16話 一ツ目巨人
16-1 東の巨人
巨人騒ぎから戻った後、いつもより長く10日、じっくり休んだ。
なにしろ限界まで身体強化を使って走り続けたから、疲れ方が尋常じゃない。
元々、魔法を使うときの負担を俺は“息を止めて全力疾走するような”と喩えている。
それが、文字どおり全力疾走しながら魔法を使うとなれば、疲れ方は倍だ。
この前は、状況が状況だけに、身体強化が維持できなくなると普通に走って、少し回復したらまた身体強化を使う、なんて無茶をやったから、滅茶苦茶体力を消耗したんだ。正直言って、あんな無茶な走り方のできる魔法士は滅多にいないだろう。
レイルみたいに1日中身体強化を使ってられる変態はほかにはいない。はずだ。
あいつの場合、寝ている時でさえ身体強化を使いっぱなしだ。
変化することで常に全身に魔法を使っていて、それを隠すために常に身体強化も使っているからな。
もっとも、身体強化を使わないと、その辺のガキより力が弱いみたいだから、必要に迫られてって面もあるんだろうが。
一度だけ見たレイルの素顔は、耳が尖ってた。つまり、純粋な人間じゃない。
細かいことは聞いちゃいないし、訊く気もない。亜人との混血とかってバレたら面倒なことになるだろうしな。
俺だって、右目だけ金色だからってことで色々言われたから、気持ちはわかる。
俺は、からかってくる奴は力で黙らせたが、レイルはそういうタイプじゃないだろうしなぁ。
ともかく、ゆっくり休んでようやく体調を回復させたところで、またしてもセシリアから、というか支部長から呼び出された。
こう、やっと回復したってとこで、待ってたかのように呼び出されると、セシリアが俺の体調管理までやってんじゃないかと思っちまう。
いや、まぁ、基本、自分のためっつうか、色々と推し量ってる気がするが、支部長から、俺が本調子に戻ったら報告しろとか言われてんのかもしれねぇなぁ。
「んで、今度はなんです? まさか東の山にも巨人が出ましたか」
開口一番、嫌味っぽく言ってやった。アテにされんのはいいことだろうが、便利屋と間違われんのはいただけないからな。
ところが
「よくわかったな、そのとおりだ。
もっとも、今回は岩じゃなくて本当に巨人だそうだ。大きさは同じくらいらしい」
嫌味も通じねぇってわけじゃなくて、本当に巨人が出たらしい。
「いったいこの街はどうなってんです?
魔狼に牙猪、オーガに一角馬に岩の巨人。本来いるはずのない奴が目白押しじゃないですか。
もしかして、ここらはいらない魔物の捨て場所にでもなってんですか?」
「そのどれもに絡んだ君が言うと、説得力があるな。
せっかくだから、巨人は隣町にでも捨ててきてくれ」
「荷車と人足を貸してくれるなら」
「そうだな。どうやって運んでいるのか、誰かに教えてもらいたいものだ」
まぁ、確かに。
生きてる巨人を山に運ぶってな、かなり無茶な話だ。
岩に比べりゃ軽いだろうが、眠らせたとしても、そんだけの図体の生き物を運べるか? 途中で目を覚まされた日にゃ、朝飯にされちまうぞ。
「今回は生き物だし、魔素溜まりから出てきたってこたないでしょうし、不思議なもんですねぇ」
「いや、案外そうかもしれんぞ」
はぁ? 生き物が魔素溜まりから出てきたってのか?
「どういうことです?
例の魔素溜まりについて、何かわかったんですか?」
もしかしたら、この前の魔素溜まりについて、何かわかったのかと思って訊いてみたが、支部長は首を横に振った。
「残念ながら、まだ何もわかっていない。
だが、この前の君の見解は非常に興味深かった。既に牙猪と岩巨人の2回、いるはずのない魔物の近くで魔素溜まりが発見されている。
そこで、君の言葉にもしやと思って調べさせたところ、例の魔法陣のあった洞窟にも魔素溜まりができていた」
あそこにも魔素溜まりだって!?
「いつからです?」
「見付けたのは6日前だ。
君の報告から、もしやと思って確認させたのだが大当たりだった。今のところ、魔獣などは確認されていないが」
「確認した方がいいでしょうかね」
魔素溜まりが普通のやつかどうかを確認した方がいいかと訊いてみた。
「この件が片付いたら頼みたいが、とりあえずは東の巨人だ。
討伐自体は大したことはなかろうが、その後の魔素溜まりの捜索の方もよろしく頼む」
「あるかないかもわからない魔素溜まりを探すんですか? かなりの手間なんですが」
支部長は簡単に言ってくれるが、魔素溜まりは俺では見付けられない。
みゃあなら見付けられんのかもしれないが、それにしたってある程度近くに行かなきゃ見付からないんだ。
「支部長は、魔素溜まりがあると思ってんですか?」
はっきり訊いてみた。
正直、見付かったら儲けもの、みたいな考えなら、断りたいところだ。
「恐らくあるはずだ。
山の中腹を中心に、2日でいい、探してみてくれ。
2日で見付からないようなら、戻ってきてもらって構わない」
支部長の口ぶりは、それなりの自信がありそうだ。
一体どういうことなんだ?
「それは…2日ありゃ見付かるだろうってことですか?」
「そうだ。山の中腹に洞窟があったはずだ。そこの周辺を探してくれ。
それなら2日もあれば足りるだろう」
なるほど。洞窟があるってわかってんなら、そこだけ調べるのもありか。
「わかりました。それじゃ、洞窟の周辺だけ。
正直言って、よほど近くに行かないと、魔素溜まりを見付けるのは難しいんで」
「それで十分だ。
よろしく頼む」
いいように使われてるなぁ、まったく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます