きさがわかってきた。

 あたしの倍近い巨体だ。

 いつでも飛び出せるように鉄棒を握りしめて待つ。

 うわ、また速くなった。

 巨人は、あたしに向かってまっすぐ走ってくる。

 もう、ドドドドド…ってくらいの速さだ。

 なるべく引き寄せてから避けた方がいいだろう。あれだけの図体だし、試験の時の牙猪と一緒で、簡単には止まれないだろう。

 来た。………今だ!

 目の前まで来た巨人を、跳んで避ける。けど、思ったより簡単に止まった。

 ズシズシと音を立てながら足踏みするように向きを変えて、またあたしに向かって走り出す。

 避けたついでに鉄棒で叩いてみたけど、こっちの手が痛いだけで、あっちは痛くも痒くもなさそうだ。

 近くで見ても、目もなさそうなのに、こいつ、どうやってあたしを見てんだ!?

 イリスも一緒になって何回か避けてるうちに、巨人はミュージィを見付けたようで向かっていく。「ミュージィ!」と叫んだイリスがミュージィを庇って巨人に殴られた。

 殴るっていうより、前に突き出した拳が鉄棒をへし折ってイリスの胸に当たったって感じだ。


 「「イリス!」」


 あたしとミュージィの悲鳴が重なる。

 その時、あたしの脇を風が通り抜けた。

 風のように走り抜けた人影は、イリスを吹き飛ばした巨人の拳を、肘のところで斬り落とした……え!?

 あれ、剣だよな!? 剣で岩が斬れんのか!?

 人影は、さっと巨人から距離を取って剣を構え直す。すると、巨人は人影に標的を変えたらしく、人影に向かっていく。

 人影は、巨人を避けざまに剣を左手に振り下ろしたけど、弾かれた。


 「怪我人、下がらせろ!

  こいつは、僕が相手する!」


 あの声は、レイルさん!

 レイルさんは、巨人を少しずつイリスから離すように動きながら剣を振るうけど、さすがに最初みたいには斬れないみたいだ。

 でも、あの巨人に剣をぶつけて折れないなんて、どんな剣筋してんだ?

 巨人は、短距離の突撃で敵を吹き飛ばす戦い方をするらしい。

 レイルさんはうまいこと避けてるけど、攻撃も通じてない。

 今のうちにイリスを安全なところに下げないと。

 ゆっくりイリスのとこに動いて、ミュージィと2人でイリスを下げる。

 そうしているうちに、「レイル!」とフォルスさんの声がした。


 「こいつ硬い! 早いとこ止めないと1人死ぬ!」


 レイルさんが、フォルスさんに状況を伝える。…死ぬ? それって、イリスのこと!?

 ギョッとしてレイルさんを見ると、まだ遠くにいるフォルスさんが「広くやるから気ぃつけろ!!」と叫ぶと同時に、巨人の動きが止まった…ように見えた。何かの魔法か!

 同時に、レイルさんは巨人の左足を簡単に斬り裂いた。じっくり構えて振り切ったからだろう、さっきまでの苦戦が嘘のように巨人は片足を失って倒れた。

 セシリアさんがフォルスさんを連れてきてくれた。フォルスさんの魔法で、イリスの傷がみるみる治っていく。

 すごい。右腕も肋骨も酷い状態だったのに、フォルスさんの「1本…2本…」という声と共に治っていく。凹んでいた胸は元どおり、みたいだ。

 その代わり、フォルスさんは顔色が悪い。以前、魔法を使うのはすごく疲れるって言ってたけど、本当に大変なんだ。



 結局、フォルスさんの魔法でイリスの骨折は全部治り、巨人も倒せた。もちろんレイルさんもすごかった。レイルさんが来てくれなかったら、あたし達は全滅してた。

 その夜は、念のためってことで、石工を真ん中に、あたし達3人、フォルスさんとセシリアさんの2人、レイルさん、で三方を警戒することになった。

 セシリアさんとフォルスさんは、今後の予定について話し合うって言ってた。

 レイルさんとフォルスさんがいれば巨人も怖くないから、明日以降も作業を続けて巨人1体分の残骸を持ち帰るんだそうだ。

 ただ、胴体は今日のを持って帰るんだって。




 2日目の夜、レイルさんが上半身裸になって猫とじゃれ合ってた。

 なにやってるのかわからなくてフォルスさんに訊いたけど、「趣味だから気にすんな」ってごまかされた。

 レイルさんが意味もなくあんなことするはずないんだから、きっとあたし達に知られちゃまずい何かがあるんだろう。

 街に戻ったら、ミュージィにでも調べてもらおう。




 街に戻ると、支部長直々に、今回の件は詳しいことがわかるまで絶対に誰にもしゃべるなって言われた。

 下手にしゃべると、ギルドから追放されるそうだ。

 イリスは


 「もしかしたら、あの巨人を造った奴を捕まえようとしているのかもしれない」


って言ってた。

 イリスの傷は、もうすっかりいい。

 6級冒険者の強さをまた見せつけられたけど、あのレイルさんだって、巨人が動いてるうちはうまく斬れなかったんだ。腕を上げれば、いつかはあたしだって…。





次回予告

 今度は東の山に巨人が出現した。

 岩の巨人との戦いで見付けた技で、2人は立ち向かう。

 そして、ここにも魔素溜まりが。

 次回「ごつひょろ」16話「一ツ目巨人」

 「次は、魔狼の森で魔素溜まり探しだよ、きっと」

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